優VSユリハネ3
交わる魔法。
そして、交差する剣。
空中では激しい閃光の軌跡が描かれていた。
紫と白の軌跡。
閃光によってあたり一面は暗がりが消え戦闘の風景が映る。
身動きの取れないアリスは奥歯を噛み締め、自分のおろかさを思い目を伏せる。
この今までの長い世界のための戦いの歴史が無駄だったことを物語られた現状。
今行われてる戦いも結果で言えば政府の策によって生み出さられたものなのであろう。
遠目で伊豪正宗の遺体を確認する。
彼はユリハネの重い一撃を受け死んでしまったようだった。
彼には聞きたいことが山ほどあったというのにアリスは悔しく涙がこぼれ落ちる。
優はアリスを救うために決死の攻防戦をユリハネと続けてる。
「私は足でまといにはなりたくないわ」
アリスは決意を抱いて体内に駆け巡る魔力を底上げさせる。
薬を打たれ今まで魔力を使えずにいたが薬の効き目も薄れ始めた今なら使えそうだった。
――その時、絶叫が上がる。
「あがぐ‥‥」
茨木童子の腹部に深々とリーア・メルティシアのレイピアが突き刺さっていた。
彼女が負けた。
「童子!!」
優がそれに気づき助けに行こうと足を動かしたが重力の魔法でユリハネが彼を押しつぶす。
「お兄ちゃん!」
咄嗟に体中を痛め動けないはずの彼女が必死に這いつくばって彼に迫ろうとする。
でも、ユリハネはそれに気付いて黒の魔球を放った。
雪菜の身が吹き飛び地面を転がった。
「雪菜っ!――ぐがぁあああ」
「だまっていて欲しいデスワネ」
更に圧がかかって優が血反吐を吐き散らしながら地面に埋まっていく。
さらにはエリスたちグループもユリア、リーアタッグに責められ始めていた。
彼女たちふたりは本来の力を隠してた様子だ。
リーアもいまのユリハネのように悪魔の姿へと変わり、ユリアは猫耳に両腕が肥大化した狼のような手に変わっている。
「ウェアウルフと悪魔」
アリスはその容姿を確認して勝ち目のなさを悟った。
エリスももちろん亜人であるが彼女は純正亜人――つまりは異世界生まれの亜人じゃない。祖先はそうだったがその祖先も2代くらい前つまりは曽祖父の世代。
エリスはこの世界で生まれた亜人。
特部のふたりは人間であるし加倉井杏里もエリスと同じ感じである童子や鼎、そしてかなでもだ。
彼女たちが純正亜人の悪魔とウェアウルフ、最強の亜人種族の二人に叶うはずがない。しかも、純正である。
純正は魔力の量も桁がちがく、自分らの体内で彼女たちは魔力を構築できる量も通常のこっち側の亜人の数倍単位である。
エリスが負傷したらしき片目を閉じて優やアリスを見て何かを悟った様子で笑みを浮かべた。
「かなで、鼎さん。私がおとりになって先攻します。私に気を取られてる間にふたりは背後から魔法を仕掛けてください」
「っ!」
「どういうことっす? それじゃあ、エリスは――」
「私は大丈夫です。それと、杏里私はあなたのことが未だに信用できませんし嫌いです。でも、今回だけはお願いします。彼女の足止めを私と」
「‥‥はぁー、そんなやくまわりッスね。いいッスよ」
アリスにはそのわずかな会話が聞こえた。
「エリスやめなさい! 無茶です!」
でも、彼女は聞く耳を持たず先行をする。
そうして、エリスが接近したときリーアがほくそ笑みつぶいた。
「ばかですわね」
*****
「あらら、あちらも随分と状況が切迫してマスワネ」
「あぐが‥‥」
「どうしたんデスノ? 結局、龍の力ってのはこんなもんデシタノ?」
「‥‥な‥‥」
「なんデスノ?」
「ふざけんなっ!」
大きく揺れ動く地盤。
足場が砕かれユリハネはバランスを崩し跳躍したが足を黒いひも状のような触手に取られる。
