情報
――――放課後
優は帰らずただ、携帯電話を片手に人気のない屋上に来てある人物に連絡を行っていた。
「こちら、コード『DD』だ。業務に関する依頼を要求したいんだが」
『依頼? どういうこと?』
優は今日起こったミユリ・ハーフェス・杏里のことについてを語った。
それを聞いたアリスは「なるほどね」と理解したようにつぶやいてからがさゴ外電話越しに何かを探る音が隆義の耳に入る。
『わかったわ。それで依頼内容は?』
準備はできたとばかりに問いかけるアリスに隆義は整理しながら簡潔に一番手っ取り早い一言で述べられる内容を述べた。
「彼女の素性を調べてくれ。その資料がほしい」
『何それ? ストーカー行為ならやめなさい』
「なんでそうなるんだ!」
仕事モードであったのに今の言葉ですべてがぶち壊されたことに腹を立てる。
こちとら、まじめに聞いてるというのにその言い方でまじめな空気の崩壊である。
「お前理解してるよな? 俺は仕事として依頼を申し込んでる。今回のはあくまでいじめ問題解決案のための資料がほしいんだ」
『女のプロフィールを知りたいなんて変態じゃない』
「それはそうかもしれないがこの場合は違うだろうが! 卑猥な考えは一切ない!」
『どうかしらね』
事情を知ってるだろう彼女はからかって言ってる。
電話越しに笑みを浮かべてるのが思い浮かぶ。
『プライバシーの侵害なのわかってるわよね?』
ほら、当たり前の様な事を言って隆義をからかい続けて戸惑わせる。
腹立たしい限りで顔をしかめる。
さすがの隆義も堪忍袋の緒が切れかねない。
しかし、相手は上司という立場であり隆義もそこはこらえた。
「今までも国家の仕事でそういう内容が多くあったはずだが俺だけそう言うこと言われるのは理不尽じゃないか?」
苛立ちを交えながら青筋を浮かべながら電話口に正論をぶつける。
アリスは笑い声を上げながら謝罪を述べて――
『冗談よ』
まったく気持ちのこもってない一言を述べた。
隆義もさすがにこれ以上付き合いきれないとばかりに盛大に嘆息。
「冗談に聞こえないんだがよぉ‥‥ったく」
『ごめんなさい。もちゃんと理解してるから調べとくわ。ちゃんとした仕事なんでしょ?』
「ああ、彼女がクラスでいじめを受けてる。それを解決するのも仕事だ」
『まぁ、本来は学校の教師の仕事でしょうけれどその学校自体生徒が目上の立ち位置見たいだしあなたがやるしかないようだしね』
そう、書類にもこの学園は生徒の方が先生よりも上の立場にあるのだ。だから、あの体育の授業においても自習だった可能性がある。
いくら先生らが厳しく言い広めてもそれは効力をなさないのも教師の態度に原因があると見えた。
(座学も自習に近い感じだったもんな)
生徒が目上の立場な理由としてあげればこの学園は生徒全員が現世界でのお嬢様ぞろい。
要は財政界の重鎮の令嬢とかが多くいる。
そんな学園なためか生徒が上らしい。
といってもそれは9割で1割にはキチンと普通の一般の市民の人もいる。
ちなみに隆義の『自称妹』こと従妹の雪菜はその例に入る。雪菜は親せき、要は隆義の家族は結構偉い人物だが雪菜の家族は別に普通のサラリーマンの家庭だ。
こうした割合の学園だからこそ学園理事長は隠密依頼を行い『掃除屋』に騒動などの喧嘩のことも頼むしかないとなってるのかもしれない。
報告書に記載された内容の派閥とはこういうことも言ってたのかもしれない。
『資料完成したらメールに添付して送るわ』
「ああ、よろしくたのんだアリス」
『だから、社長もしくはボ――――』
『ス』を言われる前に隆義は通話を遮断した。
あれ以上ややこしいことを言われるのは避けたいからだ。
なによりめんどい。
彼女とは幼馴染だからこそどうしても年上であったとしても呼び捨てが定着する。
そのほうが親しみやすい
「さてと、アリスに頼んだし、あとは――」
優は携帯を取り出した。
*******
北坂雪菜は少し変った家柄に生まれた女の子だった。
