地下駐車場の蜂たち
地下駐車場にステルス搭載の衣服を身につけた集団がひっそりと息を潜めて重要な会議を行っていた。
「ファンランはうまくやりましたか」
「さきほど、順調にやったとの報告を受けましたわ」
「そうですか。うふふ」
まるで勝利を確信してたかのような物言い。
実際、彼女らは勝利を確信していた。
学園の実力のある者は限られる。
その中でも優勝候補にメンバーの各一人が付けばいつでも優勝者のなかでかならずひとりはこの場にいる『オオスズメバチの巣』のメンツが優勝することになる。この大会は優勝しなくてはいけない。
世界を自分らの手で掌握する上に必要な計画。
まず、その証明としての実力を世に公表する。
そして、学園長、九条美代。大会運営委員会長、佐藤林道を殺すためにも。
「優勝が確定し、表彰台で九条美代、佐藤林道を殺すと同時に、大会全体に仕掛けた爆弾を爆破させますわよ。それを忘れてはおりませんわね?」
巫女装束に身を包んだ妖艶な美女、ユリハネ・ハーウェンスの言葉に全員がうなづいた。
指示通り、『構成員』の彼女たちはいろんな場所に潜入していた。
学生のメンバーに加わり、大会関係者になりすます。
そうして、大会の会場全体を徘徊できるような立場を振るまい、見えない箇所に爆破物を仕掛けていた。
リーア・メルティシアも爆破設置側の指揮に回るために前半の予選試合のみ出場し、後半は出場をしなかったのだ。
代わりにファンランが大会を出る形をとる。
そう、爆破を仕掛ける側と大会に出場する側の二つの班に分かれる計画。
「そして、来てるであろう『掃除屋』の幹部や国家関連の事業者たちを暗殺しますわよ。爆破に乗じれば彼らも上手く立ち回りが効かなくなるはずですわ。ワタクシたち『オオスズメバチの巣』の目的達成できますわよ」
彼女の言葉を受けて狂気の声を上げる。
「な、ボスあたしらはあとは適当に動いていいんだよな? さっき殺したい奴を見つけたんだぜ。そいつを殺したくってたまらねえんだぜ」
「なら、私は一人かわいいおんなのこをなぶってみちゃおうかなかなー!」
「ワタクシたち組織は自由思想ですわ。計画が滞りなく進むのであれば何をしても構いませんわ。仕事も終わりましたしバレない範囲で自由に動きなさい」
そう、『オオスズメバチの巣』は自由思想。
構成員はユリハネの指示で行動に義務付けられることはない。
自由な行動を許可していた。
ただ、計画等がある場合においては協力を求めるが彼女らがそれを断ることも別に良いことではある。
しかし、ならばなぜ彼女たちがゆり羽の指示に従うように爆弾を仕掛けたか。
「ユリハネさま、あんたには貸しがあるからなんかあれば指示をくださいってんだぜ。いつでも協力するぜ」
「わたしもかなかなー」
彼女たち全員が、ウィンナ・グローズ、ユリア・シャーテルベルクの言葉に賛同を示した。
貸しそれが指示に従う理由だった。
恩義とはそれだけ指示の向上へとつながる。
彼女たちそれぞれにいろんな恩義があった。
お金、命を救ってもらった、道をしめしてくれたことなど。
最近では構成員の大部分は自由に犯罪を犯した結果捕まって牢獄に行ってしまってるのがあた。
「わかりましたわ」
リーアは念話の応対を受け終わり、ユリハネのほうを向いた。
「観客席にてミツバチは居座るそうですわ、競技参加者には熊蜂の部隊が配置しておくそうですわ、なんでも、いつでも殺せるようにとのことですわ」
ミツバチ、熊蜂は構成員を表す組織の隠語――コードネーム。
「わかりましたわ。ヘタを打たなければ問題ありませんことよ」
リーアが念話でそのことを伝えたとき――
地下駐車場に一人侵入者があらわれる。
エレベーターホール側から来た様子の彼女。
ユリハネらは物陰から身を隠して降りてきた人物を見た。
銀髪をなびかせており立ってきたのはかなりの美女。
漆黒のスーツを綺麗に着こなして、スーツを着てるだけでもモデルさながら。
アリス・クリスティアだ。
彼女は携帯を取り出して時刻を確認している。
「優の本戦試合見れるかしら?」
「ボス、あくまで仕事だというのは理解をしていますか?」
「わかってるわ、K。それにここに来たのも見回りだっていうことも。でも、変なことはないわよ」
「では、戻りましょうか」
「ええ」
一人の男、コードネームだろうKに身を守られるようにして数分で再度エレベーターホール側に向かって消えてった。
『掃除屋』の幹部候補を見てユリハネは笑みを浮かべた。
「予定通り彼女も現れてましたわね」
そう、この大会は各国全世界からお偉い人が集まる大きな大会。そんなかに彼女たち悪人を抹殺する暗殺者組織の存在はあるだろう。
ボディーガードマンとして。
「うふふ、にしても、この大会で何があるとも知らずのんきなものですわね」
そう言ってユリハネの体は輪郭を表しステルス搭載を消す。
それに準じて『オオスズメバチの巣』が全員習った。
「各自、解散していいですわよ」
その言葉を受けると一瞬にしてその場からいなくなっていくメンツ。
最後に残ったふたりの姉妹、ハーウェン姉妹は互いに目線を交わし――
「じゃあ、私もファンランと交代をしてまいりますわ」
「ええ、大会頑張ってくださいませ。妹」
「ええ、姉さま」
去り際のリーアの笑はどことなく悪逆さを秘めていたのだった。




