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国家秘密組織と特待生  作者: ryuu
前章 潜入調査開始――――テロ組織『シートコール』との戦争
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サード死す

「お兄ちゃん」


 サードが倒れ伏した直後のこと――――雪菜は急ぎ優のそばまでにじり寄った。

 反応をうかがうように顔を覗き込み抱き着く。


「雪菜」


「ごめんなさい、お兄ちゃん」


「はぁー、このバカ」


 優が手を振り上げる―――

 雪菜はギュッと目をつぶる。

 ぶたれるそう思ったが痛みはやってこなかった。

 変わりに頭に置かれた手。なでるようにそっとそっと手を動かす。


「謝ることじゃねえよ。お前は悪くない。戻ってよかったよ。俺も助けられなくてごめんな」


「お兄ちゃんごめんなさぁあい」


 雪菜は涙を流した。

 大粒の涙がそっとほほを伝う。

 ぐしゃぐしゃと歪む顔。

 申し訳ないそう感じた。

 意識がなかったとはいえ催眠状態の記憶がある。

 さんざんひどいことをした。

 優は彼女の悲しげな顔を見てそっと体を抱きしめた。


「もうこんな目にあわさせたりはしない」


「うん」


「それからだ――」


 そうしてから優は雪菜を離し、デコピンをする。


「いたっ!?」


 驚いた感じで目を瞬き、どういうことなのかわかってないという表情をする


「これはお仕置きだ。どうせ、捕まったのも俺を心配して敵の言葉に乗っかってやろうとか行動したんだろう? あほ、そんな危険を冒してんじゃねえよ。俺は平気だから」


 雪菜はうっーとうなりつつもどこか反省したように泣きやんだ。愛する兄はどこまでも自分のことを理解していた。

 自分がなぜ催眠にかかったのか。

 自分の行動の意味を――

 優は倒れたサードに目を向けた。


「ウェイプ!」


 手をかざしツタがサードを縛る。

 これも捕縛魔法の一種。属性は草を有する風の自然魔法だ。


「あっちはおわったかな」


 優が目線を向けた先ではエリスの魔法がアーリンを捕縛し護送準備を開始している。

 この状況でとうこうを拒否したものは次々に射殺が下る惨状。

『国家組織』のそれが現状だ。

 敵には容赦はしない。

 一人でも反省を無視するならばのちに悪の禍根となるのだから。

 ――――優も護送準備の手伝いをし雪菜を誰かに任そうとした。


「きゃぁああああああああああ!」


 後方から雪菜の叫び。


 バッと振り向くと雪菜の背後に回って身動きを封じ首にナイフをあてがうサードの姿。

 一斉に『国家組織』の者らはサード一人に銃口を構えた。


「ちっ! 捕縛魔法を自力でほどくほどの力がまだあったか!」


 捕縛魔法の残がいが雪菜の足元には散らばっていたがサードの体も無理を強いたのかより傷が悪化している。

 でも、これは自分の大きなミスが招いた参事。

 くそっ!

 悔しさに歯噛みしながら腕に力を籠め殺気を立ち昇らせる。


「サードてめぇ!」


「実に予想外で‥‥す‥‥あなた‥‥ような‥‥‥‥男‥‥いること‥‥誤算‥‥でした‥‥そんな女‥‥‥‥だったら‥‥この際‥‥遠井優の禍根を一人‥‥始末‥‥私‥‥帰らせて‥‥いただきます‥‥」