でも、雪菜自身は自分は普通な家庭に生まれたと思っていた。
少し変ったというのは雪菜の叔父にあたる人物に問題があった。
父方の兄である伯父の一族。
その一家は遠井家と呼ばれ現代において偉い名家。
世界をまとめる遠井などと呼ばれ世界は浸透していた名前。
伯父の名は遠井優。
幼かった頃の雪菜には単なる親戚であった人物。
しかし、雪菜が5歳のころに開かれた舞踏会でその存在が大きい器であったことを雪菜は認識し裏という社会の存在を雪菜は知識として知った。
そこで初めて出会った人物もいた。
遠井勇牙――現在の名は龍牙優。そして――現代の『掃除屋』のボス、アリス・クリスティアとの出会い。
幼馴染として育った3人。
懐かしい日々――
「――菜ちゃん、雪菜ちゃんってば!」
「んっ‥‥」
誰かに揺さぶられる体。
雪菜は声と体の振動に反応を示し目を覚ます。
そこは見覚えのある教室。
自分のクラス教室1-Cだった。
兄の存在を見てどっと安らぎに満ちていたようでうっかりと居眠りをしてしまった自分に気付いた。
「雪菜ちゃん‥‥授業中‥‥いねむりなんて珍しい‥‥どうかしたん‥‥ですか?」
「わ、私眠ってた友美ちゃん」
雪菜を起こしたのは雪菜の親友である宇佐鳶友美だった。
いつも気弱でもすごく人使いの優しいアイドルの様にかわいらしい美少女。
雪菜にとって彼女のその優しさは素晴らしいと感じていた。
「もう、ぐっすりやったなー」
雪菜の言葉に返答するように友美の隣にいた彼女が面白がるように笑みを浮かべ答えた。
リーナ・久遠・フェルト
雪菜のもう一人の親友であり、いつも元気であるスポーツマンの様でモデルの様なスタイルの美少女な彼女。
その元気は雪菜にはない。彼女の利点で雪菜はうらやましいと感じる。
「いやぁーびっくりでーす。雪菜も寝ることあるんで―すね。携帯に着信があるで―す」
能天気な声を上げたすらっとしたまた別な感じの女優顔負けの美少女である彼女もまた親友である。
加倉井杏里。
その彼女が雪菜の携帯を指さした。
「それも‥‥そうで‥‥終わったからでもあって‥‥おこしたの」
続けるように友美が指摘をする。
雪菜は感謝を述べ首をかしげながら携帯を開く。
着信が1件入っていた。そして、メールも着信されている。
「お兄ちゃん?」
文面の記載は『聞きたいことがある屋上に来てくれ』とあった。
(私に聞きたいこと?)
他の女性との話ならごめんこうむるが別の意味でそれを聞くなら答えないでもなかった。
「あ、ゆっきー、起きたんだ。先部活行くね―」
「ゆっきー、おつかれー」
クラスメイトに愛想よく挨拶をされ雪菜は苦笑いしながら挨拶を返す。
クラスメイトは全員と雪菜は交友関係を持っていたので気軽な挨拶は平然と交わす。廊下側からもわざわざ雪菜に挨拶をしてくる生徒もいるくらいだった。
ちょっと恥ずかしいし一面を見せてしまったことに不甲斐なさを感じる。
「私部活あるのに、どういうつもりなんだろうお兄ちゃん?」
「お兄ちゃんから着信で―すか?」
「そう」
杏里が喰い気味にこちらを凝視してきて雪菜は驚きながら「なに?」と聞く。
「それって呼び出しで―すか?」
「そ、そうだけど」
すると、親友たち3人が顔を合わせ黄色い声を上げた。
「雪菜ちゃん‥‥とお兄さんってやっぱり‥‥」
「そういうかんけいだねー」
「やっぱりでーす」
「ちょっと、何勘違いしてるの! 聞きたいことがあるってだけだよ! そんな関係じゃないし!」
「でも、この文面屋上へ来いって呼び出しで―す」
「ちょっと、杏里何勝手にメールよんでんの!」
親友の横暴に怒号を浴びせ雪菜は携帯をぶんどり返す。
「まったく。3人が考えてるやましい関係じゃない私とお兄ちゃんは」
雪菜の心情は自分の言葉ではそう言いながらも複雑だった。
なりたいと考える自分もいる。
兄は初恋の相手。今でも雪菜はあの優しく強い兄に恋をしている。
「あれれー、なんか雪菜うれしそー」
「変な勘繰りしないでよリーナ!」
