撤退
旧川崎駅での戦闘は続く。
エリス・F・フェルト。『掃除屋』の左腕としての立場を持つ彼女は『掃討班』いわゆる死体処理の係を請け負う立場でありながら戦闘力は異常に高い。
そもそも、エリスはその技能を買われてアリスに招待を受け、『掃除屋』となった。
エリスはもともと、孤児で身寄りはなく、何よりも廃墟地帯出身者。
過酷な環境下で育ち、ある時に犯罪者集団に殺されそうになったところを彼女に救われた。
そして雇われた。
彼女には恩義がある。
エリスはそのために常に命令を重視。
今はその命令を受け、ただ、敵を殲滅するのみ。
「くくっ、なかなかです」
『シートコール』第5調査隊隊長。最強の調査隊員だという彼女は左腕を抑えながら血を流していた。
それは先ほどエリスが肩先に与えたダメージが効いていた。
血がにじんでるその腕を見つめてエリスは間合いをとって、再度その部分を狙いにかかりしとめる勢いで踏み込んだ。
グレンダと現状までの攻防で片側の剣は折れて使えないのでほうり捨て一振りの剣で迎え撃つように両手で握りしめ大きく横へ振りかぶる。
グレンダはそれを魔法の防壁で防いだ。
「ちっ!」
体を回転させ反対側からもう一度たたきつけるように振りかざすがグレンダの防壁は固すぎる。
「甘いです!」
「なっ!」
――動かないと思われた左腕が動いた。
エリスの顔をグレンダの左手が覆い尽くす。
「吹き飛ぶんです」
闇色のオーブが流れ出したかと思いきや爆発と突風が同時に併発。
頭から煙を上げながらエリスはその場に倒れた。
頭から顔に至るまで全体が焼け焦げきれいな顔や髪が台無しである。
意識はなくグレンダは勝利を確信した。
一気に現場の『国家組織』の指揮が低下。
躊躇いが生じた隙を突き『シートコール』の部隊が進軍する。
―――グレンダはあとは部下任せとタバコを吸おうとポケットから取り出して一服。
「まだ‥‥やられて‥‥おりません」
エリスは立ち上がる。
顔中血みどろで真っ赤な姿。
さすがのグレンダもたばこを口から落として殺気を出し構えた。
ロングソードで接近して振りかぶったエリスの剣を食い止めた。
だがしかし、ロングソードに一筋にひびが入る。
今までさんざんと食い止めてきた攻撃が要因で限界が来たのだろう。
「はぁあああ!!」
膨大にあふれ出したエリスの魔力。
彼女の赤髪がなびき炎をまとい発炎する。
刀身へ炎が伝達するように流れ出しロングソードを熱気で溶かし始めた。
ヒビが広がり折れた。
「いやぁ!」
「そんな攻撃無駄です!」
グレンダもこの程度容易に想像はついている。
エリスの攻撃を陰から抜き出した闇色の触手が食い止めてエリスの体を捕縛する。
「終わりです」
胸元部分へ抜き手を放ちエリスの胸部を貫通する。
「がふっ」
喀血したエリスはこと切れた。
もう、動かない。
「やっと、終わりです」
悪あがきとでも言いたかったのか。
「うぐっ」
腹に鈍痛を感じて口元を抑えむせかえった。
血が手に付着していた。
食い止めはしていても完全に衝撃を相殺しきれてはいなかった。
「彼女は厄介です。やはり、『掃除屋』の左腕は伊達じゃないです」
空を見上げてしばし、『シートコール』の軍隊から勝どきの声が上がった。
疲弊しきった様子の軍を見てどっかりと腰を下ろした。
「これで――」
殺気をわずかに感じた。
エリスを振り返ったが彼女からではない。
彼女は眠っていた。
誰だろう。
「グレンダさん!」
一人の部下が5人組の者を連れてきた。
いったい誰だろうかと疑問する。
知っている。
3人の顔は見覚えがある。
「いますぐ離れなさい! その者たちは裏切り者――」
「いえ、グレンダ隊長! 彼女たちあの場所から抜け出したらしく捕虜を引き連れております!」
部下が言葉を食い止め説明をする。
「捕虜?」
「お久しぶりだなぁア。グレンダ隊長」
「かなでたちにげたんだよーいえーい」
「そうっすよ。たいへんでした。こいつら連れてきたっす」
いったい誰を連れてきたというのか。
彼女たち捕虜が来ているローブを部下に取り払うよう進言し、取り払ってもらう。
見た姿は「あっ」となった。
一人は銀髪の美女、もう一人はハンサムな三十路男。
掃除屋のボス、アリス・クリスティアに亜人種能力調査官兼『SWAT』の隊長、伊郷正宗だった。
「私たちを案内してほしいんだぁア。ボスの場所までぇエ」
「了解です。いいでしょう。それだけの功績があればサードさまっも認めるです」
確実にそうといえる功績は十分。
3人とも姿がボロボロだ。
忠誠を誓いそこまで行ったわけならばお認め下さる。
グレンダは5人組を引き連れてビルに戻ることにした。
「では、撤退します。『シートコール』各員撤退です」
そうして、部下が撤退の準備を始める。グレンダはエリスを抱え上げる。
「その者はどうするきだぁア?」
「まだ、意識はあるようですから治療を軽くし捕虜とするです」
そう言いながら五人組と及び部下を引き連れ社へ戻った。




