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国家秘密組織と特待生  作者: ryuu
前章 潜入調査開始――――テロ組織『シートコール』との戦争
51/123

日常の学校

『きゃぁー』

 クラスの中から黄色い声が上がりざわめき立つ。

 それはなぜか。

 黒板の前にずらずらと難しい公式を書き記した不思議な雰囲気を醸し出す青年に驚嘆の声をあげたものだった。

 青年、龍牙優こと本名、遠井勇牙にとってはあまりにも簡単な問題だった。

 教師は大学入試の超難易度問題の一節を出したらしいが優にとってそれは当たり前にすぎない問題。

 優は早くに両親を亡くしアリスのもとで幼いころから一緒になってもっと難しい数学の問題をやっていたのだから。


(すこし派手にやりすぎたかな)


 そんな思考が思い浮かぶ。

 自身はあまり目立ちたくない。

 あの『シートコール』事件から今日で3週間たつ。

 例の新たな任務指令を追加で受け、学生として再開した今日現在で気分は重い優。なぜならば、身にかかる負担の大きさ。

 今まで数多くの任務をやってきている優でもこの任務にかかる内容は大きな負担がある。世界の命運を握ってるも同義なのだ。

 この中にテロ組織の構成員がまだいるわけなのだから緊張するのも仕方ないし目立ちたくもない。

 なにより、正体を隠してる優だ。そのことは当たり前。

 復帰した後に早々目立ってしまったことは優の感情を大きくとりみだたせ複雑な心境が沸いた。


「優君は数学得意なんですか?」


 隣の席に座るミユリ・ハーフェス・杏里が聞いてきた。

 『シートコール』の事件後に場の環境も緩和され今では周りからいじめも受けてはいないらしい彼女。

 現在は学校内では頼られる存在の風紀員に所属したと聞く。

 そこには例の悪目立ちズやクリーエル・杏奈・フェンも所属したらしい。

 今の彼女の表情は実に楽しげで覗き込んでいた。

 無言でしばらく見つめてると――

「えっと、優君?」

 顔を赤らめて戸惑いの表情を見せながら目を泳がせる彼女に「ハッ」と気づいた優。

 苦笑いを浮かべて答える。

「顔に何かついてますか?」

「そんなことないよ。えっと、数学か、あははただ単に休みの間にやっていた予習の問題が出ただけさ」

 ごまかすように早口でまくしたてた。

「予習ついででもあれ難関問題だって言ってますよ先生」


「アハハ」


 笑ってごまかすしかない。


「本当はできるんでしょぉー」


 ――と笑いながらゴマかしてるとミユリと優の会話にクリーエルも楽し気に笑いながら入ってくる。

 優はますますごまかしがきかなくなってきて冷や汗が流れた。

「さぁ、どうかなぁ」

 ミユリ、クリーエルは優がとある組織の人間だということを知ってしまった人物である。

 あのいじめ問題において『シートコール』の関与があったせいで優は素性を現さずにはいられない状況となり素性を二人の前で見せびらかすような行動を出した。

 しかも、万事解決後はそりゃぁ事情を説明しなくてはならなくなり事情を説明した。

 結果、二人は優のことを他言無用の約束をしてはいても優の存在を知ってるので彼の隠し事はすぐお見通しだった。

 明らかにからかっている。

 ミユリの前2列先に座った市井、悪目立ちズのリーダーもちらちらと黒板と優を照らし合わせ何やら納得の表情を浮かべていた。

 彼女もまた事情を知らないまでも優がすごい人物であるのを薄々感づいてる節がある。

 本当にいろいろと初日から失敗した潜入任務。

 大きなため息がこぼれてしまう。


「優さんは本当は数学だけじゃないんですよね」


「秘密さ。あまり目立ちたくないって言ったろ」


「ほら、そこ。なに話をしてるの授業中」


 教師にしかられたので口をつぐむことにする。

 ミユリの状況が改善されたことで温和になったクラスからどっと笑いが上がった。

 同時に授業終了チャイムが鳴る。