 そういった直後サードがナイフを――――


「やめろぉおおおお!」


 優が飛び出すが遅かったナイフはひかれ雪菜の頸動脈から血が噴き出した。


「雪菜ぁああああああああああ!」


 リーナが怒りに顔をゆがめ魔弾をサードへ撃ちサードが後方へ吹っ飛ぶ。

「よくもゆきなをぉおおおお!」

 すぐに優は雪菜の首の血を止血にかかる。


「雪菜死ぬな!」


「お兄ちゃん‥‥‥‥ごめんなさい‥‥‥‥‥これってバツだよね‥‥‥‥かふっ」


「もうしゃべるな! 今魔法で止血してくそ呪符の施されたナイフで切られてやがる! 止血しろよくそぉおおおお!」


 いくら念じに念じても呪いの付与されたナイフによる殺傷は治りにくいのだ。

 それ以前により高度なものになれば治らないケースもある。


「なんでなんでだよぉおおおおお!」


 一斉に『国家組織』がサードを取り押さえにかかったがサードを守るように闇の風が防風となって守る。

 足場に闇色の影が出現しサードの体はだんだんと沈み込んでゆく。

「あははは! ‥‥そうそう‥‥アーリン‥‥君はいい仕事をしてくれました‥‥私の世界を作るコマとして‥‥実に優秀でしたよ‥‥ぐふっ‥‥」

 血を吐きながらも彼の体が徐々に治癒を始める。

 どういう魔法を使用してるのかわからないが再生をしていた。

「え? サード様? それはどういう意味っすか? 弱者の支配がなせる世界を作るって言ってたッスよね?」

「くはははは! あきれますね。まだそんな幻想を。弱者が支配できる世界なんてできるわけないじゃないですか! あんなのはまやかしの幻想を述べたまでです」

「じゃあ、あなたが家庭や会社で上からいじめを受け続けてきた話などあれは何だったんスか?」

「アーリン・カークライン、君は実に馬鹿で滑稽な娘です。ウソに決まってますよ。それと、君の両親が自殺した原因を作ったのは私です。父は会社の上役の詐欺まがいの犯罪を上司によって肩代わりを無理やりさせられ自殺し、借金地獄となったあなたの家。そうさせたのも私です。すべての社員がそうですよ。私が原因で弱者となった。すべては私の世界を構築するために駒は必要でしたよ。まぁ、グレンダ彼女だけは特別でしたが‥‥」

