偶然の再会
書類を渡し、教室へ戻れば女子の群れがまだいた。
(げっ、こっちに来る)
最悪なケースを思い、方向を変えて、そのまま少し廊下をつき進んで十字の曲がり角に来たところを左に走っていく。
「仕方ない、少し遠回りして学食に――」
「きゃっ!」
「うぉ!」
昭和マンガかって言う感じのぶつかりをしてしまった優はとっさにぶつかった相手を抱きとめて転倒をまぬがれさせる。
自身は足でどうにか踏ん張れたので可能なことだ。
これも日頃から死線を繰りぬけてるからこそできたものか。
「すまん、不注意だった。大丈夫か?」
「うっ、え?」
相手は眼をつぶっていたらしく、あけたときに目を瞬かせて一気に赤面した。
瞬間湯沸かし器のようにボンと煙を出す。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あああ、あああああ」
ものすごく動揺してるかわいらしい小柄な彼女。
髪はピンク色でツインテールなどこか小動物を思わせるようなかわいい系の女性。
しかも、そんなかわいらしい彼女の今の口調はまるでロボットが壊れたかの様な言語みたいだ。
おもわず、おかしくって笑みがこぼれてしまった。
「すみませんでしたーーーーーー!」
そんな、優の笑みを見てますます顔を赤面化させた彼女は優を突き飛ばした後ものすごいダッシュでその場からあっという間に消え去った。
優はその時に驚いた。
鍛えた優の体を軽々と突き飛ばしたその力に――
亜人集団と戦える身体能力を有した優を一瞬でも突き飛ばすほどの身体能力を彼女は一瞬発揮したのだ。
「なんだったんだ?」
それよりも、とにかく優は彼女の今の反応の方が気になってしまい彼女の背を見ながら独り言のように疑問を口にした。
男が苦手だったんだろうと割り切って騒がしい足音が近くに響いたのを聞きつける。
「まぁ、いいか、それよりも見つかる前に時間ないし学食へ急ごう」
そうして、急いで学食へ走り出した。
******
学食はもちろん混んでいて席など見当たらない。
大広間に複数の席が配置されてるいわば本当にどこにでもある学校のラウンジのような形式の場所だった。
そして、列をなして生徒がキッチンのところでお盆を受け取っている。
その前に食券販売機でメニューを選んで券を購入しないといけない。
優はラウンジの隅で列をなしてるところで食券を買い、キッチンのところに並んだ。
しかし、ここで驚いたが食券の書かれてる値段である。どれもが学生の食堂の値段とは思えない。2000円だの5000円だの、どんないい食材が出されてくるんだよとばかりの価格だ。
ここで、買うのをやめてもよかったのだが釘づけの視線がそうはさせない。
いかにも、何を買うんだろうという視線なんだからな。
「――ったく!」
「あれが例の? 何買ったんだろう?」
「本当に男子だ。 私も彼と一緒ににしようかなぁ」
「二年後の話って本当なんだぁ。あ、先こされちゃう」
似たような内容のセリフが耳に聞こえる。
別にメニューを同じに戦でええと思いたくなるがそれは他人の勝手。
「はぁー、疲れる」
目の前に人がいるにもかかわらず気落ちした感情を見せてしまうな。
ちなみに優が買ったのは最低価格の2000円の物。
「ほら、あんたの番だよ、食券渡しな」
いつの間にか順番が来ていたらしく優は食券を渡した。
あまりにも乱雑な言い方の女性店員に目をすごませていた。
にしても、若い人がやってるのは意外であった。
しかも結構美人さんだ。ポニーテールにした髪の上に三角頭巾は妙に似合う。
しかし、彼女は『亜人』というのがはっきりわかる。耳が長い。
エルフなのか?
「はいよ、ほら次がつっかえてるからさっさと行きな」
せかされるままお盆を受け取ってその場から離れて席を探す。
「どこも混んでるなぁ」
見渡せばどこも満席状態。そして、いろんな種族が目に入る。
角を生やしたけも耳生やしたりなどかなりのいろんな多種族がいる。
まさに種族祭り。
一応空いてる席は数か所あるが、どれもが隣に誰かがいる。誰かいても別にいいとは普通なるのだが俺がこの学園の唯一の男子であることが原因で迂闊にその席に座ることができない。
座れば、隣の女子の視線が痛いことこの上なく食事に集中できないだろう。
いや、どこを座っても同じかもしれない。後ろからの視線も感じずにはいられないのだから。今も背に感じる視線から逃れたい。
どことなくこちらに来いと言ってる様子の目も少なからず感じられ優は渋りながら彼女らと距離は置きたい気分にかられた。
「あきらめて適当な場所にでも座るかな」
そう言って歩を進めた直後、優の目に見覚えのある人物がよぎった。
それ以前に優はその人物がいたことに仰天し、口をポカンと開いて数秒間固まってしまった。
「へ?」
「うっそ、お兄ちゃん?」
優が移動した矢先のちょうどラウンジの真ん中区画に陣取る席に茶髪のロングヘアーにかわいらしいヘアピンを前髪に止めているスタイル抜群なモデルみたいなすらっとした足の長い女の子がいた。
優はその女を知っていた。
そう彼女が言うお兄ちゃんはあながちまちがいではない。
あながちというのは彼女は従妹であり、年齢は同年代。
「な、なんでおまえがここにいるんだよ? 雪菜」
「それはこっちのセリフ! お兄ちゃんだったのこの学校に来た男子っ! 興味ないから見ないでいたのに、でも気になって今見たらびっくりよ!」