「っ!」
「まだ終わりじゃない!」
「いつのまにっ!」
足に気を取られ前方を見てはいなかったユリハネの前に優が接近していた。
「我が波動は混沌へと誘う! カオスイグニスト!」
膨大な白と黒の炎の斬撃がユリハネの頭上から振り落とされる。
重みに負けユリハネが盛大に地面に叩きつけられクレーターが出来上がる。
「がふっ‥‥そんなありえ‥‥ません‥‥わ」
血反吐を吐き、負けたのかと焦点の合わなくなった瞳をさまよわせる。
「ぐっ」
最後の一心にかけた一撃であった。
重力の魔法によって押しつぶされる中、体内で魔力を溜めに溜め、一気に開放した濃縮された一撃。
それがユリハネを襲った。
「無茶な‥‥攻撃‥‥デスワネ」
「こうでもしなくっちゃあんたを倒せはしない。」
「でも‥‥本当に怖いのは私ではなく‥‥妹のほうです‥‥」
そのときだったユリハネの体が燃え、その灰がどこかへと運ばれてくように宙を移動する。
その先はリーア・メルティシア。
リーアが彼女の灰を取り込んだように見えた。
彼女の前ではエリスたち全員がもう倒れていた。
血みどろの現状。
優は復讐の炎が燃え上がり始める。
「お姉様がやられるのは計算のウチでしたわ」
「お前がやったのか?」
「ええ、おかげでこっちもユリアがやられましたわ」
傍らにはユリアらしき残骸。
「て、てめぇ」
「さあ、遠井勇牙。あなたは私ときてもらいますわ。異世界にあるわれらが組織『革命派』に」
「だれが行くものか! 大勢の人を殺した。そんな組織など俺はいかない」
「ことわるんなら無理にでも拉致するまでですわ。ウィンナ」
背後で殺気を感じ振り返る。
「おっと動くんじゃねえ」
まだ生きたらしいウィンナがアリスの首元にナイフを突きつけていた。
九条学園長の胸元にはもうナイフがつき立っている。
「っ! 学園長を殺したのか!」
「こいつはアクだからな。殺して当然さ。さあ、北坂雪菜と一緒に俺らと行こうぜ」
脅しをかける二人。
答えは心では決まってる。
だが、従わなければアリスが殺される。
「勇牙、心配しなくていいわ」
久しぶりに呼ばれた本名。
アリスからその本名が出されたのは何年ぶりだろうか。
「思う存分やりなさい。私のことは気にしなくていいわ」
「アリス」
アリスのその言葉でリーアのほうを向いた。
「あら、見捨てますのね」
「俺はアリスを信じてる」
「戯言をいいますのね」
「さて、戯言かな」
そのときだった。ウィンナの壮絶なまでの絶叫が響いた。
リーアは見た。
アリスが拘束から逃れウィンナの腕を魔力刃で切り落としてる姿を。
「なっ!」
「注意がおろそかだな!」
「っ!」
リーアの腹部向け魔力の刃を突き立てようとしたがうまくいくはずはない。
「甘く見られたものですわね」
防壁が阻み、優を睥睨するリーア。
「そうくるとわかってたさ」
強いケリの一撃が優の腹部を襲った。
視界が暗転し地面を派手にはねながら壁にうもれ口から血がこぼれ落ち視界が霞み脳震盪気味で脳がいまいちうまく機能しない。
「さあ、まだ終わりではありませんでしょう」
優はほくそ笑みながらボロボロになった鎧を解除して元の姿へと変わり、胸元に隠してあった銃を取り出した。
「なんのつもりですの?」
壁にうもれた状態で優は銃口を「自らの頭」につきつけた。
「っ! まさか、哀れな死に方を選ぶというんですの?」
「てめぇらにもう勝ち目はない。諦めるさ。ここで、お前らに連れてかれるなら死を選ぶ」
突然の自体に困惑する全員。
アリスと雪菜が騒ぎ立てたがその言葉など聞く耳持たず一発の銃声がその場に響いた。