 とんでもない真実を最後に吐き捨てたサード。

 それを聞いた『シートコール』の面々は絶望に打ちひしがれる。

 優も雪菜に治癒魔法をかけながらも聞こえた会話を鬼の形相でサードをにらみつけた。

 しっていた。

 アーリン・カークライン。彼女のみは有名だったので本名までわかっていた。

 資料にも父親が詐欺事件を起こして警察に捕まった後自殺。

 遺書には『俺は詐欺なんかしていない。上司が仕向けたんだ』と残していた。

 家族も父親がそなことをする人じゃないことを知っていた。

 当時――まだ亜人に厳しい人間社会がそうさせたのだろう。

 でも、真実はサードという男が仕向けた罠。


「よりあなたは特に死神という優秀な亜人だったからこそ私は欲したのです。本当に最後までありがとう。でも、もうおさらばです。私は次の駒を取りそろえると――」


「サードぉおおおおおおおおおお!」


 アーリンが飛び出したが防風が加倉井杏里――アーリン・カークラインを吹き飛ばした。

 それの後に続けてエリスやアリスも魔球を放った。

 水と氷の合成魔球。しかし、防風が魔球を粉砕した。

「あわれな家畜ども。さらばです。実に楽しい時間をありが――」

「てめぇ、ただで帰れると思ってるのか?」

「なっ――いつのま――がふっ」

 優がサードの背後にいつの間にかいた。

 サードは彼が先ほどまで北坂雪菜を治療していたはずだと思い込んでいた。

 北坂雪菜はどうなったのかと見やるとそばに一匹の光の犬がいた。

治癒魔犬ヒールドッグだとっ⁉ あの高度な眷属を有していただとっ⁉」

 幻にも近いとされる眷属、治癒魔犬ヒールドッグはその名の通り傷を治すことができる。

 しかし、かなりの魔力を消費しかつ、その傷の5割を眷属の主が代行するというかなり諸刃の剣な眷属。


「貴様死ぬ気かっ⁉」

「死ぬ? 馬鹿を言うな死ぬのはてめぇだ」

 サードに突き刺した銃剣の切っ先をねじ込むとサードは苦渋に顔をゆがめ喀血する。

「き‥‥さ‥‥ま‥‥だが、甘い‥‥この沼はリフレクションする。私の傷を無限りなおす治癒環境の転移ゲート」

「そうかよ」

「――――っ! 馬鹿ななぜ傷が治らない?」

 サードはみずからの傷が治らないことに仰天して足場を見た。

 足場にはまぶしく輝く光と炎。

 闇の沼を太陽のようにまぶしい炎が打ち消し始めていた。

「ばかなそんな‥‥この魔法は禁忌の魔法‥‥ぐふっ‥‥禁忌を壊すことなど‥‥でき――ぐぁあああ!」

 サードの体が炎に飲み込まれ始める。

「この銃結構便利でな。読み取ったDNAの魔力を急激に吸引する能力があるんだ。『どんな魔法』でも。その魔法を吸引し俺の魔力に結合し魔力が倍増してるわけだ」

「そんな‥‥武器どこで‥‥」

「今から死ぬ外道に教える義理はない‥‥」

「ぐがぁあああああああああああああああ!」

 サードは燃えその場に倒れた。

 とどめに銃口を向け銃弾を放とうしたところへ――

「落ち着きなさい、DD」

「アリス‥‥。落ち着けだと? こいつは雪菜を傷つけたんだ。いや、いろんなやつの人生を壊した。こんな外道反省の意図など皆無殺すべきだ」


「くくっ、あの傷‥‥は呪いで‥‥負わせた‥‥私‥‥死なない‥‥限り‥‥解けない‥‥闇魔法‥‥だからこそ‥‥最強‥‥禁じ‥‥魔法なの‥‥だよ」


 サードは地にあおむけに倒れながら憎たらしい言葉をかすれカスレの意識ながらつぶやいた。

 なんとタフなやろうか。

 足を撃ち黙らせる。

「あがぁあああああああ!」


「てめぇのせいで雪菜はぁああああああ!」


 まだ、攻撃を加えようとする優を止めにエリスが腕を抑える。


「命令を聞くのですDD! 彼は重要犯罪人です。彼はいろいろと知っています。遠井優の居所やそれに関することを吐かせる必要があるのに殺してはもともこうもありません!」


「いや、ある! こいつを殺せば呪いはとけるんだ!」


「何をたわごとに惑わされてるんですっ! 情報を漏えいさせないためにあなたに殺されようとしてる彼の誘導です!」


「――こいつの言ってることは正解なんだよ! 闇魔法の記述は一生解けない呪いの一種とされてきたがそれは誤りだ。解呪方法ならあるんだよっ! 術者を殺せばいい」


「そんな記述どこにも‥‥‥‥」


「ないだろうよ! 俺の親父がひた隠したんだから!」


「えっ!?」


「親父は闇魔法の術者にも優しいお人よしだった。闇の者なんか悪人が基本なんだってのにあの人はそれでも助けようとした。呪いの中である記述があった解呪の方法が術者を殺すしかないということ。それは親父にとってかなりいやだたんだろうな! だから隠したんだ」


「そんな話信じられませんよ‥‥‥‥」


「信じる信じないは勝手にしろ! 俺は雪菜を助けるこいつを殺して!」


「やめなさい! DD!」


 アリスもさすがにみられずと目にかかる。

 その間にも雪菜の命のともしびが一刻一刻と消えかかってる。


「アハハハハハハ!」


 突然笑い声が上がった。

 それは倒れたサードからだった。


「確かに、龍牙優貴様の言うとおりだぜ」


「っ!」


 エリスはさすがに衝撃的な顔になった。

 顔面蒼白といった具合に。


「私‥‥殺せば‥‥助かる‥‥情報は‥‥消える‥‥‥‥くくっ‥‥あのお方のためなら‥‥‥‥命だって‥‥投げ捨てる‥‥こんな世界‥‥壊れれば‥‥アハハハハ‥‥‥‥」


 優はいつの間にかエリスとアリスを突き飛ばしていた。

 アリスとエリスは自分がいつの間に突き飛ばされたのかわからない。

 優が剣を振り下ろそうとした刹那――何者かの鎌がサードの首元を切り裂いた。

 血が噴水のように吹き出し優の顔を真っ赤に染め上げ雪菜の傷が同時に治り始めた。

「サード‥‥ああたは最悪だったッスけど夢を与えてくれたことは感謝してるッス‥‥よ」

 そういって魔力がつきかけてアーリン・カークラインが倒れ、戦争は終結した。

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