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国家秘密組織と特待生  作者: ryuu
前章 潜入調査開始――――テロ組織『シートコール』との戦争
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催眠

 揺さぶられる体。

 妙な振動を感じる。

 頬は痛み雪菜は心地よい眠りの感覚から脱出することをこばんだ。

 しかし――

「いい加減目覚めるッス!」

 冷たい衝撃が雪菜を襲い、雪菜は完全に驚きの拍子に目を覚ます。

 あたりは暗い。何も見えない。

 一つの光がともり目の前に「親友だった」者の顔が浮かび上がり見えた。

「杏里‥‥」

「まったく、いつまでてこずらせる気ッス?」

「ここはどこ?」

「はい?」

 雪菜は冷静に考え、居場所の特定、自分の状況を分析しようとした。

 いくらもと親友だったとはいえ慈悲の心を期待した。

「教えるわけないッス。まず、自分の状況を見て考えろッス」

 雪菜は言われるままに自らがどういう状況に置かれてるか見る。

 両手足は西洋の昔のように囚人を拷問するような状態で両手は手枷を付けられており、天井の岩盤に埋め込まれるようにしてつるしあげられている。

 両足も同様だった。大股に広げられた状態で身動きが取れない。

「ああ、平気ッス。そう怖い顔しないでも。抵抗しないで言うことを素直に聞けばの話ッス」

「私はあなたたちの仲間になること承諾した。何の問題があるの? 早く解放して」

「はぁー、こっちがそう簡単に信用すると思ってたんスか? あの嘘っぽい話」

「‥‥‥‥いいえ、そうは思ってなかった」

 苦汁をかみしめ、雪菜は自らの考えに甘さがあったことを認識する。

 口ではどうとでも取り繕える。

 自らの感情は取り繕えはしない。

 杏里たちはそれを見抜いていた。

 今、言ったことすら雪菜は平然と答えはしたが心は落ち着きがない。

 恐怖という感情の波に押しつぶされそうな感覚。

「思っていないにしては激しく動揺してると思うのは気のせいッス?」

「き、気のせい」

「ふーん」

「それよりも、私に何をさせたいの? こんなことするくらいだからそれなりの理由があるはず」

「『サード様』が最初におっしゃった通りの内容ッス。私たちは強者に用はない。弱者に用があるんス。特に私は特別要注意人物である龍牙優かれの従兄に当たり、遠井優の親戚であり姪のあなたの選定係を預かったッス」

「せんていってなに? 最初にもそんなこと言ってた気がするけど、弱者だとか強者だとか意味わからない」

「あはは、まず、私たち『シートコール』についてッスね」

 杏里は説明をした。

 自分らが行ってきた数々の事業、数々の非道な行い。

 そして、目指す理想郷について――

「そんな夢物語みたいなこと‥‥人の命は誰かが支配していいものじゃないでしょ?」

「さすがは遠井優の親戚ということッス。遠井優もそう言って夢物語だの人の命は他人が支配するべきじゃないと言ってたそうッスよ。『サード様』から聞かされた話ッス。私にしたら、そんあのどうだっていいッス。命の有無など。自分らが最強たりえる理想郷をあの『サード様』が作ってくださるのなら私はそれに加担するッス」

「杏里‥‥あなたいままでどんな人生を‥‥」

 杏里の眼はどんよりと黒くよどんでいる。

 まるで、自らの過去を呪ってつそんな面影があった。

「さて、無駄話はここまでッス。私の選定において雪菜は合格ッス」

「どこをどういう基準で合格なのよ‥‥」

「どこをどう? 最強の者たちがいる中の環境で雪菜はずっと、みずからの意思を尊重し、周りの弱きものを助けてたッス」

そう言って杏里は腕に装着された機械を操作し空間にディスプレイを投射した。

いくつもの画像が映し出される。

そのどれも雪菜と他人の存在が映り込んでいた。

雪菜が手助けをしてる場面が映っていた。

迷子探しや地域のゴミ拾い、いじめられっ子の援助。しかし、自分が代わりにいじめられ役を引き受けてるだけの姿。

「とくにこのいじめられ役を引き受ける姿は感服したッス。弱者だからこそできる行動ッス。北坂雪菜、私は知ってるッス。遠井優の姪ながら彼の技術も受け継ぎながらセンスのなさで省かれ者として扱われてきた存在。北坂家も結構有能な家庭ッスよね? 一般家庭ではありつつも母は学者で父は有能な異界技師」

