中節 大会の傍らで
オオスズメバチの巣の幹部、ユリハネ・メルティシアは大会の地下に密かに入っていた。
国家が管理する秘密裏のルートを破壊して通り込んだのであった。
秘密裏のルートは政府が管理し、大会の警備者が入口を封鎖してるが、警備者を殺し侵入することなど造作もなかった。
ルートの場所は大会の管理責任者室の下にある秘密通路。
責任者は貴賓室で大会を見てるので容易に部屋に入ることもできた。
今頃、政府はそのことに感づいてるだろうがもう遅い。
「爆弾設置の準備できました」
背後から『オオスズメバチの巣』構成員である部下がユリハネに伝達を行う。
「ご苦労様デスワ。あとは大会が優勝と同時に私の影武者がこちらに戻って、リーアが会場を混乱に陥れてる中で目標のターゲットを暗殺すれば完了デスワネ」
ユリハネは目の前にそびえる大きな球体状の機械を見上げる。
ピンク色の発光現象を伴い駆動音をあげるその球体はこの世界に魔法を行き渡らせている世界の根幹の一つである機械。
いわば、異次元ゲートを維持してるのもこの機械で成り立っている。
「異次元ゲート、100年以上昔に突如として出現しこの世界を作り上げることに至った象徴現象。その異次元ゲートは長いことその場にとどまらせることはできなかったことをご存じデス?」
背後の部下にユリハネは説いた。
部下は首を横に振った。
「知らないアル」
「それはそうでしょう。政府機関がそのことを隠したのデスワ。混乱を招かないように。異次元ゲートは当時は魔法と亜人の共有する生活を作る上での大事な象徴デシタワ。けど、あるときその異次元ゲートが消失しかけてることを政府の研究機関が発見し、政府は異次元ゲートを維持させるためにどうするべきか大波乱に包まれたマシタワ」
「それを維持するために政府が作ったのがこのマジックボックスでアル?」
「ええ、そうデスワ。表向きは世界に魔力を行き渡らせる昔にあった電線や電力供給の電波塔のような仕組みの魔法版といったところで表向きは説明されていますけど実際は今じゃあこれなしで世界は成り立たない。異次元ゲートの維持や魔法の伝達、自然界に魔力を道させる有力な機械デスワ。現状この機械を管理してるのは電子工学システム管理担当者室長、可能陽一デスケド」
「では、彼を殺せばいい話アル」
「そうはいかないんデスワ」
「なぜアル?」
「彼はこの機械の生成者。もし、彼が死ねばこの機械も消滅するプログラムが組み込まれてマスワ」
「な、なぜそのようなことを?」
「上の話では彼が――」
ユリハネは言葉を止め上を見上げた。
「誰かきそうデスワネ。クロアナバチ、キンモウアナバチ。奴らを食い止めるんデスワ。とことん暴れていいデスワ」
そう言われて中華服に身を包んだ部下2名が動き出す。
その人物の片側は先ほどユリハネと親身に言葉を交わしていた者。
「「了解アル」」
ユリハネは球状の機械――世界の根幹を担うマジックボックスを必死でハッキングしようとしてる部下を見る。
その部下を動かしてる班長へ問いかけた。
「進行状況はどうデスノ?」
「今のところ順調や。けどな、なかなかに固いブロックしとるでェ。ホンマに来ないなもののとっていけば、世界征服できる言い張りますけど難しいでっせ」
「無理は承知デスワ。それをやらないとワタクシたちの目的は無意味に終わりマスワ」
「わかってはるで。くそ。なかなかしつこいで政府の情報チームは」
ユリハネは部下のがんばりを期待して身を翻し、上へ歩いていく。
「ボス、どちらへ?」
「暇ですので遊んできマスワ」
そう言ってユリハネは上へ登り消え去った。
*******
テロ対策係室及び電子工学システム管理担当者室、警察機関は大会の内部に隠された極秘機械に異常な警戒センサーを感知したために行動を起こしていた。
まず、可能陽一が率いる電子工学システム管理担当者室はシステム内部からの攻撃に即時対応し世界の魔力システム(医療機関などで使われる機密データなどの収束バックアップみたいなもの)が奪われないようにする。
「とことんブロックをかけてウィルスは極力ながすな。マジックボックスにもしものことがあれば一大事であることを考えるんですよ」
可能陽一の指示で電子工学システム管理担当者室の人員たちは必死でタイピングを行いまくる。
その傍らでテロ対策室も動き出す。
婁紀彰が率いる部隊であるこの組織はまず、真っ先に敵が爆破物をしかけてることを情報で知り得ているのでその捜査に当たる。
マジックボックスへ向かうのは伊豪政宗の率いたSWATの部隊。
伊豪はちょうど、大家会管理責任者室に行く途中の廊下で立ち止まった。
ふたりの中華服の身につけた美少女がいたからだ。
「おまえらを逮捕する。武器を捨て今すぐ投降しろ」
「‥‥‥‥投降しろネ」
「まったく、力量を図ってからほざくことアル」
その瞬間目の前にいた敵が消え、SWAT隊員の一人が血を吹き出し倒れた。
「総員固まれ! 敵を見つけ次第発泡を許可する!」
神経を研ぎ澄ましわずかな音でも感知できるように聴覚を強化させていく。
カタンッ。
その瞬間一点の柱に向け銃撃の嵐が飛び交った。
しかし――
「あはは、バカアル」
「‥‥‥‥たしかにネ」
SWATの人員がどんどんと見えない刃に切り裂かれ血にそまり倒れていき減っていく。
体が震え伊豪は汗ばみながら腰に携えた刀を引き抜く。
「刀を抜いたからといってなにになるアル」
伊豪は目を伏せて相手の動きを感測する。
「‥‥すきだらけネ」
横合いから来た刃を刀で受け止めた。
ステルス迷彩がかかってたかのようにその存在は透明から存在があらわになっていき中華服の美少女が浮き出てきた。
SWAT隊が隙をついて発泡。
彼女の体の数カ所に風穴を開け血が糸を引く。
「シェンファ!」
もうひとりがどこから叫んでるかわからない。
負傷した彼女が飛び退きコチラと距離をとった時にはもうその存在はまた消え去った。
すると、だんだんと気配が薄れ彼女たちが逃亡したことがわかった。
「隊長!」
「まだ、近辺に居るはずだ。すぐに2班に別れ移動を開始する。A班は私とマジックボックス側に。B班はさきほどの連中の捜索を再開しろ。いいな」
『了解』




