保健室で
学内の保健室。
広々とした空間にベットが二つ左の空間に右の空間には薬品棚と冷蔵庫が壁伝いに設置されており、簡単なデスクとチェアがある。
そのそばにはソファもありそこに優はミユリを座らせて手の手当てをする。
傷口はそう大きくもなかったので手首の傷に消毒をし、傷薬を塗ってガーゼを張り包帯を巻いておく。
大きくはないといっても木材の切り傷。バイ菌とかの心配ごともあるのでまぁ、大げさではあるが軽い処置を施す。
「龍牙くん、私のことなんかほっておけば‥‥‥‥クラスでの私の扱い気づいてますよね? あなたまでひどい目にあう可能性だってあります。だから、私なんか置いて教室へ――」
先ほどから彼女は優を避けるような言い方をして、すぐに教室へ優に戻るように進言するかのような言動で躍起だった。優は一通り医療器具を片付けながらその話を聞き流す。
彼女はその際にも優を避けてるのであれば自分だけ保健室から抜け出せばいいものだが逃げようとはせず、内心は助けてもらったことへの感謝で勝手に逃げるというような振る舞いにためらいが生じていた。
「何言ってるんだか。俺は弱い者いじめを行いにこの学校に来たんじゃない」
そう言いながら医療器具を片付け終えて、ミユリの隣に腰を下ろした。
「‥‥‥‥私がどういう人かお聞きになってるでしょう? 私は盗人で貧乏人です。この学校では一番の底辺です。関わってはいけないんです。ただの委員長でクラスの奴隷であなたと不純的な動機の為に接した。だから、ただの世話役としてかかわりを持ってください。私に対してやさしさなど不要ですから‥‥‥‥お願いです。このまま龍牙くんは教室へ――」
「なぁ」
優はその最後の言葉を打ち消すように大きく声を張り上げるように怒りをにじませその一言を発する。
ビクリと恐怖に体を震わせながら彼女は目をつぶり起こられるのを覚悟で涙を浮かべていた。
殴られるのも覚悟の上だった。
「俺のことは優でいいよ。ミユリさん。名字で呼ばれるの好きじゃないんだ」
優の言葉を聞いてミユリは「え」としか言葉んできず困惑する。
一体何を言われたのかまるで理解できていない。
『特待生』として『掃除屋』として『龍牙優』は心からの言葉を話をしてみた。
「あんたの立場がどうのこうのとか関係ねえよ。ミユリさんに対して俺は友達としてなりたくて、勝手にこういう行動をとってるにすぎない。誰かが俺に何か関与してこようが別にいいさ。友達になりたい奴の身をかばうのは当然の義務ってやつだ」
「友達‥‥‥‥」
「そう、ダメかな? 俺と友達になれないか?」
「だって、私の話知ってるならそんなこと――それにあなたはデパートで私に関わったばかりに危ない目に――」
「なぁーにいってんだよ。あれはもう終わったことだろ」
ミユリの表情は次第にうろたえ始める。
そんなこと許されるわけないとでも言いたげに。
「それからその盗人って言う汚名は部活動の資金を盗んだことが原因だよな?」
「っ!」
優のそのセリフを聞いて今までに彼女が見せてこなかった恐怖と驚愕それから悲しみがないまぜ状態になってるような何とも複雑な表情で顔を青ざめさせ口をあけて返答に迷う素振りでいる。
優は決して返答を求めはしない。彼女が盗人であろうが無かろうが関係はない。友達になりたいと感じたのは本心だ。
彼女は誠実で真面目でやさしく優を気遣う態度には快く思ったから。
だからこそ、彼女とは友達になりたいなと思える。こんな子がいじめれてる方がおかしいんだ。
「盗みが君がやったという真実であっても俺は気にせず君に友達なってくれって言う。君みたいなやさしい子は俺だけじゃなくたって友達になりたがる奴は多くいると思うぜ。つーか、貧乏人とかなんだよ。それを言うなら俺だって貧乏人のくせに特待生として来てるしこの学園で『一人の男子』。そっちのほうがいじめる対象じゃねえのかって思うのにさ」
ちょっと、偏見な言い方だったかもしれない。しかし、優なりに励ますような言い方を試みた。
「あとだ」
優は最後につけ足す。
自分なりの経験則を踏まえた盗人についての考えを述べた。
「ミユリさんみたいなやつが資金を盗むなんて俺には考えられない。それとミユリさんが俺に接触したのは不純な行為とかそんなの関係ないんじゃねえの? ミユリさんの眼にはそんなのが最初感じられなかった。ミユリさんはただ友達になりたくて接触した。そうなんじゃねぇの? ――ってあくまで自意識過剰な推測だけどな」