「はーい、今日はここまで。出した宿題はしっかり明日までにやってくるようにそれでは終了しまーす。号令」


 日直が号令をかけ2時間目の授業が終わりを迎えた。


 ******


 3時間目の魔法実技の授業

 またしても、優はトイレで着替える羽目になった。

 魔法実技用の体操着に着替え終えて第2グラウンドへ。

 第2グラウンドへは学校の敷地も広いので校章に付与されている転移魔法システムを使っていくことができる。

 体操着の襟元につけた校章を数度タッチし転移する。

 目の前に広い壮大なスタジアムのような草原の芝生が地に生えた大きな広場。

 そこには複数の女子生徒がいる。

 本日は合同授業だということで初日の体育の授業より人数が多かった。

 エリスと雪菜の姿が見て取れた。


「お兄ちゃん、今日クラス合同授業でしょ一緒にやろ」


「ああ、いいが。合同って何するんだ?」


「タッグ戦闘実施訓練でしょう」

 そこへ一人返事をするように声をかけたものが現れる。

 エリス・F・フェルト。

 掃除屋の左腕たる彼女は現在ここの学生を行っていた。

 年齢も雪菜や優と近いことがあり今はアリスの命令でこの『共生学園』で潜入任務に就いていた。

 そう、それも『シートコール』との闘い後に分かった情報が元。

 この学校にはまだ『テロ組織』の構成員がいる可能性がある。

 『シートコール』とかかわりがあった『テロ組織』。それはどういった目的があり存在なのかはわからない。

 だから、半信半疑な情報でも可能な限り対処する。その可能性たる情報、構成員が学園にいるのならば対処するべきであるのは間違いない。

 そのためにエリスもまたここに転入させられた。

 彼女は彼女で学園を楽しんでいるみたいだ。

 それに気がかりになるのは彼女の名字。

 聞いた話だと本名らしいが。

(フェルトねぇ‥‥)

 今はまだ学園復帰していない特部の一人と同じ苗字。

 いずれわかる時が来るのだろうか‥‥。

 綺麗な赤髪をポニーテールに結わえた彼女のその類稀ならスタイルと美貌を眺めながらそんなことを感が深くいるとエリスが目つきを険しいものに変え体を覆い隠すように抱きしめる。


「な、なんですそのいやらしい目で私を嘗め回すように見て強姦する気ですか? けがらわしい」


「なっ! ちげぇよ!」


「お、お兄ちゃん変態!」


 すこし、見とれてしまったのは事実だが別にいやらしい目で見てたつもりはない。

「たぁ」

 つま先に痛みが走った。

 雪菜が思い切り踏んづけたのだった。


「いってぇええ! 何しやがる雪菜!」


「お兄ちゃんのバカ変態!」


「いやらしい目で見てたわけじゃないっての!」


 周りもなんだなんだと注目が徐々に集まりだす。

 最悪すぎる。目立ちたくないというのにどんどん逆に目立つ存在へと変わる。

(くそぉ)

 目がしらに涙が浮かぶ。


「ふーんだ。私別の子と組んでくる」


「では、私もそうします」


 ――と無慈悲にも彼女たちは優から逃げるようにしてとおざけて行く。

 この授業はタッグという言い方をしてるが三人一組形式の戦闘を行うのを主流にしたものだった。

 エリスと雪菜はさっそく一人の生徒を囲い3人一組を作っていた。

 きれいなプラチナブロンドの髪の美少女だ。

 あいからわずのコミュニケ―ション能力ですぐに初めて話す相手だったであろう人とも仲良くなってしまう。

 雪菜はエリスともそうだった。

 この追加で任務がなされる雑賀初顔合わせだった雪菜とエリス。

 けど、雪菜のあの性格がエリスを助けすぐに仲良い関係になった。

 今ではアリスからエリスが雪菜の監督官を任されてるぐらいだ。


「さてと、俺は誰とタッグを組むかな」


 周りを見てみれば次から次へとタッグを組んでくのにどんどん置いてけぼりを食らってく空気に。


(なんかまずくね? まぁ、一人でも断然相手はできるし。どうせ組み手みたいなもんだしな)


