ウルス死亡
龍牙優――それは彼が『掃除屋』の右腕として与えられた名前。
彼の本来の名は遠い過去のものである。
彼に本来の名――遠井優牙としてはあったがそれは今後の人生で危険を伴う名前だと感じてアリスは彼へそう捨て去るように命じた。
その彼が閉じ込められたデパートへアリス・クリスティアはやっとのことで到着し急ぎ『掃除屋』数名をデパート内に侵入させる。
あちこちでは包囲網が敷かれデパートの外部では警察の包囲線が敷かれ、客の出入りを禁止させる。
周りにいる群がる野次馬たちが何事かと携帯のカメラでデパートを写真におさめる姿を見てると苛立ちながら鋭い眼光を持ってデパートを見上げた。
「DD」
職場にいるために彼の名をコード名で呟きながら、アリスは心をざわつかせた。
「ボス、わたくしも出向きますか?」
「エリス‥‥」
物腰が固くインテリ感を漂わせる赤髪の美女――エリス・F・フェルトが「ビシッ」とした防刃防弾スーツを着込んで戦闘介入を意志を問いただす。
彼女は龍牙優に続く『掃除屋』最強の女性。
『掃除屋』では死体の清掃――『掃討犯』に属す彼女。
その彼女は実際はアリスの左腕と称させられるほどに実力を兼ね備えたもので過去に『討伐班』龍牙優が属す場所にいたころに彼女が壊滅させた『亜人』テロ組織は10以上にも及ぶ。それのおよそ5割は彼女単独で行いつぶした実績を持つ。
「ええ、お願い。ゆ――DDとの通信が途絶えた現状が心配だわ。中にはまだ一般市民も取り残されてると聞くわ。それに今回のはテロ的行動が関与させられてる」
アリスはここに来る途中で『対テロ係』から妙な情報を預かった。
指名手配犯『ウルスガラディーン』に資金を提供する者の存在――『シートコール』という企業。
しかも、その組織以外にも謎の企業からの提供もあずかっている。
この近辺で『ウルスガラディーン』が目撃されたのも『ウルスガラディーン』が何らかの不祥事を行ったばかりに資金提供者――『シートコール』との争いがおこり新渋谷に逃走中警察に見つかったとのことだった。
「シートコール何者‥‥」
手元にある資料を読みながら首をかしげる。
「では」
エリスの背へアリスはあわてて呼ぶ。
「エリス、相手を一人とらえる余地があればお願いするわ」
エリスは敬礼をし、デパート内部へ突入をした。
「さてと」
アリスはアリスでシートコールを調べながら現場の指揮を仰いだ。
「第2班は周りの警戒! 第3――」
******
「がはぁっ」
ウルスガラディーンは自分に起こったことが衝撃的で信じられずにいた。
『亜人』と化した自分は上位『亜人』といわれる吸血鬼を何度も殺してきたほどの実力ある『亜人』ウルフの一族。
その自分を圧倒的な威力の貫手でウルスの腹へ貫通させ悠然とさせる表情を持った青年。
ウルス族は頑丈な肉体が売りでありウルスガラディーンの場合、ウルス族以上の肉体的強力性を帯びた『吸血鬼』でもたとえその肉体は貫くことはないと考えていた。
しかし、馬鹿なことが起こった。
「ぐふぅ‥‥なぜにたかが‥‥半吸血鬼ごとき‥‥に肉体が‥‥貫かれ‥‥ぐふっ」
貫手を引き抜いた優は血を振り払い倒れたウルスガラディーンに冷めた目つきを向け答えを言う。
彼は『半吸血鬼』だった。
戦いの中で突如として見せたその変貌はウルスガラディーンは驚きを抱いた。
「俺は普通と違うからな」
「ただの学生ではない‥‥ということか」
「‥‥‥‥」
ウルスガラディーンはその無言が肯定を示すものだと受け取り天井を仰ぎ見ながらうすら笑みを浮かべる。
この男には勝てないそうさせる力はあった。
これほどまでの人物が存在したことへの驚きと賞賛。
「くふふっ」
「さてと、てめぇは一人で来たんじゃないな。何かから『逃亡』してきたか? それも『警察』ではないな」
