スパイの二人
『擬態』――亜人が常に人間界で生活をするうえで法律によって余儀なくされてる事項の一つ。
しかし、その擬態には擬態できない亜人も中にはいるので特例条件も会ったりするが基本的に擬態は義務付けられてはいる。
『共生学園』においても人間社会で溶け込むうえで『擬態』を日々おこなう亜人は多くおり半数の亜人生徒は『擬態』をしていた。
残りの半数は『擬態』が難しい生徒で占める。
そして――擬態にはもう一つの意味もあったりする。
――――力の温存。
「ぐっ!」
茨木童子――鬼という種族の『亜人』。
鬼は日本古来の昔話にも出てくる最強の魔物。
鬼の力は地を割り海を穿ち、地形を変貌させるほどの強大な力を持つ存在。
数多くの『亜人』との戦闘経験を得ていなければ優は死んでいただろう。
それほどの数々の打撃が放たれ優は防御姿勢を取りながらカウンターを連続して与える。
童子のわき腹や鼻っつらに蹴りや拳が見事に当たる。
童子は相手が一向にひるむ様子がないのに対し自分の方が一撃一撃のカウンターをもらうたびに体にガタがくる感覚を味わっていた。
(こんな学生風情があたいにかなうはずはないだろうがぁア!)
童子は認めたくはなかった。
彼に自分が負けるイメージを。
「童子何やってんすかね!」
横合いから鼎は炎光の拳をふるってくる。
優は見切っておりその腕を受け止め、その腕を支える軸にして逆上がりをして鼎の頬へ容赦なく蹴りをくらわす。
「ぐがぁ!」
湖乃故鼎――獣人と呼ばれる種族の中で『バステト』とよばれる類の『亜人』。
神話に出てくる太陽神の娘であり、創造神の妻とされた種族。
その姿はライオンのようであるとされる存在である。
力は強い火を帯び、相手の未来も予測することが出来るバステト。
しかし、鼎は優の未来が予知できなかった。
未来予知を試みようとするももやがかかったようになり、行動予測不能。
「なんなんっすかね!」
地に膝をつきながら跳躍をしてかかと落としのように振りおろした。
優は頭上で腕をクロスし防衛の構え。
それを崩すように童子が背後から頭突きをくらわすが――
「いてぇなぁ」
体をひねり童子を蹴り飛ばす。
鼎の攻撃を軽々と避け、火炎玉を放ち鼎へ炸裂。
「ぎぎゃぁああ!」
「んなっ、てめぇ、何もんだぁア?」
童子は目を回しながらも立ち上がり優を見すえた。
明らかな強さはもう学生のそれじゃない。
よく考えればよかった。
「私たちのことを調べてるようだがなぁア。普通の学生じゃあそこまで調べ切れねぇ。つーか、私たちに情報を吐かせてどうする気だぁア?」
「語る必要性はないが反省する余地があれば俺が何者か語ってやろう。未成年である君らには執行猶予時間を長く設けてやるさ」
「てめぇと年齢かわんねぇで未成年扱いしてんじゃねぇエ!」
優は瞬時だった。
童子が毒を吐きながら突撃に合わせ振るった腕を見きってつかみ背に向かい腕をひねる。
警察官が犯人を取り押さえる形だ。
「いてっ! あぐぅう!」
「童子!」
「動くな!」
「っ!」
「動くとこいつを殺す」
童子の首筋にはナイフがあてられていた。
鼎は容易に動くことが出来ない。
童子はどうにか解放を望むようにもがくが逆に首にナイフが食い込んでいき痛みが増す。
仕方ないのでうなって大人しくするしかなかった。
そうして、なぜ、童子は驚いたか。
通常、鬼の攻撃というのは一般人の攻撃速度より異常に早い。
ただ、運動神経がいいからといってそうやすやすと鬼の攻撃を止められるわけがない。
だが、優は普通の人間ではないから止められた。
でも、その事実を童子は知る由もない。
「もう、降参してくれないか? 俺も殺しは好きじゃない」
「はん、その目は平気で殺戮をしてきたやつがする目だぁア。なにが殺しは好きじゃないだぁア。うそをつきやがってぇエ」
優は冷やかに目を細め童子の腕をより締め上げた。
肩関節がきしみを上げ童子は唸り声を上げる。
「童子をはなすっすね」
鼎も手段を選ばない。
最後の切り札とばかりに頭上に大きな球体を出現させていた。
高温の火炎球体。
あたりが夏の蒸し暑さのような空間をつくりだす。
ミユリとクリーエルが熱さにやられ倒れ出す姿を優は見て歯噛みする。
「よせ。容赦なくなる」
「なにがぁ容赦なくなるって言うんすかね?」
「死にたいのか?」
「それは私のセリフっすね」
火炎は放たれた。優は童子を突き飛ばし火炎に向かいだす。
体の奥底に眠る力を限定的に開放しナイフを火炎の球体に当て切り裂いた。
「なっ!」
さすがの鼎も驚き隙を見せてしまう。
優は見逃さず急接近し、鼎の腹を蹴り飛ばし壁にうずくまさせ、踏み込みざまに再度接近し首を締め上げる。
「あぐぅ‥‥‥‥がぁ‥‥」
「殺しはしたくない。交渉次第でな」
「こう‥‥しょう? そんなの――」
「鼎!」
