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国家秘密組織と特待生  作者: ryuu
前章 潜入調査開始――――テロ組織『シートコール』との戦争
29/123

夜の街

 ――17時半。

 放課後も終わりをつけ完全下校時刻が迫った時だった。

 一通の電話が来る。

 電話の表示画面を見ると着信は雪菜からだった。


「雪菜?」


 やっと彼女からの連絡に生返事で一言口に出し手にある書物を片付けながら応対する準備を行う。

 図書委員の人がこちらを睨みつけるようにしてるので早急に退散し図書室の外へ出る。


「もしもし、雪菜?」

『あ、お兄ちゃん、今まだ学校?』


 すごく耳に響く大きな声。

 疲れた体に響くのでやめてほしい。


「ああ、そうだが、少し声のトーン落とせ。しっかり聞こえてる」


『あ、ごめん。私さ、今、校門にいるんだけどすぐ来れる?』


「ああ、3分ほどで」


『なら、待ってる』


「ああ」


 数時間ほど時間をつぶしてついにかかってきた電話。

 軽く2,3言葉を交わした程度で相手からの謝罪の言葉の一つもないのですこしだけあきれ果てた。電話を切り、廊下にある窓を見る。

 ちょうど自分の真向かいにある窓を開け見下ろす。

 ここは3階の高さ。

 普通の人ならば飛び降りると怪我をする。

 しかし、優は違う。


「よっ」


 窓枠に足をかけ遠方を見た。

 ちょうど、校門付近に人影が立ってるのを目視で確認する。


「あれか」


 そのまま窓枠を蹴りあげ飛び降りると同時に真下の木に右手をのばし枝にしがみついて新体操の様に体を回転させそのまま地面に着地。


「ふぅー」


 何事もなかったかのように落ち葉を振り払う。

 すす汚れた制服に顔をしかめながら校門に視線を投げた直後に妙な気配を感じた。


「うぁ‥‥‥‥」


「ん?」


 声にもならない声をあげる、女子学生の姿。学校の昇降出口に位置する場所に一人のエルフらしき女子生徒が口を開け驚きにぱくぱくとしていた。


「まずった」


 見られてしまった。

 そっと、彼女に歩み寄って肩にポンと手を置いた。


「内緒にしておいてくれ」


 そう言って急いで校門へ駆けだし雪菜へ手を振った。


「待たせた」


「おそい! 何してるのお兄ちゃん!」


 3人の女子生徒が校門にいた。

 雪菜、リーナ、友美の三人組だ。

 例の約束通りデパート襲撃事件の詳細を伝えることが出来ることのみ説明してあげる約束を取り計らうための一緒の下校。

 それのために校門で待っていた3人。

 遅いといわれても結局優は何時間も待っていたのだから大目に見てほしい。


「これでも急いで3階から飛び降りてきたんだぜ。つか、俺は学校内で時間つぶしてたんだから大目に見ろよ」


「は?」


 雪菜が優のそんな言動に馬鹿でも見るような眼をした。

 優はメンバーを確認しながら約一名不在を知り雪菜に問いただす。

「加倉井さんは?」

「今日は急用があって先に帰ったわ」

「なるほど、じゃあ、このメンバーで帰るわけか」

「あーそれなんだけど普通に帰らずまた寄り道しないお兄ちゃん」

