牢獄
優は『シートコール』の地下牢に連れてかれていた。
一つの油断が招いた隙。
自分の甘さに悔い、壁に拳を打ち付けた。
「くそっ」
血がにじむ拳。
中はすす汚れた黒い鉄板の入った壁に囲まれていた。
どれもが魔防壁といわれる魔法を無効化する壁だ。
どんなに強大な魔法攻撃でも魔力がかき消されてしまうので意味がない。
ならば、打撃技ではと思うが力技で同行できるほど安い耐久性を誇っていない壁だ。
その結果が拳の傷。
「武器は取り上げられてるしこの手かせも邪魔だな」
厳重に縛られた体。
まず、首には大きな鉄鎖がついた鉄の輪。
爆弾が仕込まれてる首輪。
そして、両手を手錠のように縛った手枷。それにも、爆弾が仕込まれている。
両方とも魔力を無効化する力が付与された特殊合金製の金属物でできたもの。
無理に力で引き剥がそうにも爆弾は作動するし魔力は使えない。
まさに独房だ。
唯一配慮されてるのは綺麗なベットのみ。
トイレも外のを使わせてくれるらしいが見張りは必ず5人はつくらしいことがわかっていた。
トイレといいつつ外に出て抵抗を試みてもすぐに爆弾が作動するのは理解できる。
「切り抜けられる策案が浮かばねえ」
天井を仰ぎ見てため息が漏れる。
(雪菜‥‥)
自分自身のことよりも雪菜の生死に不安を感じていた。
あの優しく微笑む雪菜の表情はどこにもなかった。
ただ、虚ろで生気を失ったような表情。
(あの雪菜は明らかに催眠状態にある。『シートコール』内部の人間による催眠術だろう。しかも、厄介なのは身体能力向上と俺を敵として殺しに速攻で来る行動か)
雪菜の動きは過去に幾度か手合わせをしていてわかってるがそれでも、今の雪菜の身体的技術の向上は動きを理解していたとしても防げるレベルの動きではない。速さやパワーが数段も膨れ上がっていて何よりも――
「アリスから受け継いだあの氷魔法の技術は半端ない」
つい笑いが漏れた。
最強の右腕が聞いてあきれる話だった。
まさかの肉親に追い詰められる状況。
「おい、何を笑ってやがる!」
鉄合金製扉の向こう側で見張りの男が扉を思い切り殴りつけていちゃもんを飛ばす。
男はこちらの姿を合金製扉のわずかな窓枠からこちらを見てた。
精神病患者何かを監視する際につかう常とう手段な扉。
「笑うくらい自由にさせろや」
「貴様は囚人だ! 笑うことも許さん!」
「へいへい」
大きく息を吐き、あとここに来た案件を考え出す。
(我ながらバカだったぜ。もう少し作戦を考えて行動すればよかったんだ。雪菜が敵に捕縛されたとすれば紗意味の類を受けてたことも考慮すべきだった。気が動転しすぎてたばかりにこんな目にあって‥‥)
そんな考えをもたらし、頬に何かが流れるのを感じた。
「はは、らしくもねぇな。ガキみてぇに」
つたうのは涙だった。
泣いている自分に心底驚く。
『こちら、――――地区―――だ、カークライン第1執行部隊長および北坂雪菜第2執行部部隊長が戦闘出撃を要する、そっちの現状を聞きたい』
「あー、こちら、監視役ヘッセンドルス。囚人の動きは今のところ問題はなしでーす」
『了解、引き続き監視を継続するべし』
「りょうか―い」
思わず立ち上がっていた。
戦闘出撃。
仲間の救援だと悟った。
「おい! 今のどういうことだ!? 雪菜が戦ってるだぁ? どういうことだよ?」
「だまれ! おまえには関係ない話だ!」
「うるせえどういうことだって――――――」
「だまってろ!」
何かボタンが押された直後――――
「ぎゃぁああああああああああ!」
体に電流が走った。それは首輪と手かせから流れ出たものだ。
薄れゆく意識の中でこんなものまで埋め込まれてたのかと思う。
意識をその場で失う――
「くそが‥‥」