優に首を絞めら得ながら抵抗を見せたときだった一つの高い声がわりこんだ。
「どうじ?」
「もうわかったぁア‥‥そいつにかてない‥‥きづいたぜぇエあたしはなぁア」
「どういうことっすね?」
「特待生‥‥あんた掃除屋だな?」
童子がふらついた足取りで立ち上がりながら殺気を収め降参のように両手を上げた。
「言動や殺気の行動。明らかに相手を捕縛するすべを基礎で身につけたしなる動き‥‥掃除屋に違いない。ちがうかぁア?」
「御明察だ」
優は鼎を捕縛から解放し、嘘をつく余地はないと判断し、正体を明かす。
相手の殺気を消したそれは明らかに降参をしている。
もし、鼎を捕縛していた時に降参をしていなければ優は攻撃されていたと踏んでいた。攻撃をされていないというのはつまりしっかりと降参する意思を感じた。
「あたしらは『シートコール』の部下さ。ミユリが言ってたとおりな。クリーエルに復讐をたきつけたのもあたしらさ。ミユリはこっちの情報を握ってたからクリーエルにうその情報を散々うえつけ復讐心を耕させいずれ、ミユリを精神的に追い込んで殺す算段だった。しかし、意外だったのがミユリがあたしらがスパイと気づいてたこと」
ミユリはそっと視線をそらしながら彼女の視線から逃れた。
「私はクーちゃんのことをずっと見てきました。そして、個人的に『シートコール』を調べてきました。だから、あなたがたがスパイということを気づいてしまいました」
優はただもう黙ってその光景を見るしかなかった。
罪の告白とミユリの知った事情の告白。
「かかっ! なるほどなぁア。たいしたやつだなぁア。一般人にしたら。龍牙優さん、あんたはあたしらをどうするきだぁア? 掃除屋ってのは交渉次第で身柄を守ってくれたりすんだろぉオ?」
「ああ。そうだ。そっちが『シートコール』について有益な情報をくれたらな」
「有益な情報かぁア。いいぜぇエ。交渉しよう」
「童子!」
鼎はそれを拒否するように声を荒げて童子に訴える視線を送った。
「かなえあきらめようぜぇエ。だってよぉオ。あたしらは確かに『サード』に恩義はあるがぁア、あいつはもはやいかれてるってのはわかってんだろうがぁア」
「それはっすね‥‥」
ためらう鼎を見て優は頭皮を掻き毟りながら、嘆息して呟いた。
「テロ組織ってのはたいてい裏切り者を許さないってパターンが多いそうだな」
「っ!」
「鼎さんあんたが心配してるのはそこか? 命の危険性」
「‥‥」
無言は肯定だ。
優は電話を取り出した。
そして、『伝達室』に通話をかけた。
数秒のコール音の後に『はい、こちら『伝達室』コードMHです』と声が聞こえる。
「こちら『討伐犯』コードDDだ。テロ組織構成員2名を捕縛した。その2名は交渉の余地が見え、身柄の安全を保証したい。有益な情報を所有してる。『テロ対策室』および『掃除屋』ボスにつづけ、『世界統治管理責任者』の源蔵さんに通達をよろしくお願いする」
『わかりましたすぐに手配をお願いするよう伝達をします。しかし、現在アリス・クリスティア社長と通信がつながりません。ですので『テロ対策室』室長、婁憲明および『世界統治管理責任者』源蔵正一様にのみ伝達をいたします』
「わかったすぐに頼む」
『了解です、では引き続き任務をよろしくお願いいたします。御武運を』
電話を切って優が最初に目にしたのは鼎の驚きに満ちたまなざしだった。
「あたしらが『シートコール』について話す可能性はまだないはずっすよね? なのにそんなことしていいんすかね」
「俺にはそうは見えねぇ。さっき童子は平然と『サード』とかいう奴の名前を出してたってことはあきらかに交渉をする可能性があるとみてる」
鼎と童子は互いに目線を合わせ気力を抜いたようにして寝てしまう。
「すきにするっすね」
「そうさせてもらう」
優は笑みを浮かべていじめ問題を解決した。
「さてと、ミユリさんの治療だな」
優はそのままぐったりとクリーエルの腕の中で苦しむミユリにナイフをすぐさま抜き取り治療魔法をかけた。
そして、自らの腕を切り裂き血を垂れ流しミユリの傷口を優の血がふさいでいった。
「その力って‥‥」
「このことは秘密な。クリーエルさん。ミユリを保健室まで送るよ」
「あ、それなら私がやります。あなたは別の用事があるんじゃなくってぇ?」
クリーエルが背後の二人を見た。
「だな、俺は彼女たちが悪さしないように教室まで戻ろう。教師には伝えとくよ。ミユリさんはあとは安静に眠ればすぐ回復するさ」
優の力は治癒能力を高める。
あとはミユリ本人の力ですればよい。
優はミユリを抱えて出ていくクリーエルに付き添う悪目立ちズの姿を見送ってから童子と鼎をひきつれて教室へと戻った。
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