「だからお兄ちゃんじゃないっての‥‥で、寄り道?」

「うん」

「まぁ、仕事も夜からだから‥‥いいけど」

「なら、決定」


 雪菜の手に引かれて優はそのまま駅方面へ向かうこととなった。

 そんな、4人の姿を遠目で見ていた優のアクロバットな動きを目撃したエルフの少女はそっと独り言を漏らす。

「あれが特待生」


 ******


 新渋谷の街中にある一つのカフェレストランというよりはケーキ屋。

 そこで二人はお茶をしながらケーキに舌づつみする。

 例の情報提供の際に情報料としておごった店だった。


「うん、おいしい」


「スペシャルセットって‥‥また、なぜ俺はおごらされてる?」


「それは、お兄ちゃんが金持ちで男だからでしょ?」


「よくわからん」


 意味不明な理屈を呟きながら雪菜たちは実にうまそうにケーキを食べていた。

 優はひとりだけケーキを頼まずコーヒーを飲みながら一息ついていた。

 放課後になるまでの間だけでいろんなことが起こった。

 学園にいた『シートコール』の二人組。二人はミユリの監視とクリーエルを利用したミユリの精神的に追い込ませた抹殺をもくろんでいた。

 しかし、その計画はミユリが事情を知ってたことで破産し、じぶんお存在が大きく関与したことで完全に終結してしまう。


「――ちゃん! お兄ちゃん!」


 頭部に強烈な一撃におもわず顔をあげて痛む頭部を抑えながら殴った相手に目線を向ける。

「聞いてる? ぼーとして。上の空でさ」

「わるい。しかし、あたまを思い切り殴るな。魔力を容赦なくこめやがって」

 ずきずきとまだ痛む。

 本気の拳だ。

 あまり容赦のない雪菜に優はため息をつく。

「で、なんだって?」

「だーかーら、話。デパートの襲撃の詳細。なにがあってあんなこと?」

「事情聴取の時聞かされなかったか?」

「詳しいことは聞いてない」

 雪菜の言葉に今日はやけにおとなしい二人も頷いた。

 二人の視線はどこか神経を研ぎ澄ました瞳。

「なぁ、二人ともどうしたそんな緊張した面持ちで?」

「「え」」

 二人して意表をつかれたように素っ頓狂な声を上げる。

 様子がおかしい二人に目を細め観察してみる。

「ごめんなさい‥‥デパートのことで‥‥調子ではないので‥‥すこし神経が過敏に‥‥なって‥‥ます」

「そうですー、すみません。気にしなくて平気ですよ―」

 確かに一般的な人ならあのようん襲撃事件があった後の数日くらいでは本調子を取り戻せないのも無理はなかった。

「それもあって今回はお兄ちゃんに事情を願いたいの」

「なるほどな。今後の安全面においてか」

 自分らに降りかかった恐怖がいまだに尾を引いてるらしい二人。

 その辺り雪菜は国家の関連事情や何回か事件に巻き込まれたこともあり耐性があった。

 二人のためを思い雪菜は今後の身の安全を保証してもらう意味でデパート事件の詳細を聞きたいと察せた。

「まぁ、言ってしまえばあの事件を起こした犯人はみんな捕まったから安心していい。あれはたんなる殺人犯が警察から逃亡しただけでデパートに逃げてきたんだ。だから、一般市民に興味はないし君らを今後つけ狙うこともない。つかまってるからな」