「だったらなに?」

「そんな環境下で生きてるあなたを賞賛したんス。省かれ者人生をあゆんでるなかで人に付き合う感情を忘れない――合格基準はそこッス。人を怨まない心を持ちあわせてるッス」

「‥‥‥‥私がそう見えた?」

「そうッス」

「おかしなこと言わないで」

 雪菜は言葉に怒りをにじませる。

 勝手な理屈。

 雪菜は自分が人を怨まずして生きてきたなんてことは一度たりともなかった。

 ただ、人に良い行いをすればすくなからず報われるそう信じてきた人生。

 コミュニケーション能力が高いのも人生の中で培ってきたものだった。

 しかし、結局は報われない。

 でも、そんな雪菜に心やさしくしてくれた人物がいた。

 遠井勇牙――またの名は龍牙優。

 雪菜にとって従妹の彼だけが雪菜の心を理解した。

「私のことを何も知らないで! 私はね自分のためにそうしてきたようなものよ! いつだってそうよ! 私が一助けするのは周囲の人がまるで行動を起こさないからこそ私が行う! 私はいつだって他人を恨んできた! あいつらは力があってなにも行動を起こさない! でも、お兄ちゃんは違う! お兄ちゃんだけは私の気持ちもきちんと理解ししっかりと他者を助ける心が――」

 雪菜はそれ以上言葉が出なかった。

 目の前の杏里が驚きのまなざしでこちらを見ておかしそうにうすら笑みを作っていた。

「なに?」

「いやー、そうまでして恨んでたッスね‥‥くくっ。人の心情はこうでもしないとやはり出ない」

 雪菜はその言葉を聞いて気付いた。

「わ、私をだましたの?」

「だましたとは失敬ッス。策略ッス。あえて逆のことを言えば怒りに身を任せてはくと考えたら案の定だったッス。日頃心に気持ちを抑え込んでる者は至ってそうッス」

 雪菜は恨みがましく喰ってかかるように身を乗り出す。

 しかし、鎖に引き戻されるように身動きが取れず。

「まぁ、落ちつくッス。やっぱり、龍牙優を殺す気はないッスね」

「だとしたらどうなの?」

「こうするまでッス」

 すると、例のフードの男が現れる。

 その頭衣を脱ぎ、素顔をあらわにした。褐色の肌にぼさぼさの黒髪。頬に従事傷。顔は鋭い顔つきでイケメンと言えなくもない。

 不気味な笑みをうかべながら男がすっと右手を雪菜の頭へ。

「『サード様』、もしものことがあれば――」

「なに心配はいりませんよ。彼女は抵抗できぬまま闇に落ちます」

「な、何をする気?」

「あなたは私の部下になるのです」

その瞬間雪菜の頭の中に膨大な怨念のある言葉が流れ込む。

「ぁあああああああああああああ!!」

とんでもない絶叫が力指揮部屋に響き渡る。

徐々に脳を侵食し始める黒い渦にだんだんと雪菜は意識を乗っ取られ始めた。

――――しばらくして雪菜の眼はどんよりと感情をなくしたようにうつろなものへと変わり足枷や手枷を外されてそのばに腰を抜かしたように座り込んだ。

「北坂雪菜、あなたは第2執行部隊隊長の称号を与えます。加倉井杏里の部下です」

「‥‥了解しました‥‥ボス」

 ロボットのような感情のない受け答えをする雪菜がそこに存在していた。

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