地下2
「一体、何がどうなったんだぁア?」
「地下通路みたいっすけど」
「頭がズキズキするなーいえーい」
元々は「テロ組織」『シートコール』のメンバーだった3人組は地下で迷っていた。
この3人も今では立派な『掃除屋』の一員であり、そのために『オオスズメバチの巣』と敵対をしたが結局のところ足止めくらいにしかならなかった。
そして、龍牙優にまたしても助けられた矢先に突如として起こった地震、地震のせいで地盤が割れ、地割れに落下し目を覚ませばこの真っ暗闇の配管があちこち連なる下水道のような場所に居た。
ひと目で地下だとわかったが地下のどの部分なのかはわからない。
「ほかのみんなはぁアどこだぁア?」
「さぁ、どこっすかな?」
「さがそういえーい」
かなでののんきな言葉にふたりは半目になって大きく息をつく。
落下で軽症だったのは幸いだった。
足も十分に動くことが奇跡と言えた。
「とにかくおくへすすむぜぇエ」
その時だった奥からひたりひたりと足音が聞こえる。
「そこに誰かいらっしゃるんですか?」
「だれッス?」
聞き覚えのある声を聞いて3人は顔を見合わせ、茨城童子が呼びかけた。
「わたしたちだぁア」
「童子さん」
暗くて見えないが目の前にエリス・F・フェルトがきたことが察せられた。
「良かったです。3人とも無事で。ほかの方々は?」
「わからねぇエ。そっちもか?」
「はい。私と加倉井さんは同じ場所だったんです――あと」
「敵のルリファンスとかいうやつとあの双子の姉妹は死んだッス」
「ほんとうかぁア?」
「ええ。下手に落下して配管に頭部を強打したようで」
「そうか。まあしかたないなぁア」
沈黙が降り立った時だった。
「きゃぁあああああ!」
悲鳴が近くから聞こえた。
急いで5人は走り出す。
「こっちからです!」
わずかな感覚を頼りに突き進み右折した先でユリア・シャーテルベルグ、リーア・メルティシア、宇佐鳶友美、リーナ・久遠・フェルトがいた。
でも、状況は緊迫していた。
ユリアのもつ武器が友美の首を締め殺しにかかっている。
リーナとリーアは殺気を剥き出し剣同士を噛み合わせ均衡状態にあった。
「ちょっとあれ見てくださいっす」
ふいに鼎がひきつった声をあげて均衡してるふたりの向こう側を指さした。
何かがあった。
それは人の形をしていてうつぶせに倒れている。
周りには水のようなものがわずかな暗がりに見えた。
「婁紀彰室長ですね‥‥ちっ」
エリスの悔しがるような感じの声色をその場にいる全員が感じ取って一瞬で理解した。
彼が死んだということを。
「おやおや、仲間が来たんですのね。これは好都合ですわ! まとめて殺してあげますわ!」
「あなたの相手はわたくしですよ!」
「ふん、そんなチカラで勝てると思わないでくださいまし!」
わずかに剣を押し返し、リーナの右肩にリーアのレイピアが突き刺さる。
「離れなさい!」
エリスが瞬時にリーアに接近し、魔法によって生成した炎の剣と水の剣の双剣で斬りかかる。
わずかにリーアの体をさき、リーアがよろめいた。
「さっきのダメージがまだ残ってますわね」
などと毒を吐き捨てながら後退。
ユリアの方には童子が接近の打撃攻撃を仕掛け鼎が友美を救出する。
「5対2ですよ。あなたたちの方が分が悪いんじゃないですか?」
「みたいですわね」
「おとなしく捕まってください」
「それはできないですわ。お姉さまを殺すまでは」
「どういうことです? あなたはお姉さんに従ってこの作戦を――」
「あははは!」
エリスの言葉はリーアの嘲笑で遮られる。
まわりもリーアのその態度に怪訝な表情を感じ睥睨しながら観察する。
「したがってるですか。確かに従ってますけど私がしたがってるのはお姉様ではありませんわ。私がしたがってるのはあの方です」
「あの方? あの方って誰ですか?」
「言うと思いまして?」
緊迫した空気とにらみ合う瞳。
「私が従う「あの方」はなぜかこの作戦をお姉様に託しましたわ。そして、同行者に私たちを命じましたわ。ですから、計画に賛同してるまでですわ。じっさい『オオスズメバチの巣』は自由思想をもとに動くことを許可された組織ですけど実際はみんなが「あの方」の下で従う。ですから、平和な未来のために今は刻一刻と作戦をしたまでですわ」
「爆発やこの騒ぎを起こしたのもそうだと?」
「ええそうですわ。政府から私たちのものを取り返すための作戦ですわ」
「取り返す?」
エリスの言葉を無視してリーアはほくそ笑み、大手をふって宣言した。
「現在、地上では私の魔法で暴動が起きてますわ。まあ、それのおかげでお姉様はうまく客の目を向けられましたでしょうね。そして、帰還も出来てますでしょう」
