宴会場 後編
「はい、そうです。はい、わかりました」
どこと電話をしてるのだろうか。
アリスは剣呑の瞳でリーア・メルティシアを伺っていた。
「大会で優勝したら、非常階段も? でも、見つかる可能性が‥‥わかりました」
大会、優勝、非常階段。
妙に気になるセリフの羅列。
注意深くその要点を頭にインプットし、アリスは続きの聞こえる言葉を待った。
「アリス」
「きゃっ!」
かけられた声にらしくもなく黄色い声を上げてしまう。
アリスは鋭く研ぎ澄まされた瞳で呼びかけた青年――龍牙優を睨みつけた。
「すみません。誰か来たようですので、これで」
彼女はこちらに気づいたように歩いてきている。
優はそのまま、彼女のほうに向かっていく。
「ちょっ――」
アリスが何かを言うより先に優は彼女に声をかけた。
「やぁ、リーア会長。こんなところでなにを?」
「少し電話を。祖父が勤める会社から継続して警備に当たれないかというお話が来てしまいましたの」
「ああ。そういえば、会長の祖父はマジックオフィシャルの管理警備会社に勤めてるんだったっけ。それで、予選も後半は出ていなかったとか」
「ええ、そうですわ」
「すごいですね。継続の話が来るほど会長の取り組みが素晴らしかったんじゃないか」
「そんなことありませんわ」
こういう時の優の対応力の素晴らしさに感服をした。
おかげでアリスはその場から離れていく。
「ちなみにどういうことを?」
「えっと――」
アリスは優に任せ、宴会場に戻っていく。
そのまま近くの椅子に腰を下ろした。
すると、一人が声をかけた。
「アリス・クリスティアさんでしたっけ」
「あなたは?」
生真面目そうな顔立ちをした黒髪のショートヘアにメガネをつけた端正な顔立ちをした美少女が声をかけてきた。
彼女は確か、ミユリとクリーエルとともにチームを組んでいたメンツだったことを資料で確認していた。
「運営委員会会長の孫娘の佐藤郁美と申します。祖父からあなたのことは聞き及んでおります。この度は大変ありがとうございます」
「あなたが」
彼女が深々と頭を下げながら握手を求めてきてその手を握り返す。
彼女が目の前の座席に腰を下ろした。
「あなたも、随分と頑張った様子ね。今回本戦出場おめでとう」
「祝いの言葉ありがとうございます。でも、このくらいないと将来、政府の仕事に付けませんから」
佐藤郁美、運営委員会の会長の孫娘が夢を語る。
その夢を聞いてアリスは目を丸くした。
「なるほど、祖父から聞いたんだけじゃなくって独自で私のことも調べたのかしら? 違法よ」
「っ! お見それしました。気づいてしまったんですね」
「ええ。第一、私のことは口外してはならんないことを義務付けしてる。それは親族に至ってもそうよ。あなたの先ほどの発言は祖父を犯罪者だと決めつけた発言だったもの。となれば、夢を語ってその夢が政府となれば自ずと答えは出る。私を試していたんだって。推察力でも試したのかしら?」
「そうです。わざと行ってみました。アリスさんあなたを試すようなことをしてすみません。どの程度の推察力があれば国家政府に所属するのか試してみたかったんです」
「それほど、政府に入りたい?」
「はい」
「あまりいい仕事ではないわよ。この仕事はいつ死んでもおかしくないんだから」
「わかっています」
「あなたは優勝したら政府にでも入れてもらえるようにしてもらうのね」
アリスはウェイトレスを呼びつけて水を貰い受けて飲み干す。
「でも、優勝したからといってそう簡単に政府には入れないわよ」
「え、それはどういう‥‥」
アリスは席を立ち上がり、外に出ていく。
「帰ろうかしらね」
「それなら、一言くらいいっていけよ」
「っ! 優」
又しても突然と声をかけられた。
背後を撮るのが上手くなってる優にはお見逸れ致す。
「仕事まだ残ってるのよ。早く帰らないと」
「佐藤さんと話してたみたいだが何を話してたんだ?」
「他人のプライバシーを話す気はないわ。みんない私は帰ったと伝えて頂戴。
それと、明日頑張りなさい。私も警備を回して厳重にしておくから」
そう言ってアリスが去っていく背中を有はただ呆然と見送るしかできなかった。
――――そして、次の日、本戦が始まる。




