優VSユリハネ2
飲み込まれた。
アリスと雪菜は彼が生きてることを切に願った。
だが、心の奥底では理解している。
あれだけの負傷で今の攻撃をよけれる方が無理だと。
いくら彼でも確実に死んだだろう。
「お兄ちゃん‥‥お兄ちゃん‥‥いや‥‥うそ‥‥そんなの‥‥うそ‥‥」
「DD! 返事をしなさい! DD!」
黒煙の中でなんの答えも帰ってこず絶望感だけがこみ上げてくる。
ユリハネが雪菜を引っつかみアリスの下まで引きずっていく。
「いたい‥‥いやぁ‥‥はなして‥‥おにいちゃぁん」
雪菜の悲痛な叫びと涙が地面を伝っていく。
アリスは悔しさに歯噛みして隣の九条へ向き直る。
「全部、あなたがた政府が企んだせいで‥‥」
だれかにこのいらだちをぶつけないと気がすまない。
いつものらしくない態度が出てしまう。
「そうですね」
弱りきった九条が自虐的な笑みを返しそのまま、目の前に立ったユリハネに視線を這わせた。
「私を殺しなさい。ユリハネさん。公開はありません。この老いぼれた体で償えるのなら償ってみせます」
「償えはしまセンワネ。でも、多少は気分は楽になりマスワ」
優を殺した黒の剣が大きく振りかぶられるかに思われたが横槍が入った。
ユリハネに向かい殺到した人物。
ウィンナ・グローズだった。
襲撃を背後から仕掛けたウィンナはユリハネにその蹴りは届くことなくあしらわれ逆に足を掴まれて壁際に振り投げられる。
「がはぁ」
「ウィンナ、あなたの相手は後でデスワ」
一撃でウィンナを壁に埋もれさせた彼女はなに食わぬ顔で苦情に剣を突き立てる。
「さあ、これで――」
――――激しい振動が起きた。
ユリハネは気分を害し顔を般若のように歪めて音の方角を睨みつけた。
「次から次へと一体何デスワ!」
背後を振り返れば壁が吹き飛んでその中から総勢9人のメンツが現れた。
だが、そのうち約二名は披露に満ちた表情で手足に水の魔法で拘束させられていた。
その二名はリーア・メルティシアとユリア・シャーテルベルグである。
「エリス、それにあなたたちも」
他の6名はアリスの部下と婁紀彰の部下である少女たち。
「ったく、まいったぜぇエ」
「迷っちゃうっすもん」
「しかたないよねいえーい」
「マジで疲れるッスねー」
「‥‥ゆきなちゃん!」
「今助けますよー」
茨木童子、湖乃故鼎、御厨かなで、加倉井杏里、宇佐鳶友美、リーナ・久遠・フェルトがそれぞれ文句を垂れたり救援の意思表示を示した。
ユリハネはそれらのメンツを眺め額に手を当てる。
「くくっ、あはははは。次は誰かと思えば雑魚集団の登場デスノ」
「雑魚ですか。それはやってみないとわかりませんよ?」
エリスが闘士をむきだし右手に水の剣を召喚する。
「『掃除屋』の今度は左腕がお相手デスノネ。あなたの相方は大したことありませんデシタワヨ」
そう言ってユリハネは煙が晴れて今はもう何もない場所を指さした。
「さきほど私がチリにして差し上げマシタワ」
それを聞いて全員が信じられないといった衝撃の表情でアリスをみて確認をする。
アリスの返答は目線をそらした。
それが彼女の言葉は真実だと物語っている。
「っ! そうですか。ですが、私はそう簡単にやられはしません」
「そう言って彼も死んで行きマシタワヨ。それと、あなた方のお相手はわたくしではありまセンワ」
ユリハネが指を鳴らした瞬間だった。
リーアとユリアの拘束する水の輪が粉砕し消失する。
自由になった二人が一気にエリスたちに向かい襲いかかった。
「お姉様、感謝しますけど後でその首貰い受けますわよ。今は休戦協定ってだけですわ」
「やはり、ワタクシの妹デスワネ。状況を理解してうまく先に倒すべき相手を選んでくれマシタワ」
ユリハネが実に愉快げに観賞を楽しむ。
しばし、見てから黒の剣を持ちアリスに向きついにというように愉悦の表情をしながら振り回し近づいていく。
「さあ、公開処刑を始め――っ!」
ユリハネは咄嗟に後退した。
アリスの目の前に飛来する光と闇の剣。
数十本の剣が防壁のように突き立つ。
ユリハネは上空を見上げた。
「あなた生きてたんデスワネ」
「ああ、お陰様でな」
彼――龍牙優は混沌の色、まさに光と闇、白と黒のラインを施す竜の造形をした鎧を着込んで北坂雪菜を抱き抱え空中を飛行していた。
「雪菜、ありがとう」
雪菜は恍惚の表情で首筋から血を流して彼の腕の中で気絶した。
その姿を遠目で観察できたユリハネは首をかしげたあとに彼が先程よりも魔力が上昇してることに気づいた。
「いや、違いマスワネ。それがあなた本来の力ってわけデスノネ?」
「ああ、雪菜から魔力を吸い取ったおかげで大部分は回復した。おかげでまたこの混沌龍血にチェンジできた」
「またその龍の力デスノネ。いくらチェンジしたからといっても無駄なあがきデスワヨ」
「それはどうかな?」
その時ユリハネの目の前にもう彼が移動していた。
強い衝撃はユリハネの体を襲い、壁に吹き飛んでいた。
ありとあらゆる臓器がこなごなに痛めつけられたように悲鳴を上げ、中から外へ盛大に口から血が吐き出された。
「さあ、第2試合を始めようかユリハネ・メルティシア」
「くくっ、面白いデスワネ! あなたという男は!」