D戦本戦決勝戦試合 第3戦目 終幕
ウィンナ・グローズとSDの試合は一方的な凄惨な状況だった。
SDの武装魔法は二双の槍。それぞれ、片方に風の魔力が竜巻のようにまとわり つき、もう片方に電流の魔力がほとばしっている。
明らかに誰もが見てわかる。彼女が風と雷属性のタイプを有していること。
その二双の槍を交互に振るって、ただひたすらにウィンナを攻めていた。
ウィンナはその素早い槍の動きについて行けていないようなのか一方的にダメージを負い続けていた。
ウィンナはそんな状況下で過去を振り返って不気味な笑みを浮かべた。
何回目かの強烈な二双の槍の合体攻撃が風雷の攻撃がサイクロン上になって腹を貫通させたあとにSDは間合いを取った。
それでも、ウィンナは血反吐を吐きながら笑い続けて言う。
「いてぇなぁ、けどぉもっとオレをその痛みで怒らせてくれやぁ。アハハハ!」
気が狂ってるとしか思えないセリフ。観客たちもウィンナのセリフは聞こえないまでもその不気味な笑みまでは見え突然の交渉にどうしたのかと騒ぎたてる。
ウィンナのギロっとした血にまみれた瞳は観客に向けられ、観客は恐怖をし息をのんでシーンと静まり返る。
「ちっ、オレはいたって平然だっての。つーかぁ、なんでお前は一言もしゃべらねぇんだ? SDさんよぉ、この戦いをもうちっと楽しもうぜぇ」
「‥‥‥‥‥」
MDの最初の衣服同様、SDもまた黒いフードつきのコートをまといそのフードの下の素顔は仮面で隠されてる。その仮面も三日月の笑いの顔を浮かべる紳士といった仮面。
あまりにも不気味すぎる。
しかし、不気味さでいえばまだウィンナの笑いの方が観客たちにとってはそっちのほうが不気味だった。
「ちっ、無視かよ」
ウィンナは面白くなく、血にまみれた体をくまなく触り傷をいじくりだし、そして――自らの腕を途端につかみだすと、一つの嫌な音が響いた。そのあとにはウィンナのぶら下がった右腕だけがある。
それをみたSDが初めてここで驚くように身じろぎする。
「ちっ、いってぇー。あんたの反応見たくてつい腕折っちまったぜぇ」
「‥‥‥‥‥何がしたい?」
「やっとしゃべってくれたなぁ? うれしいぜぇ」
「‥‥‥‥ふん」
きれいな鈴の音色の様な声がSDの口から洩れた。初めての会話がもたらされた。
しかし、会話のきっかけはあまりにも狂気な行動から始まったものだ。
観客もその行為を見ていて鳥肌ものだった。
実況ですら言葉を失い間合いを取って戦闘をやめ会話を始めてしまった両者に見入っている。
「‥‥‥‥もう一度問う。何を考えてる? ‥‥‥‥貴様の行動は不可解。‥‥理解不能デアル」
「あぁん? 何も考えちゃいねぇよ。オレはただ戦いを楽しみ組織において上位のあんたにオレの実力を示したいだけさ」
「‥‥‥‥まるで、手を抜いてここまで来たような口」
「ああ、だからそういってるんだぜぇ」
観客には彼女が何を言ってるのかはよく聞こえないそれは無論実況者にもだ。
しかし、そばにいる審判役は聞こえており、思わずウィンナ選手を二度見してしまった。
「本当言うとこういう戦いを待ってたんだぜぇ。なんで、あんたみたいなヤツが上でオレが下なんだってずっと思ってた。組織内の争いは禁じられてる上に実力は示せない。でも、今回それがかなったってわけだ」
「‥‥‥‥‥それで、証明して私に勝てると?」
「ああ、そうさ」
「傲慢な考えね」
SDはウィンナの自身のあった言葉をバカなセリフととる。
叶うはずもないのにその満ち足りた表情を今すぐにでも崩れさるというのに。
「‥‥‥‥‥証明できるならすればいい。けど、勝つのは私」
「それはどうかなっ!」
突然、ウィンナから膨大な魔力オーラが立ち上った。それは奔流となって試合の選手を加工スタジアム上に充満し始めた。
燃えるような赤い火それは色を変化させ黄金色の炎へと変わって行く。
しかし、全体に広まり自身の体にもまとわりついた黄金の炎は焼けるようにまでは熱くはない。どちらかといえばカゲロウのような現象に近かった。
「‥‥‥‥これはっ!?」
「インフェルノスモッグさ」
背後から声がして振り返るが誰もいない。
「膨大な魔力をオレはあんたから『傷をもらったこと』で得た。よってオレの技が一つ完成した」
「‥‥‥‥傷をもらった? いみわからない」
「わからなくっていいさ。どうせ、あんたは死ぬ。オレは魔力があんたから受けた分が残ってるからなっ」
そうした時、目の前から気迫を感じ、SDは槍をクロスさせ防衛の行動を取った。
槍の峰に重くのしかかるウィンナの拳。それが連続してうちこまれていく。
こうしてずっと防衛しっぱなしはSDの性格には合わない。
SDも槍でウィンナを振り払う。ウィンナが間合いを取ってる隙を縫い攻撃を仕掛けた。
このスピードはウィンナが避けきれなかった攻撃。
当たるのは間違ないないとSDは思っていたがしかし、攻撃が当たる直前に寒気を感じた。
「言っただろう。あんたにうけた傷が魔力を増幅させたってなぁ。オレを強くするんだぜぇ」
「‥‥‥‥‥がぁ!」
槍の切っ先がウィンナに突き刺さることはなく逆にウィンナの黄金の炎の魔力を乗せた拳によるクロスカウンターがSDの腹へめり込み吹っ飛ばした。
血反吐吐き捨てながら壁から抜き出て、ウィンナの膨大な魔力そして、セリフを思い出しパズルのピースがつながった。
「‥‥‥‥‥カウンタータイプ。相手の傷を受けることで魔力を増幅して行く亜人。‥‥‥それがあなた‥‥‥‥ぐふっ」
「亜人? オレは亜人なんてクソじゃねえ。最強の進化人さ。『クリーチャーズチャイルド』さ」
「っ! ‥‥アルベルトの実験体‥‥生き残ってた‥‥? ‥‥‥ボスはなんでそのことを‥‥」
「それはオレはボスにとって特別だからだ」
「‥‥どう‥‥いう‥‥がっ‥‥」
瞬間、SDの仮面はわれ、小顔のかわいらしい少女の血にまみれた素顔が現れ体中から血を噴き出し炎にまみれて倒れ伏した。
『‥‥‥‥‥‥』
「シーンパーン、おわりだぜぇ」
『あ、勝者! ウィンナ・グローズ!!』
一体、今までの流れはなんだったのだろうか。そう言わざる得ない試合だった。