 そう周りを見渡して先生の来るのを待ってると急にだった人の波がこちらに歩み寄ってきた。

 名前は知らないがクラスの子っていうのはわかった。


「優さん、って誰かと組んでますか?今日たぶんタッグやると思うんでその時私と組んでください」


「あ、ずるーい。茲美さん。抜け駆けは卑怯よ。優さん私と組んでください」


「あ、私も―」


 と、次から次へと人の群れが俺を中心にして出来始めてくる。

 おいおい。

 困惑する優。彼女らはあと一人枠が余ってる様子。

 それを遠目に観察してる雪菜と目が合う。

「ふんだ」

 完全に起こった様子の彼女はこちらと目を合わせようとせずタッグ練習の前の魔力操作の準備体操を始めた。


「おーら、おまえらバカども何してる」


「げっ、やば先生きたし」


 一気に群れが散って先生が優のそばに歩み寄って一瞥する。


「貴様もあまり目立つな」


「いえ、目立ってるつもりは全然ないんだが」


「口答えするな」



 女性というには余りにもつよすぎるげんこつだった。


「よーし、今日はタッグ戦をやるぞ。魔法の実技訓練のタッグだ。チームを組んだならさっさと始めろ」


 けど、背遠征の指示で散ったのはわずか1割のみだった様子でまだ粘った彼女たちが手を伸ばして優にその手を取ってもらおうと頭を下げた。


『タッグお願いします』


 圧倒されてしまい顔が思わずひきつった。


「コラッ、おまえら、一人に絞るんじゃない! 散れ! 私と組みたいのかぁ!?」


 一気にまた散っていく。

 まるで動物の群れだな。


「貴様は本当に人気だな特待生」


 次は何も答えずただ沈黙する。


「あのー優君私たちと組みますか? ちょうど一人枠が余ってます」

「わたしもいいよぉ、優さんならぁ」

 そこへ、困り果ててるとミユリとクリーエルが優し気に微笑みながら手を差し伸べてくれた。

 結果的に、優はこの二人と組みこの授業もまた昨日の疲れもあってうまく魔力コントロールが効かず力の制限を落とせずみんなを圧倒させる技量を発揮してしまい目立ってしまった。

 その後のお昼休み。

 あちこちのクラスが優を見にやってくる。

 あいもかわらず飽きない連中で優のファンクラブというものが風の噂で出来上がってることを聞いた。

 優は目立つのを避け逃げるようにその場を離れようとすると――――


「どこに行くんですか? 優君」



 ふいに声をかけられ振り返るとクリーエルと一緒に並んで優の足を引きとめるようにして右手をつかんだミユリの姿がそこにあった。


「一緒にここで食べましょう」


「そうですよぉ」


 クリーエルも一緒に同意しいつの間にか左隣に位置つけている。

 周りのクラスの連中をも優を包囲するようにいた。


「あ、いやさ、購買で弁当買ってこようかなぁなんて」

「なら、ご一緒します」

「私もしますよぉ」


 そのあとから『私も』の連続でなぜかみんなして優をつけまわそうとする。


 (勘弁をしてくれ!)


 結果的に、購買には俺の工法をついてくる謎の集団という構図。

 みんながなになにという目線が痛いが自然に納得の様相に変化するその表情をやめてほしい。

 歩くごとに軍団は増えた。

 購買に着くころには全校生徒が集まったんじゃないかという様相だったが。

 その後はラウンジで女子軍団+優という構図で目立つように一緒に食べた。

 その時も優は心苦しい思いだった。

 優の隣を争う戦争が彼女たちの間で勃発。

 それは恐ろしいものだったが優は気にせず食事をし済ませてもなお争いは続いてたのだから末恐ろしい。

 午後の授業も優は目立ちに目立った。

 疲れから来てしまいうまくごまかすという頭の働きが機能せず一日が終了した。

 これはある意味良いことだったといえた。

 なぜなら、目立つことを避けれるのだから。

 知識の抑制はなかなかに骨が折れる。

 ――――放課後。

 帰り支度の前に頭を抱えて机の上で悶絶する優がいた。


「やってしまったぁー」


 今は、クラスには優一人しかないない。

 ミユリ、クリーエル。この二人は委員会があるとかで仲良く向かった。二人から委員会の見学を進められた優だったがむろん適当な理由をつけ断りを入れた。

 優は今日の反省に悶絶しながらつらつらと書類に報告書類を書き留めていく。


「くっそぉー、目立つやつがあるかこのバカ野郎」


「今更でしょお兄ちゃん」


「雪菜か」


 教室の扉に目を向けるとテニスウェアを着た雪菜がそこにはいた。その小柄で抜群のモデルスタイルにその服装は妙にエロく思わず見とれてしまい妙に見える谷間を思わず凝視してしまった。


