力の暴走 後編
「ひひっ‥‥ここまで様変わりするとは思いもしませんでしたわ‥‥龍牙優」
大量の出血によって制服が赤く滲んでいる脇腹を抑え、リーアは頬を引きつらせながら目の前にいる燃える男、龍牙優を睥睨する。
「ぐぅ‥‥ゆきな‥‥よくも‥‥がぁあああ!」
「っ!」
言語にならない咆哮を上げながらの突貫。
炎の剣が横殴りに振りかぶられリーアを殴り飛ばす。
続けざまに瞬間的に移動をし前方に瞬時に迫る優が剣を再度振り上げた。
張り巡らす岩壁。しかし、意味などなく粉砕しリーアの体を瓦礫ごと弾き飛ばすように切り裂いた。
「がはぁ!」
右肩から袈裟懸けに切り裂かれた体を抑えながらフラフラと片膝をつく。
前方の優はそんな彼女を見てもさらに容赦なく攻撃を仕掛けるつもりだ。
炎の龍のような形をした鎧を纏い、炎のロングブレード型の剣を右手に握っている姿。騎士のようであるその姿だがリーアには龍そのものが現代に化現したように見えた。
「るがぁ!」
もう、何度目かわからないような炎の衝撃波が放たれる。
闇の防壁を張り巡らし防ぎ切るが頭上から優が上段で振りかぶってきた。
「っ!」
剣がかち合い、リーアと優は何度も繰り返してきた剣戟戦をまた再開する。
炎と闇の発光ラインが尾を引くようにして炎の中でぶつかり合う。
時には魔法によって優の足場は崩れたり、リーアの足に炎がまきついたりなどするが互いに力任せに強引な動きや打撃で粉砕する。
「このへんが限界ですわねッ!」
リーアはついに耐え切って勝利の笑みを刻んだ。
彼の体がふらつき出して今にも倒れそうだった。
魔力が暴走して暴れに暴れて放出しすぎて枯渇したのだろう。
リーアは隙を逃さず詠唱に入っていく。
最大級で最上位の魔法。
ここで、彼を止めれば計画はうまくいくのだ。
(このまま彼を気絶させ私のものにしてしまえば私はお姉様よりも上に立てる存在になるんですわ)
確信を持ったままに口を開きかけた直後――詠唱を止められた。
突如として割って入るように仕掛けてきた攻撃によるものである。
「ぐふっ!」
リーアは驚いた。
この状況下で、疲労困憊で誰もが炎の酸素が薄い環境下で意識を保ってられるはずもなく政府連中は倒れていたのに――意識を取り戻し起き上がっていた少女がいた。
その少女の攻撃が脇腹を突き刺し詠唱を食い止めさせた。
「北坂雪菜っ!」
「お兄ちゃんは殺させはしない」
「あなたは素直に死んでればよかったんですわ!」
リーアの堪忍袋の緒は切れ、右手を虚空に掲げる。
「ダークレッドロック!」
虚空から黒い空間が現れ赤い岩壁の槍が複数出現。
雪菜の体を無残に突き刺し――たとおもった。
刺さったのはリーアだった。
「ぐふっ」
「ぐるる」
背後には暴走した龍牙優の姿。
龍牙優の剣が彼女の背後を突き刺していた。
赤い岩の槍は雪菜の手前で砕けて消失する。
「あなた、いつの間に」
リーアは死を確信して、ほほ笑みを浮かべると倒れふして、地面に指を這わせる。
「簡単に死にませんわよ」
地面に書いたのは詠唱文字。
「ダーケストロックエンド!」
地震と同時に地割れが甲高い音とともに出来始め、地割れから闇の本流が吹き出した。
空を闇色に染め上げていき次第に世界中が暗黒に包まれた。
その中でも地震の頻度は増していき――
闇が優を飲み込んで体を蝕んだ。
痛みの刺激によりだんだんと暴走状態から意識が戻り始め状況を理解し始めてくるが意識はすぐに薄れ始め――地割れに落下。
「お兄ちゃん!」
雪菜は痛む体を起こしそのまま兄のもとへ飛び出して落下していく。
――遠方では地震の被害に同時に被ったリーナと友美も地割れの中に飲み込まれていく。
その場にいる全員が地割れに飲み込まれ――リーアは笑みをこぼし最後の言葉を漏らした。
「世界中を闇で支配しましたわお姉さま。あなたの好きにはさせませんわよ」
そう、この時の誰もがこれも計画の一つだとは知らない。