「そうじゃないんじゃないお兄ちゃん? 捕まったんじゃなく死んだんでしょ」

「‥‥雪菜ここではそう言うふうに言うな」

 周りの客がふと一瞬だけこちらに視線を向けた。

 しかし、すぐに視線をそらして談笑に戻った。

「やっぱり‥‥警察の方が‥‥殺したん‥‥ですかぁ‥‥」

「いいにくいことだけど」

 優は頷いた。たった、それだけの挙動で二人はそれ以上口には出さなかった。

「心配はない。あのような事件は二度と引き起こらないよ。そうするように頑張ってる警察関係者も。治安維持は警察や国家政府の仕事だからね」

「そう‥‥ですか‥‥」

 安心とは程遠い様相を浮かべる二人に優はますます二人のことが気にかかる。

 いたいなにか裏があるそうかんがえてしまう。

 しかし、雪菜の親友を疑うことは避けたい。


「話はこの辺でいいんじゃない? おいしいケーキ食べよ」


 雪菜の微笑ましい笑顔を見るとまわりの雰囲気などどうでもよくなった。

 二人とも感化されたように笑みを取り戻しケーキを食べた。

 そのあとといえば結局デパートの話からそらしくだらない談笑をした。

 数時間後――――ケーキやを満足したように出た。

 そして、優は腕時計で時刻を確かめた。


「もう、こんな時間かそろそろ仕事に行かなきゃな」


 時刻は20時半少し過ぎ。

 仕事は22時からなんで10分前には仕事場には到着したい。

 ここから駅までおよそ10分程度である。


「あ、うん」

「あっという‥‥間ですぅ‥‥」

「‥‥ですねー」


 3人は時間が惜しかったように何やら悲しげな表情を見せる。


「おいおい、どうした?」


「いや、あっという間だなぁーって。昔はさ、もっと遊んでたよね。お兄ちゃんが強くなる前は。

 あ、お兄ちゃんは昔は弱かったとかそういうことを言いたいんじゃないよ」


「いや、俺は昔は弱かったさ。たしかに、雪菜の言うとおり昔はもっと遊んでたなぁ。けど、俺はもうそういうわけにはいかないんだ。

 治安も悪くなってるこのご時世だし何よりも年齢的にかなり仕事を与えられる立場にもなった。

 だから――」

 そのあとの言葉を優は飲み込んだ。

 心の中でささやくように。

(世界のために親父の失踪を探るために働かなくちゃいけないんだ)

 それを感じ取ったように雪菜たち3人は別方向へ視線を向けた。


「うん、わかってる。ごめんね、変なこと言って」


「いや、変なことじゃねえだろう。まぁ、謝るのは俺だな。悪いなもう少し一緒にいてられなくて」


「ううん、大丈夫。仕事頑張って」


「ああ、行ってくる」


 そう言って優は仕事場へ向かった。

 そんな後姿を見つめる雪菜は夜空を見上げため息をつく。


「もうすこしだけ、気晴らしにゲーセンにでも行こうか二人とも」

「いいですね」

「レッツゴー」


 そこで二手に分かれた4人だった。


 ******


 雪菜はゲームセンターで大好きなお兄ちゃんと長い時間いられなかった憂さ晴らしに親友二人と遊んでいた中ですぐにその熱も冷め10分程度でゲーセンから一人だけ出てくる。親友二人にはお花を摘みにだといいながらごまかした。

 来た意味がないとはまさにこのこと言うのか。

 雪菜が寒い体を震わせていると――


『北坂雪菜さんですね』


 黒いフードに全身をうずめた人物がに声をかけてきた。

 場所は新渋谷の近くにあった街中の路地裏街。

 ちょうど、本屋とかゲーセンの裏手にあたる部分だった。

 今の私は寄り道がてら趣味であるゲーセンにより苛立ちをぶつけ終わって出ていただけの一学生にすぎない。

 そんな雪菜にすぐにこの男に会話をかけられた。

 雪菜は男をにらんで判断した。

 性別は声の高さからして男。

 しかし、あまりにも目深にかぶったフードと首に巻いたネックウォーマーが口元まで覆っていて男の声がすこし物ごしに聞こえるのでかなり低めに超えた。

 まわりも客がまばらでそんな二人を気にする人などいなかった。


「あなた誰ですか?」


 雪菜は慎重に慎重を重ねて彼と会話を望んだ。

 何者なのか。一体何の用があるというのか。

 そう言う謎がどんどん生まれてくる。

 だからこそ、彼という人物を少しでも知ってみるように心がまえた。


『わたくしはとある会社の社員でして』



「そのとある会社員さんが私に何の用です?」


『こういうようだと言ったらどうしますか』


 フードに覆われた手。

 周りには雪菜の胸にあてられた物体は見えないだろう。

 雪菜自身にはわかった。



(銃!?)


