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魔導師のお仕事  作者: 宮森美姫
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灰被りの山1

ルメス帝国最西端に位置するウェストスレイブ州、その中心にあるグラスシューズという街に向かう馬車に一人の青年が乗り込んでいた。

その青年はルメス帝国には珍しく、瞳と髪が黒かった。着ているコートとズボンの裾は擦り切れ、履いている靴の裏は削れて平らになり、背には怪しげな箱を背負い、馬車の揺れも気にせず本を読みふけっている。

そんな様子を見て、御者は内心でため息をついた。

厄介そうなお客が来てしまった。

彼の経験則では貴族や、胡散臭い人間に関わるとろくな事がない。

貴族は馬車が多少、遅れたり、揺れただけでヒステリックに騒ぎ、胡散臭い客は憲兵と他の厄介者を引き寄せる。

しかも今度の客はあからさまに胡散臭い!

アルフォンス・エルとか名乗っていたが恐らく偽名だろう。

(大金を積まれなければ乗車拒否してやったのに。)

そう後悔しているうちにグラスシューズの街が見えてくる。

「お客さん、もうすぐグラスシューズですよ!」

そう声をかけるが返事はない。

(態度の悪い野郎だ。)

客の態度に腹を立てている内にグラスシューズに着いた。

「着きましたよ、降りて下さい。」

客に声をかけるがまたも返事はない。

「お客さん、降りてくれないと次の仕事に行けないんですが。」

なおも返事はない。

途方に暮れていると後ろからポンポンと肩を叩かれた。

振り向いた御者の顔から血の気が引いた。

後ろに何人もの憲兵が立っていた。

「失礼、この馬車に乗っている方の名前を確認したいのですが。」

引いたと思っていた血の気が更に引いた気がした。

やっぱり乗せるんじゃなかった。

恐らく自分はお尋ね者を乗せてしまったのだ。

「たしか、アルフォンス・エルと名乗ってましたが…。」

ジャリッ

後ろから砂利を踏む音がして振り向くと、件の青年が立っていた。

その姿を見た憲兵全員が一斉にひざまずいた。

御者はひどく混乱した。

コイツはお尋ね者じゃなかったのか!?

そんな様子を見て件の青年、アルフォンス・エルは笑いをこらえるような表情をしていた。

「人を見かけで判断するとバカを見るとおわかりいただけたようで何よりだ。さて、お出迎えご苦労、憲兵諸君。」

「このたびは遠路はるばるよくお越し下さいました。

セジュ侯爵が屋敷でお待ちです。」

「マガンおじさんも人使い荒いよね。君たちも大変じゃない?」

「お気遣いありがとうございます。屋敷までは我々が責任を持ってお送りします。」

そんなやり取りをしつつ、謎の青年と憲兵たちはその場を去っていった。

御者はしばらくその場で呆気にとられていた。

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