目撃とオカマ
昼休みは終わり、妹らとは別クラスということで分かれてから数分―――
時間は順調に進み、ついに最終授業となったが優は焦りの表情を浮かべていた。
いろんな意味で。
まず一つ、体育の授業であること。
そして二つ、男子の更衣室がなくトイレで着替えると言うが教師用トイレしかなく、しかも例の書類上にあったオカマ教師が来る可能性があること。
そして、最後の三つめは自分自身の力のコントロールである。
今のところ、知力面はどうにか制限をかけうまく答えるところ半分答えないところ半分として平均的な頭脳を装っている。
教師にこの子の学力は普通と判断させるためである。
学力が異様に高いと逆に目立つ。潜入捜査をしてるため優は目立つことはさけたかった。
優が自分自身の学力には自信があるのも無理はない。優は、『掃除屋』に就職して間もない頃の傍らに大学卒業後の辺りの勉学は一通り家庭教師に教わり修了しているのだ。
そう言ったふるまいをたてているおかげで周りの優を見る印象も同様となってる。
だが、体育はそうはいかない。
筋力の制限とはかなり神経を使い器用な行為なのだ。
優自身器用なことは大の苦手だ。アリスならば筋力のコントロールは得意なのだが優の場合は違った。
悩んでいても仕方ないので、周りの監視の目から逃れるために優は素早く教室から出て不安を抱きながら教員用トイレに向かった。
教師にも先刻そこで着替えをするように言伝をされている。
「男子更衣室も作れや」
つい文句を言ってしまう。
1年後にはそういった施設を作り始める予定だとかいうが早めにしてほしいものだ。
しかし、仕方ない。もとは女子高という名目で作られた学園なので、男子のみの部屋みたいなのは一切存在はしないはずだ。
けれど、トイレだけはあった。教師ならば男子も必然的に雇うのは当たり前だから仕方のないことだろう。
「ん」
現在いたのは体育館棟だった。
その廊下を優は歩いてたときに気付いた。
体育館棟は別の棟、図書室などの施設が入ってる場所と合併された棟である。
その体育館ではない図書館などの施設が入ってる棟にいる優はその窓際から裏庭にある人物を見つけた。
「確か、ミユリさん?」
ちょうど、その自分のいる棟の窓際から裏庭の水道場が見え彼女が何やら手に体操着を持って必死で蛇口で何やら洗っている仕草が見えた。
「おいおい、これから体育だってのにあんな濡らしたら着れな――」
優はそこで言葉を止めた。
優の視力は常人よりもはるかに上で、彼女の手に持っていた体操着に油性マジックで書かれたひどい罵詈雑言の落書きが見えた。
『ビッチ! 死ね! 盗人! 淫乱な盗人の小汚い豚が! 学校来るな!! 学校来るなら一生奴隷なんだから逆らうな!』
見るに見かねないその必死な様子。
この学校では先生は生徒の行動を自粛するような権限はあまり有していないと聞く。
優はその光景を見て大きくため息をついた。
「さっそく、問題発見だな」
そう言いながらも彼女のもとまで行くような真似はしなかった。
どうせ、今行ったとしてもいじめられてる奴はたいてい悪化させんと隠すのが常。
彼はそう考えあえて現状を放棄し見なかったことを踏まえてトイレへ向かい歩きついに見つけ扉の取っ手に手をかけた。
「誰もいませんように」
緊迫した面持ちで取っ手を持ち開いた。
そう願うのは例のオカマ教師や自分の体の傷を見られたくないからだった。
無数にある仕事で負った傷。
けれど、そうはいかないのが現実だ。
「あら、いやん」
オカマがいました。
優は心の叫び声をあげた。
(ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!)
表情は青ざめたもので膝が震えるなどめったにないことなのにこの時ばかりは震えて歯までがちがちと噛みあわせるようにふるえだす。
オカマは下半身を露出させながら近づいてくる。
「ちょっ!」
「うふん、あなた転校生ね。いい男じゃなぁい。いただいちゃおうかしらん」
オカマ相手に身震いをしてしまう。
だが、男ならだれだってそうだ。
下半身を露出させた筋肉マッチョなメイクをしたケバイ女装をしたおっさんがウインクしていれば。下半身には優のある種の技でモザイクをかけてるように視界をふさぐ。
(ガチできも過ぎる。吐き気がするぞ!)
優はそっと扉を閉じてその場からダッシュして逃げ出した。この際着替えなどどうでもいい。
「あーん、待ってぇーん!」
後方から襲い来るオカマ。走り方までも奇行的すぎる。
優はもうダッシュして仕事用技『暗霧」を使い切り抜けた。
それは、ブレザーを相手の視線誘導をするように脱ぎ払って、瞬時に天井に張り付くという技だ。
優は身代わりとして制服のブレザーを地上に放置してしまった。
「あら? どこいったのかしら? でも、いい男の臭いがついてるわぁん。すぅーはぁー。いい収穫しちゃったぁん」
オカマがあちこち見まわしてる。人ってのは基本あまり天井には目を向けることはそうない。
しばらくしてどこかに去って優は地上に降り立った。
「あのオカマブレザー持ち去りやがった! マジで最悪だ」
優は冷や汗を浮かべながらもとのルートを戻りトイレへ入って息をひそめながら着替えた。
体育の授業後でもないのに汗でもう体中がべたついていた。
(体育の授業で着替えるだけでも一苦労って‥‥‥‥とほほ。この仕事楽じゃない)
悲しみの心を抱くのであった。