まったく、この人たちはと思いながら雪菜は急いでかばんに持ち帰る者を敷き詰める。
「今日は部活休むしかないなぁ。お兄ちゃんの馬鹿。あとでこの支払いしっかり請求するんだから」
「雪菜ー、私たちも一緒に行っていい?」
「え」
あまりにも驚くべき質問に雪菜は戸惑った。
従兄の優がきく内容は雪菜の想像する者ならば彼女たちを同行させるわけにはいかないがここで引き離せば今度は逆に変な誤解をさせられる。
それでも雪菜自身は良かったが優が困ることは避けたい。
「もう、いいよ」
「いいの? お兄ちゃんと二人きりが‥‥いいんじゃないの雪菜ちゃん?」
「あ、そっかー。雪菜私たちはやっぱり――」
「だからそう言うんじゃないってば! いいよ! 一緒に来て平気!」
もう勘弁してとばかりに嘆息する雪菜は3人を連れて屋上へ向かった。
******
「お兄ちゃん、こんなところに呼び出してどうしたっていうの?」
屋上の出入り口扉が開きそこに新たな入居者が表れた。
北坂雪菜を優は呼び出した。
それには正当な理由があった。
(雪菜のコミュスキルなら情報を得られるな)
しかし、優には誤算があった。
そこに現れたのは雪菜以外にも3人いる。
リーナ・久遠・フェルト、宇佐鳶友美。加倉井杏里。
まさかの密会の空間にはもってこいの場所であり、やましい行為をするなどのことなどの空間には最適だった場所にまさかの予定と食い違った人物の登場。
優は雪菜にそこで、誰にも聞かれたくはない会話をするので呼び出したのだがこれでは話を切り出しにくい。
「話って」
「あ、そのぉ」
「ん? まさか‥‥」
雪菜は感づいて後ろを振り返る。
「ごめん、3人ともやっぱり席をはずしてもらえる? ちょっとお兄ちゃんが大事な話があるみたいだから」
雪菜の言うとおりである。どうして、彼女に仕事のことを聞きに来たのか。
それは、この学校で唯一知り合いでもあるのと、学園の生徒という立場を考え、彼女からよりミユリという一女生徒の学校での風評を知っておきたかったからだった。
雪菜は昔から交友関係を築くのがうまいことを優は知っているので雪菜ならばその交友関係で知ってるミユリのことを聞きだせる可能性を見た。
「あれーやっぱり、怪しい会話だ―」
「ごめんね‥‥雪菜ちゃん‥‥じゃあね。お兄さんもさようならです」
「キシっ、雪菜も大人になるで―す」
「3人とも早く行って!」
変な誤解をされた様子だったが優はこの場合仕方ないかと決断をする。
誤解はあとで解くことを念頭に置き雪菜に向き直った。
「‥‥なんでわかった?」
「なんでわかった? 何年の付き合いなの私とお兄ちゃんは」
何年の付き合い。
考えると、かれこれ10年以上の付き合いとなる。合う回数は少ないけれどそれでも、雪菜とは年に2、3回は会うことがあった。
職場でも集合したことはあるためにアリスと3人で夕食をしたことも会ったくらい彼女はこちらの事情や俺のことを知っている。
「話が速くて助かる」
「なら、早く要件を言ってよ。さっさと戻りたいから」
「わかった。単刀直入に言う。仕事の案件で彼女、ミユリ・ハーフェス・杏里について知りたいんだ」
「ミユリさん? あの、学年上位クラスの優等生」
「学園上位のことは知らんがそのミユリさんで間違いないと思うはずだ」
首を傾げた後にだんだんと眉間にしわを寄せて冷めた目つきに変わっていく雪菜。
変質者でもみるような感じの目だ。
数歩だけ後ろに下がって優から距離を置く。
「ストーカーの手伝いはごめんだからねお兄ちゃん」
「なんでそうなるんだよ! 仕事の話って言ったよなぁ! わかってるって言ったよなぁ!」
「わかってるとは言ってない。ミユリさんみたいな人がタイプなのねお兄ちゃんは」
「だから、何の話だぁああああ! アリスみたいなこと言うんじゃねぇええええ!」
息を荒げてツッコミまくる。
雪菜がおかしそうにそのあとに爆笑した。
(からかいやがったのかよ。アリスと同じか!)