「どうしたの人のことジッと―――――きゃっ」


 やっと気付いたのか雪菜はしゃがみ鬼の形相でこちらをにらんだ。


「お兄ちゃんの変態! エリスの時もそうやって――」


「いや、違う! これは断じて違うぞ!」


「お兄ちゃん、じゃあ、何が違うっ?」


「見とれてたんだ! 良くテニスで鍛えられてるなぁって」


「それもセクハラっ! お兄ちゃんのへんたぁい!」


 雪菜の手に宿した魔球が放たれた。


「ぎゃぁああああああああああああああ!」


 優の悲鳴がこだました。



 ――――しばらくして、雪菜は申し訳なく思ったのか優へ治癒魔法をほどこしつつ話をしだす。


「お兄ちゃんがいけないんだ。人の体じろじろ見るから」


「すまん。つかれてるから吸血鬼の性的抑制が利かなくなってるんだ」


「吸血鬼の?」


「ああ」


 龍牙優の吸血鬼としての存在は性欲の急激敵の高ぶりがあった。

 とくにそれは過度な吸血衝動よりも大きく優にとっては現れる。

 この抑制が効かなくなってるのも『シートコール』との闘い後に大きく能力を使った後遺症といえた。

 それにこの症状から優にはとある理由がある。

 吸血鬼になりたがらない。

 そう、常に優はこの力を隠すのには別に法律でだとかそういう規則だからというわけではなかった。

 性的欲求。これが問題だった。

 性犯罪者になり変えないリスクが大きく伴うのがこの力のデメリット。


「もう後遺症上でももう少し抑えられない?」


「本当にすまん」


「むっつりスケベ」


「‥‥‥‥‥‥」


 何も言わずただ椅子から立ち上がり床に両ひざをつけ深々と床に頭をこすりつけて―――――


「すみませんでしたぁ!」


 きれいな土下座をひろうしてみせた。


「ちょっとお兄ちゃん?! そこまで怒ってないからやめてよ! 恥ずかしい!」


「本当か?」


「本当! まったく、お兄ちゃんっていっつも追い詰められすぎるとこれなんだから‥‥」


 優は追い詰められすぎると精神が不安定になりたまに大きく異なった行動やおかしくなってしまう癖が出てしまう。

 自覚はっても直しようがない。


「私なんでこんな人に惚れたか‥‥‥‥」


「へ?」


「なんでもない! お兄ちゃん今日待っててくれる?」


「あ、ああ別にいいが」


「へへ、やった」


「やった?」


「なんでもなーい」


 そう言って雪菜はくるっとこちらを振り向き笑顔を向ける。


「いつっ」


 急に頭を押さえる雪菜に優は不審に思い声をかけた。


「どうした?」


「大丈夫。少し頭痛がしただけ」


「平気か? おまえも能力の後遺症とか出やすいんだからあまり無理はするんじゃねえぞ」


「そうだけどさ、体なまっちゃうから少しでも体を動かしたい。じゃあねお兄ちゃん」


 教室から去って行った雪菜を見て優はほっと安堵の息を吐いた。

 もう、あの催眠状態の雪菜の面影はどこにもない。

 安心感が優の体を吹き抜ける。


「つーか、どこぞの格闘家かなまっちゃうって」


 優はこの日常の風景に苦笑いをしながら窓から見える夕焼け空を見た。

 季節のころ合い。

 もうそろそろ秋から冬に入る。

 もう、寒い時期だ。

「あ、そうだ、学園理事長に呼ばれてるんだった。たしか、来年の学園行事がどうだって話だったか」

 優はそう思いすぐに席から立ち上がり学校鞄へ荷物をまとめ自分の用事を対処に学園理事長室へ向かう。

 

第1章本編とも呼べるのはここまでです。

次の話が第1章のエピローグとなります。

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