「‥‥くくっ‥‥なぜわかった?」
「勘さ。あきらかにあんたほどの磁力があるならば警察に逃げず対抗をする姿勢をとるはずだ。しかし、あんたは逃亡をするようにデパート内に入った。そして、無意味になぜか人を殺戮し始めた。あれは現状を錯乱させるための行為」
何もかも見とおされたことにウルスガラディーンは驚くことはなかった。
そうではないかという感じが心の奥底でわかっていた。
「そのとおりだ‥‥青年‥‥名はなんという‥‥最後にそれぐらいは聞かせろ」
「名前なんてありゃぁしねえよ。俺は本来の名を捨てた」
「どういういみだ?」
「余計なことを言ったな‥‥今の名は龍牙優だ」
ウルスは彼のいうないように不明を抱きながらそっと瞼を閉じた。
眠るようにウルスは死亡した。
「安らかに逝け」
彼へ言ってることは優しげだが感情は気うすであった。
優はそっとホールの奥を見すえる。
「ちくしょう、雪菜たちの気配をまだ感じるということはなにかあったか」
優は苦渋をしたためながら天井を見上げた。
「うぉっ!」
天井からの落下物。
それは天井についていた蛍光灯。
「この場所はあぶないな」
ささっと奥へ進行をしながら進むと引き返してくる団体と鉢合わせする。
「雪菜っ!?」
先ほど優が逃がした従妹の存在に優は驚きと怒りをにじませた。
「馬鹿! こんなところで何してんだ! さっさと逃げろって言っただろ! それに他の客は!」
「お兄ちゃん‥‥ごめんなさい‥‥‥ごめんなさい」
雪菜は突如として泣きじゃくりわけもわからず優へ抱きつく。
後方を見て杏里の存在を確認する。
「なにがあった?」
「避難通路を利用しようとしたで―す。けど、チップにひびが事故で入ってしまいましたでーす」
「なにっ! チップは?」
「そのまま挿入されたで―すけど‥‥」
「避難通路が解錠されず絶たれたってわけか‥‥。他の客は? 友美ちゃんとリーナさんは?」
杏里の表情は悔しげに背後の道を振り返る。
「敵が‥‥お兄ちゃんの言うとおり‥‥敵がいて‥‥一杯殺されて‥‥」
「雪菜、ウルスの死体のある場所――さっきのホールまでいけ! そこで待ってこれを持ってろ!」
「これって」
優は自らも携帯を渡す。
「おおよそ、あのホールには敵も来るだろうがその前に『掃除屋』の連中が来るだろう。その携帯には『掃除屋』とつなぐGPSが入ってる。衛星通信で俺の居場所を特定してやってくるはずだ。シャッターが解錠されるのはたぶんあの場所だけ」
ちょうど、入口付近のホールがウルスの死体がある場所である。
そこを目指し優はアリスが行動を起こすことを推測する。
最初に開かれる場所はあそこ。
ウルスガラディーンが死んだ今ならば安全な場所は今はあそこしかないと考えた。
「殺人鬼は死んだで―す?」
「ああ‥‥死体があると思うが気にするなって無理か。極力見るな。あまりいもんじゃないしな。俺は二人を助けてくる」
「お兄ちゃん!」
雪菜は優を離そうせず力強く抱きついた。
優はその肩をそっと抱き寄せるように両手をついて、突き放す。
「雪菜‥‥なに泣いてるんだ? おまえらしくねえ。俺が誰でどういう人か知ってんだろ? 平気さ。アリスがすぐ来る安心しろ。俺も死なない」
「でもっ――」
「いいから行け!」
杏里は状況に慣れきったような対応に少々優はいぶかしみながらも杏里へ任せるようにこう言葉を述べた。
「雪菜を頼むよ」
「わかったで―す」
「なぁ、学生さんなあんた――」
「あなたがたも彼女たちについて行ってください! 警察関係者がすぐにその場所に来ますので」
雪菜と杏里についていた一般客が優へ何かを言う前に優は促すように言葉をつけ足した。
優は奥へ急ぎ駆け出した。
その後姿を杏里の眼は殺気を帯びるようにして見つめていた。