ミユリは信じられないというように口をつぐみ否定をする。
「ちがいます!あれは私が――」
「知り合いから聞いたんだがクリーエル・杏奈・フェン――彼女とミユリさん幼馴染なんだってな?」
「そ、それは‥‥」
「どういうわけかしらないが今のミユリさんとクリーエルは仲が悪いように見える。どうしてだ?」
ここにきて優はズバッと問いただしてみた。
過去を聞くということはそう簡単でないとわかっていた優だが今の状況の流れを最適と踏まえ聞いてみた。
「‥‥‥‥昔から私とクリーエルさんは仲悪いです」
結局本心を呟いてはくれないミユリに優はあきらめるように嘆息をした。
「そうか―――にしたって先生がいないってこの保健室はどういうことだよ。生徒が仕切ってる学園ってあながち間違いじゃないのか?」
保健室にはいるはずの保険医の先生がいなかった。
なんでも、今日は用事があるとかで休みらしい。
「仕方ないんですよ。この学園の保険の先生は臨時講師ではありませんから」
「非常勤講師なのか?」
「はい」
「へぇー」
確かに周りを見ればそう、保険教諭の私物はそうあるわけでもない。
どちらかといえば学校のものが多い。
優は彼女の方を見た。今の返答に対して涙気な声が混じってたからふと、気になったからだった。
見れば、彼女は大粒の涙を流していた。
「おいおい、どうした!? きず痛むのか!?」
優はベットから腰を上げてそばによる。ミユリの手首をさすってやる。
心配そうに気に掛けた。彼女はイスにうずくまって涙気な声を荒げた。
「今まで‥‥ずっと‥‥‥だれもが避けてきた‥‥唯一の友達だった‥‥‥彼女も‥‥‥私を避けて‥‥‥‥私はずっと一人‥‥なんで‥‥あなたはやさしく‥‥うぅう」
『一人』だと思ってたんだ。彼女はずっと。ミユリの言葉は唖然としたものだ。
優にとって孤独は生活の一種だった。だから、そこまで悲しくは感じられない。しかし、一般人にしたらそれはよほど悲しいことなんだと実感する。
優はミユリの手を取って右手首包帯を巻いてるその手首の上に優は自らの手を乗せ光をまきちらす。
白魔術の治癒魔法。
ミユリは温かい感覚を手首に味わい、だんだんと痛みが和らぐのを感じた。
「え‥‥‥‥すごい‥‥‥‥‥こんな高度な魔術どこで」
涙気なまなざしで顔を上げそっと触れられた怪我した側の右手を見つめた。
痛みがもう、なかった。心なしか気持ちもやわらいでいた。
「俺の母親は全種族の担当魔導医師だったんだ。だから、母さんから小さいころにこういう治癒魔法を良く教わってた」
「それでも、こんな高度な魔法を教わってたくらいでできるわけないです」
彼女はマジマジと優のその力を放った手を見つめた。
優は苦笑いを浮かべてどうってことないよって感じでひらひらと手を振った。
痛みを和らげる――――治癒魔法においてそれはかなり高度なものになる。
全神経を研ぎ澄ましより、高度な光を体の奥底で集中し生み出す。それを、相手の痛みを伴う部分に浸感させる。
はっきしいえば、精神面でも強くなくてはならない。
なので、そうやすやすとできるものではない
人はかならずしも、長時間精神をきよらかにし相手をおもんじる心を思い浮かべるなどできるわけはない。
だが、彼はやってしまうのだった。
「最初から不思議不思議とは思ってました。ここまでとはすごいです」
「そんな大したことじゃないさ」
「それにそのやさしさがあるからこそかもしれないですね」
「俺は優しくないよ」
優の今迄からガラッと変わった雰囲気に敏感にミユリは反応を示した。
何か言葉を発しようと思ったが危険な感じがしたので言葉をつぶやくのをやめる。
「ミユリさん、俺はあんたの友達になりたい。ミユリさんが俺をどう思ってようが関係なくな。だから友達になってくれるか?」
「わ、私の話聞いてなかったんですか? 私はそんな――」
優はミユリの両手を優しく包み込むように握る。
心からの笑顔を向けて彼女の質問に誠意をもって返す言葉。
「聞いてたさ。だからいってるじゃねえか聞けよ。関係ないあんたが盗人であろうが卑しい人間だろうが俺には関係ない。ミユリさんと友達になりたい。困ってるミユリさんを助けたい」
彼女は涙を流し「私は‥‥私は‥‥」そう言って彼女は立ち上がると保健室を飛び出した。
「み、ミユリさん!」
優は飛び出したミユリの背を追いかけかけ出した。
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