龍
戦力差は圧倒的だった。
優が振るう一撃一撃によってリーアは呆気にとられるように押されていく。
力任せに見えるその攻防戦ではあるが攻防戦の中には見えない魔法の力比べが漂っていた。
優が握る白銀の剣には魔力が蓄えられており一撃一撃の斬撃は魔力の余波を放つ一撃。
リーアも闇の魔力で造形したレイピアで一撃一撃に鋒に凝縮させた魔力で受け止めるが、優の一撃の威力が果てしなく強力で防ぐことができずリーアは顔をこわばらせながら足を後退させて身のこなしでうまく回避してくしかない。
でも、それだってそう簡単にはいかない。
数度攻撃を身に受け疲労困憊だった。
「なぜですの! なぜ、防げないんですの!」
一歩一歩とリーアが交代すれば優もまた一歩一歩と攻めながら攻撃を仕掛ける。
リーアは防衛の手を止め体を高速回転させる。
「っ!?」
突飛な行動に優も一時斬撃から防衛へ切り替わる。
回転に交えた数百もの連突撃に合わせた魔力球が頭上から放たれた。
リーアのその攻撃は一つの戦況を変える技の一つ。
優はしかし、用意に微笑むと白銀の剣を頭上にかざした。
「はぁああああ!」
リーアの裂帛した声が響く。
相手を威圧させる気合の声。
物々しい音と同時に煙が舞う。
優をこれで倒したとリーアは思いたい。
「この技を受け止められるものなどいませんわ。私はこの技で多くのものを――」
その続きの言葉は止まった。
煙の中で無傷で立つ鎧の男。
「なぜですの! なぜ今の攻撃を無傷で――」
「今の俺は誰にも止められねえよ」
「くっ! ウィンナ!」
ウィンナに目を向ける。
彼女は理解してた。
優も気づいた。
「忘れちゃ困るぜ。オレのことをよぉ」
ウィンナの手が雪菜の首を絞めあげていた。
「…………」
「さぁ、大人しく私たちに降伏なさ――」
「アリス、任せていいんだな」
「え」
リーアは彼の言葉を聞いてウィンナを振り返った。
「ウィンナ、後ろですわ!」
ウィンナも気づいたが遅かった。
頭部を氷漬けにされたウィンナはそのまま横たわった。
「隙が多すぎる……わ……よ」
まだ、悪あがきができる体であった様子で合った掃除屋のトップが彼女を仕留め倒れていった。
「まさか、彼女が動けることを計算していたんですの?」
「そうじゃなきゃ掃除屋なんてやってねえよ、掃除屋の規則で「仲間を信じよ」ってのがあるんでな」
「くくっ、あはははは!」
追い詰められた。
リーアは心の中でその言葉がひとつ浮かび上がり心臓部分に手を持っていく。
「仕方ありませんわね。切り札を使うとしますわ」
グシャリ。
そんな肉と骨がひしゃげるような音が耳にこびりつく。
リーアが自分の胸元をえぐり出したのだ。
「何をしてる?」
優も顔を引きつらせその異様な光景に恐怖を感じる。
「ひひっ、アハハハハハ!」
狂気じみたように笑い声を上げブツブツと何かを唱え出すとウィンナ、ユリアが闇の瘴気に包まれ瘴気ごとリーアの中に吸い込まれていく。
次第に彼女の体が瘴気に満ち溢れ魔力が格段と跳ね上がる。
革製の鎧が鋼鉄化し彼女の胸や股間を覆い隠していく。
一種の妖艶な鋼鉄ドレスに変わる。
翼をはためかせただけで猛烈な突風が優の肌を切り裂いた。
「ちぎれなさい! ダークソードエンブリージュ!」
猛烈な突風に混じって数百もの闇の光線と球体のコンボ攻撃が優へ殺到した。
(ちっ! 厄介だな)
優は舌打ちした。
闇の瘴気が肉体を蝕んでいく。
だが、鎧の効果がその侵食を力へと変え食っていく。
「ふふっ……お前はわたくしに近づくことはできませんわ!」
さらに数が増し優を襲う。
このままではこの場にいる雪菜たちまで巻き込んでしまう。
「アハハハ! このままあんたの愛する者たちとともに眠ってしまいなさい!」
耳障りなリーアの哄笑が響く。
優は攻撃を自分にだけ向くように魔力で流れを向けさせていた。
だが、威力が増せばその流れの方向も抑えが効かなくなり次第には雪菜たちにまで――
「お兄ちゃん……私は……いいから……にげて――」
背後で雪菜の苦しげな声が聞こえた。
「馬鹿! 俺はな自分で決めたんだ。掃除屋になったとき。どんな目にあったとしても愛するものくらいは自分で守れるようになってやるってな!」
「決めた?」
リーアがさらに数を増やし光線と球体の嵐に紛れ突貫してきた。
「死に晒せええ!」
「……さすがに抜け出せねえな」
優はそっと雪菜の方を振り向く。
そして、奥に居るアリスへ。
「わるいな。誓い破らせてもらうぜ。アンリミテッドブースト」
途端に膨大な魔力の奔流が溢れ出す。
リーアを技ごと吹き飛ばす。
リーアがその一瞬を垣間見た。
そこにいたのは男ではなく――一匹の龍。
「あなたはマサカ――」
龍の瞳は普通の龍ではなく赤い吸血鬼のような瞳そして、翼はコウモリのような翼。まるで亜種の龍。
「身を全てほろばしたとでも――」
リーアに向け龍の鋭い腕が振り下ろされたのだった。