力の暴走 中編
前回 バトルオンリーと言いましたがすみません。
変更で物語はリーナ・友美視点です。
無事に観客の誘導を終えたリーナ・久遠・フェルトと宇佐鳶友美は他の仲間達を探しに動き回っていた。
「一体どこに行ったんですかー!」
「わかんない‥‥けど‥‥こっちから‥‥雪菜ちゃんの魔力を感じた‥‥」
友美の優れた探知能力の元、会場の外側の裏手から遠回りしてやっと到着するフロントホール。
そこでは燃え盛る炎に包まれる仲間たちの姿があった。
「みんな!」
炎の中ではほとんどのものが瀕死の重傷みたいに見える。
わずかにその中で雪菜が起き上がっていた。
そして、叫び声をあげてる。
だが、こちらには一切何と言ってるのか火の手の上がる音で聞こえなかった。
「いったい‥‥どうなってる‥‥ですかぁ」
友美のいうとおりでリーナにもまるで状況がつかめず呆然と立ち尽くす。
「と、とにかく水の魔法を放って――」
そう、右手を突き出し構え火を消そうとした直後だった。
空から火の中心地点に向かい何かが落下した。
激しい爆炎があがってさらに火は強まる。
落下地点に二つの人影が見えた。
一人は長身の炎に包まれる人、もうひとりは『オオスズメバチの巣』の構成員であり『共生学園』生徒会長、リーア・メルティシア。
彼女が『オオスズメバチの巣』であることは政府からの伝達情報でふたりの端末に来ていた。
だからこそ知っていてあらかじめ、手立てを考えてもいた。
彼女と相対した場合の対処法はすぐにその場から逃走プランを考えること。
だったはずがリーナはその時そのプランを変更する考えに至った。
「リーナちゃん‥‥彼女がいる‥‥逃げよぉ」
「友美ちゃん、彼女を見てくださいよー。弱ってますよー。これは好奇ですー」
リーナは火の中心で長身の炎の人にやられて険しい顔つきのリーアを見て彼女の捕縛を決意する。
ほかにも彼女だけではなくそのほかの『オオスズメバチの巣』の構成員が火の中で倒れてる。
「私たちだけで運ぶのは無理そうですから援軍が必要ですねー」
「は、運ぶって‥‥捕縛するきっ!? ‥‥‥無理だよぉ」
「友美ちゃん、でも彼女たちは弱ってるんですよー。これはチャンスですよー」
「でもぉ‥‥」
リーナは端末を取り出して『電子工学管理』へ通信をする。
しばらくの呼び出し音のあと、ひとりの女性が応答を変えた。
『こちら電子工学管理です』
「テロ対策係室の特部リーナです。数名の『オオスズメバチの構成員』を発見。負傷をし倒れてる模様。捕縛に移りたいので援軍を要請します」
電子工学管理は通称、政府直轄情報伝達局だ。
さまざまな政府組織間での情報送信役だ。
とくにテロ組織交戦時においてまわりに情報を回す役目を担っている。
すぐにリーナはオープン通話にして友美にも聞こえるようにする。
『了解しました。現在、移動できる部隊をそちらに回します。ちなみにですが、そちらにアリス・クリスティア社長および、伊豪SWAT隊長はいますか?』
「いないですけど、それがなにか?」
『アリス様は伊豪隊長を捜索に出たっきり連絡が取れてません。伊豪隊長も先から音信不通です。それから先程通信が途絶えた婁紀彰室長も連絡が取れてない状態にあります』
それを聞いたふたりは背筋がひんやりと凍るように硬直した。
まさかの、この作戦の上役の3人との通信途絶。
これは非常にまずい状態だった。
「源蔵長官はなんといってるんですか?」
『なにも。先程からほかの政治家と言い合いを行い、作戦の新たな立案を計画しています』
「新たな立案?」
『はい、詳しくは存じ上げておりませんが作戦が変わる模様です』
ここで、作戦が変わるのはさすがに想定外だった。
しかし、作戦を変えてどうする気なのか。
『とにかく、わかりました。援軍をそちらにおくります。これにて通信を遮断します』
リーナは通信を終了しポケットに端末をしまい込み、前方を伺った。
武器を激しく交差させ、魔法を乱舞させる火の中にいる二人組。
友美がふと衝撃に打たれたように顔をこわばらせ立ち上がった。
「リーナちゃん‥‥あの炎の人‥‥ゆうさんだよぉ‥‥」
一瞬リーナは友美が何といったのか聞こえなかった。
数秒おいて、前方の炎の人をじっと観察して輪郭がはっきりとわかってくる。
たしかに、その人物は――
「ユウさん?」
龍牙優その人に間違いない容姿をしていた。
そう、あの紳士的でやさしげな表情を見せる彼とはまさに程遠く、強靭な笑みを浮かべ獰猛に牙を剥きリーア・メルティシアへ容赦なく急所を狙う攻撃を打ち放つ炎人物は龍牙優であった。
次回は後編で戦闘になります。