「きかん? 地上暴動ですって‥‥」
「もっとも、私の作戦はその暴動とかではなくお姉様の命たったと一つだえですわ。今現在、アリス・クリスティア、九条美代の殺人公開ショーをしたあとに弱ったお姉様を殺害。最高ですわ」
「公開処刑って何です? それにあなた自分の姉を殺害するってどういうことですか!」
「そういえば、地上では大変な騒ぎになってることをしりませんでしたわよね。そりゃぁこんな地下にいれば。地上ではいま全魔力供給が遮断され世界はブラックアウトして私の魔法で人々はおかしくなってますわ。その最中に姉がテレビ放映でこの世界の原因は自分だと自供しアリス・クリスティアと九条美代の殺害ショーを公開するっていう映像を流してるはずですわ」
「なんてことを」
「ちなみにそれだけじゃありませんわよ。ほかの構成員がいま街で大暴れしてる最中ですわね」
「っ!」
「警察も政府機関もめちゃくちゃですわね」
今すぐに助けに行きたいけれど地上に戻る道がわからないことがくやしい。
エリスは奥歯を食いしばり、剣を構えた。
「今すぐやめさせるんです! 地上の暴動を!」
「それはむりですわ。言いましたでしょう? 私たちの組織は自由思想で動いてるんですわ! だれかの命令を容易く効く連中ではありません。けど、姉は別ですわ」
「なら、その姉にいいなさい! 今すぐ止めなければあなたの命がないとね」
「くくっ、あははは。まだそれを? あの姉はわたくしのことなんてどうでもいいと思ってますわよ。今頃とっくに私の作戦で上手く計画進行ができず苦しんでますでしょうけど。捕縛するべき人員を確保できなくて」
「血のつながった姉妹をそう思うはずありません。嘘はよしなさい」
「嘘? あはは。この状況で嘘をついても何も利点はありませんのにどうして嘘をついてると思うんですの?」
たしかにそうである。
エリスは動揺した。
この『オオスズメバチの巣』という組織の行動が鼻から狂っていた。
狂人者の集まりなのだという事実。
だが、それを止める手立ては今はないのか。
「エリスさん、御託はいいからこいつらをさっさととっちめようぜぇエ。もういうことなんかきかねぇさぁア。未成年者だろうが捕まえるのがうちらのしごとだぁア」
「行けません。規約違反は許されることではありません」
「ならどうするってんだぁア? 地上ではぼうどうがおこってるんだろぉオ。こいつらを捕まえて無理矢理にでも止めさせればいいんだぁア!」
「あははは、ばかですわね。そちらの鬼さん。私たちが何度「自由思想な組織」だといえば理解しますの?」
「関係ねえぇエ! 自由だろうがなんだろうがてめぇらを排除して地上の連中に私らの恐怖をしらしめるんだぁア」
「それこそ私たちと変わりませんじゃありませんの。結局政府も力で支配してるだけですわよね。国民を」
「私たちは違う! 善悪の区別を付け法律の下で裁いてるんだぁア」
「法律? いいわけですわね」
「ああいえば、こういうやつだぁア!」
童子が我慢の限界を迎え飛び出した。
リーアの目の前まで伸ばした拳が当たる刹那に童子が重力にさらされたように地面に急降下でうつ伏せにさらされた。
「えりすてめぇエ」
「規約違反は許しません」
「甘いですわね。あなた。私たちは捕縛されませんわ」
「いいえ。もう捕縛は出来てます」
「え」
そのときだった。
リーアとユリアの体に電流が駆け巡り手足が動かなくなる。
「いつ魔法を‥‥」
「あなたがご高説をたれながしてる時です。弱ってるあなた方なら容易に魔法を仕掛けられました。さて、ボスの居場所まで案内してください。それくらい走ってるんでしょう?」
「だれが‥‥」
リーアの首に水の飽和が出現し呼吸を奪うように酸欠状態陥らせる。
水泡の中でリーアが喚く。
「そのまま窒息死したくなければ教えてください」
「リーアを離せ離せ!」
ユリアが牙を剥きながら立ち上がろうとしてるがエリスがその鋒を突きつけ恐怖を植えつけ大人しく黙り込む。
「あなたが教えてくれるんでしょうか?」
「‥‥」
「私はDDみたいに甘くはないんです」
そういった時ユリアの肩口をエリスは突き刺した。
「いぁああああああ」
「さぁ、しゃべってください」
ぐりぐりとえぐり出すように剣を動かすエリスの行動を横目で見ていた4人は仲間の彼女に恐怖し的に同情を感じずにはいられなかった。
「しゃべりますからますからぁあああ!」
最後には泣き叫びながらユリアは陥落した。
エリスはにこやかな笑みを浮かべながら剣を引き抜く。
「よろしいです」
そして、とつとつとユリアがしゃべりだしたことでリーアも水地獄から解放されるのだった。