 殺されるそう思って反撃を試みるが――――


『おっと、動かずにいてください。まずは、聞くことが先決ですよ』


 男の静止の言葉に雪菜は行動を抑えた。

 勝手に主導権を握られた雪菜は苦渋の表情でゲーセンの方に親友たちが来ることを願いながら目線をずっとゲーセン側に向けていた。


「聞く?」


『そうです、北坂雪菜。あなたは世界を変える一特権を得ました。世界を変えたいと思いませんか?』


「え?」


 かなり、突発的すぎる質問。

 いや、あまりにも唐突過ぎて誰でも躊躇するだろう。

 雪菜は自身が今何を聞かれたのかわからない。

 ただ、お兄ちゃんと名を呼んで助けに来てもらいたいくらい怖かった。


「なんて言いました?」


『もう一度言います、世界をどうしたいです?』


「世界? よくわからない? そんなの私にはどうすることもできないもん。そもそもあなたたち何者なんですか?」


『それは教えられませんが遠井優に因縁のある者と言っておきます』


「っ!? おじさんと!?」


『今の反応で北坂雪菜、あなたは現段階は無害とみなします』


「何を言ってるの。私にはさっきからさっぱり意味不明なんだけど」


『気にしないでくださいこちらの話です。さて、となればやはり息子の彼のみか殺さないといけませんね。強者である彼を』


「っ!? 今お兄ちゃんを殺すって言ったの!?」


 雪菜は周りの目を気にせず男の胸ぐらをつかんでいた。

 とんでもない腕力だった。

 それは魔法による筋力増加術を瞬時につかった影響。


『うぐぐ、北坂雪菜。私は‥‥何も‥‥今は‥‥しま‥‥せん‥‥すぐ‥‥手を離して‥‥さい‥‥すれば‥‥行為を‥‥見逃し‥‥よ』


「お兄ちゃんを殺すってどういうことか説明してよね! お兄ちゃんに何かしようものなら私許さないから!」


『ふふっ‥‥愛する‥‥ものらしい‥‥です‥‥ね』


 フードの男は雪菜の手を自らの魔法ではじき雪菜も同時に弾き飛ばされた。

 そのまましりもちをつき雪菜は、キッ、と男を睨んだが男は鼻で笑う。


『私の目的は彼を殺すことです。勝手にさせてもらいます』


 そう言って男は去ろうとする最中だった。

 雪菜は自分のコミュ力と頭の回転を生かしこんなことを発言していた。


「愛する人冗談じゃないよ。彼を殺したいのは私の方」


『何ですって?』


 その言葉はもちろん嘘方便。


『どういうことです?』


「そのままの意味。知りたいなら彼を殺さないで。私に殺させなさい」


『はん、信用なりませんね。その言葉は』


「あなたたち側に付いて協力すれば信用なる?」


『‥‥くくっ、あははは』


 実に滑稽だとばかりに笑い声をあげた。

 予想外の出来事だった男にとってこのことは。


「あなたたちどうにもその感じから人員不足みたいだしね」


『どうしてそうわかります?』


「だって、あなた一人で私に接近するっておかしくない? いくらなんでも私が遠井優の親せきでもね。かなりの実力者っていいこんで数人は用意しとくんじゃないの?」


『‥‥‥‥‥‥』


 雪菜は『してやったり』という表情をおくびにも出さず平然と嘘を並べたててみた。


「私は彼にすこし恨みがあるから殺したいの。それがどっかのバカな組織についてでも殺していいのよ。この身を売ってでもやってあげるよ。その代わり彼は私に殺させてよね。それが条件。それまで殺さないで彼を」


 男は悩んだ。

 その時、雪菜の背後からもう一人赤い髪の包帯に巻かれた少女が表れた。

 その少女を雪菜は知っていた。


「杏里?」


「ユッキー、これであなたも仲間でーす」


 雪菜に彼女はいつの間にかにじり寄っていた。

 その時ゲーセンから二人の少女が飛び出してくる。


「雪菜ちゃん! 離れて!」


「雪菜っ!」


 飛び出した二人は友美とリーナ。

 二人が放った魔法の弾丸が杏里へと殺到し杏里は雪菜から距離を置いた。

 そくざに周りの市民が騒ぎ逃げていく。

 二人は杏里の背後の男、サードに目を向け観察する。

 どうにも、かなりの実力者らしいというのを一目で理解する。

 まったく信条が読み取れない。

 今までどんなひとでも二人は大体相手の心情はわかるはずだった。

 けど、この謎の人物はまるで心がないようだ。

 しかも『亜人』。


「やはり、お二人はただものじゃないって感じッスね」


「『特部』でいただいた情報通り北坂雪菜に近づく輩がいると聞いてましたよ―。それがあなただったとは意外でしたよ―杏里さん」

「杏里ちゃん‥‥」

「あなたがた親友二人と戦うのは心痛いッスがしかたない――とでも言うと思うッスかっ!!」


 そう言った後に杏里とフードの男は突然出した霧にまぎれて飛び出してくる。

 リーナと友美はそれぞれ横合いの衝撃から吹き飛びそれぞれが店の中に放り込まれた。

 店の中はざわめき立ち市民の一人が警察に連絡をかける。

 霧が晴れたと思えばもうそこに二人と雪菜はいなかった。

 二人はゆっくりと言葉を紡いだ。

「雪菜‥‥」

「雪菜ちゃん‥‥」


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