そういえば、昔からだった。雪菜はアリスのことを良き姉としており、アリスからいろんなことを教わっていたし、性格まで似てる部分が最近では良く見られた。
こういう部分がそうなのだろう。
自分をからかって楽しんでなにがうれしいのかと優は憤慨な気分で心に思う。
「アハハ、ごめんねお兄ちゃん。やっぱりお兄ちゃんからかうの楽しい」
「てめぇ」
イラッと青筋を浮かべて鬼の形相。
だが、逆に笑わせるだけとなった。
まったく、そういうのはアリスだけで十分でこれ以上のからかわれるのは精神的に優は疲れをこうむる。
「ちっ」
「で、ミユリさんについてお兄ちゃんは何が知りたいの? まさか、スリーサイズ」
「誰が知りたいって言った! 変態扱いするんじゃねえ! はぁはぁ」
「あれ? お兄ちゃんどうしたの息切らして? まさか私を――」
「てめぇのせいだろうが! てめぇの! いい加減にしないとマジで襲うぞ!」
「アハハハ! ごめんごめん。で、何なの?」
「はぁー、彼女のこの学校での風評だよ」
「風評?」
「彼女の偏見とかないのかってやつだ」
「偏見‥‥お兄ちゃんまさか例の問題解決する気なの?」
雪菜が悩むようにそう口にした。
ミユリ・ハーフェス・杏里について例の問題を雪菜がある程度知ってることを悟る。
彼女は学校内では常に成績は学年上位の優等生という雪菜の証言でまず一つの情報を優は理解を得た。
人柄は良く、成績上位者の彼女がなぜ、「盗人」と呼ばれるのか。
それは気になる。
そんな優等生がいじめられることってそうそうないはずである。
しかし、中学を途中までしか通っていない優には学校というもの事態を深く理解もしていない。優だからこそそう考えてるのかもしれない。
実際は優等生というのはいじめられやすい対象の可能性もあると憶測をする優だが。
「‥‥‥‥‥さぁな」
あくまで教えることはできないが一瞬の間を肯定とみた雪菜は答えた。
「ミユリさんってこの学校じゃあ珍しい貧乏人の生まれの一家の娘なのよ。学力だけで奨学制度を受け、学費を半分免除してもらって入学してるの」
「すげえじゃねえか」
「ええ、けれど、あまりこの学校じゃあ貧乏人は良くないのよ。周りはお嬢様ばっかしだから。何かといって差別する連中は多いの」
「じゃあ」
それで例のいじめと結びつく。
体育の授業での雑用や、教室でのミユリに向けられる冷たい目。
それらの説明はその周りからの貧乏人のくせにという嫉妬とさげすみの表れだったのだ。
「もともと、ミユリさんは人当たりがよかったから当初は周りともうまくやってたらしいの」
「何?」
じゃあ、どうしてあんなことに。
その疑問はすぐに答えとなって雪菜が返す。
「ある事件が起きたの」
「事件?」
「最近の話よ。学校内で管理してたはずの全部活動の部費が盗まれたの。何者かによって」
「っ!? 犯人は?」
「今でも見つかってない。それでね、見つかってないことが原因で彼女が貧乏人だからという理由で犯人にされたの」
「されただと? じゃあ、そう言うふうに周りがしたのか?」
あまりにもひどすぎる話に腹を立て、雪菜がしたわけではないのに優の声は怒気をはらんでいるだろう。
それでも、雪菜は気分を害するでもなく普通に首を振ってこたえてくれる。
「正確に言うと彼女の貧乏人のくせに学力の良さという点に嫉妬した奴が、うまい具合に彼女を犯人に仕立て上げたって噂だよ」
それは考えればわかることだった。よくあること。
その仕立て上げた犯人はあの杏奈という彼女を推測するが確証はもてない。
でも、どう見たって彼女が優には主犯に思えた。
「彼女を仕立て上げた人はこの学校じゃあ結構な力がある人物だからみんな逆らえないって話。私もその人がだれかは知らないけど‥‥。でも、そのせいでいつしかみんなして彼女をいじめるようになっていた感じみたいなの。ほぼ彼女に雑用任せで」
「‥‥‥‥‥それはやっぱり交友事情で得た情報か?」
「まぁ、うん」
「そうか。あいからわずその能力には感心する」
「えへん、私は人付き合いは上手だからね」
雪菜がかわいらしくえばった態度を示し少しからかい気味に頭を乱雑になでまわす。
雪菜は知らない人でもモノの数秒で仲良くなってしまうのだ。
雪菜はそのあたり情報集めもその能力をいかしてとるのがうまいし雪菜自身趣味が人物観察。
よって、優は雪菜なら学校についてもすぐに詳しくなってると思い当たったのだがやはりあたりだった。
「もう、お兄ちゃん頭やめてよ! 子供じゃない!」
「わるいわるい。まぁ、大体わかったよ。ありがとう。それじゃあ、もういっていいぞ」
「ちょっと感謝それだけぇ。もっとこうないのかなぁ?」
「他にどうしろって言うんだよ」
「何かおごってよ」
そう言われて頭を抱えて悩むが仕方ない。情報提供料金と考えればいいかと思い言った。
「わかったよ。おごれる範囲でならおごってやる」
「じゃあ、近くに最近できたおいしいケーキ屋さんのケーキおごってよ。スペシャルセット」
スペシャルセットと来た。
値段平気だろうかと思う。
「わかったよ。それで情報料はいいだろう」
「うん」
「じゃあ、俺もすぐ準備に取り掛かるかな」
「ええ、あんまり下手なことしないように気をつけてね」
(下手なことねぇ)
優はそう物思いにふけって雪菜と目を合わせる。
「なら、さっそく一緒に食べに行こう」
「後日とかじゃないのかよっ!」
「仕事まで時間あるはず」
「ったく」
優は悪態をついた。