あいからわずの強気な感じだ。
「俺はそのぉー、私情だよ」
「私情ねぇ、またアリスさんのところ。――ってことはまさか? はぁー、学園長もうちの学校にさすがに心配になったか」
「はぁー、そうだよ」
優の母方の姉の娘こと、北坂雪菜は的をすぐに射た言葉を発した。さして、優は動揺もせず同意した。
雪菜は優の仕事を知っている数少ない人物の一人。
親戚っていうのもありアリスの件も知ってるし国家関連の裏事情も少なからず知ってる人物であった。
「ふーん」
「んなぁ、ことよりおまえこそどうして」
「私はここの学生だからに決まってるでしょ!」
「何ぃ!?」
学生だというのにはおどろいた。
アリスの奴は知っていたに違いない。変な感情を与えないために黙っていたかもしくは面白がって黙っていたかどちらにせよ今回のこの遭遇は案外よかったのかなどと優は苦悩する。
二人がいがみ合い会話をしてる中で、興味を示したように雪菜の隣に座っていた女子が雪菜の肩をつついた。
「雪菜の知り合ーい?」
「そう、わたしのおにいちゃん」
「だから、お兄ちゃんじゃねえっての」
「いいじゃない、老け顔なんだし」
「誰が老け顔だ!」
と、言いあうのも兄妹喧嘩というよりかはただのいつものじゃれ合いだった。
「まぁ、お兄ちゃん。席ないみたいだしそこ空いてるから座ったら」
そう言って自分の左隣を指差して進めてくる
優は遠慮なくそうさせてもらった。
その際に周りはざわつきだし「あれって? 1年生?」「どこの子たち?」
「生意気じゃない。上級生より先に」「知り合いとかなによそれ」と嫌みな発言があちこちで聞こえ居心地は悪い。
「気にすることないよお兄ちゃん。みんな珍しがってるだけだから。そうじゃなきゃお兄ちゃんみたいなのがモテるわけないじゃん」
「雪菜、お前さらりとひどいこと言ってねぇか?」
「そんなことないでしょ。事実だもん」
もはや容赦ない従妹の一言はさすがにぐさりと効いた。
「雪菜、紹介してよー、その『お兄ちゃん』」
妙にお兄ちゃんの部分を強調して言う彼女に雪菜は赤面し――
「うぐっ、はぁーわかった。」
彼女のこのめんどくさいような感じの対応とため息はどこか優と似たり寄ったりな態度である。
すぐに雪菜はそんな態度を示すも目の前に座る女性にくぎを刺されて、その場にいる雪菜の友達らしい人物三人と優の自己紹介を始めた。
「この人は私の従兄の遠井――じゃなくって龍牙優。まぁ、従兄って言っても同年代だし誕生月が少しお兄ちゃんのが早いってだけ」
「へぇー、そうなんですね―」
雪菜に紹介され優は軽く会釈とあいさつの言葉を述べた。
その際に気付いたことがあった。見渡す限り多種族がいるのが確認できる中でここは『人間』のみのあつまりなのかどうかは定かではないが見た目は雪菜の友達は人間に見えた。
『亜人』とは根本的にいえばいまだにその存在を隠して人間になり済まして生活をしてる種族はまだこの世界には多くいる。
ある異世界人研究家の論文事項によれば、『亜人』がそう言った習性を行っているのは『姿を晒すという行為』は人間で言う本心を晒す行為に近いものを言うらしい。しかし、中にはエルフやドワーフ族のように人間に擬態することが難しい種族なんかもいるように『擬態』してる『亜人』としてない『亜人』は半分半分。
よって、この中のメンバーが人間であるという確証はない。
けれども『人間』だろうが『亜人』だろうが優は差別する気はなく気兼ねなく接する。
続けるようにして――
「じゃあ、私たちもあいさつも兼ねて自己紹介しまーす」
元気よく自己紹介を行ったのが右隣に座った彼女。
真っ先に優に興味を抱いてた彼女。
赤く長い髪をワンテールにした顔立ちの整った美人な容姿とモデルの様な体つきをする女性が右手を挙げて名を名乗った。
「加倉井 杏里って言いまーす。よろしくでーす」
元気な感じの子で逆にこっちが圧倒される。
優は「よろしく」と愛想よくふるまった。一般的な対応をこの彼女に対してはどうすればいいのか困ったのでとりあえずそうしたが間違いではないようだ。
続けて自己紹介はその前に座る小柄な彼女に向けられた。
「あ、さっきの」
「さっき?」
優の言葉にすぐに雪菜が食らいついた。
食らいつきようが半端ない。しかも、なんだか目が鋭く研ぎ澄まされマジ怖い感覚を優は味わう。
「さっき、ここに来る前にちょっとな」
「ちょっとって何!?」
「衝突しちまったんだよ」
「衝突ぅ? あ、だからさっき友美ちゃん泣いてたの! お兄ちゃんのせいだったのね!」
わかった途端に優の首を絞めにかかる。
ガチで雪菜も過去に優の親父に戦闘技術を教わってた経験もあるのできれいに首絞めを決まってるので優は腕をタップする。
それほどに苦しかった。
「ぐぇええ、違う‥‥あれは‥‥‥だなぁー‥‥‥‥事故だって‥‥‥うぐ‥‥‥雪菜‥‥‥離してくれ‥‥‥マジで死ぬ‥‥‥悪気はなかったんだ‥‥。 けがは‥‥させてない」
優が首を絞められて必死で抵抗し反論するが雪菜は聞く耳を持たず、絞殺にかかってる。
なんだろう、視界がぼやける中で雪菜の表情が恍惚としていて笑みを見せてるように見えるのは気のせいなのだろうか。
そこへ彼女友美といったかが雪菜をなだめにかかった。
「雪菜ちゃんやめて! 本当にその人の言うとおり私けがしてないしただ驚いてしまっただけで、別にその人が悪いわけじゃないの! それに転倒する直前助けてもらったんだよ!」
「何言ってるの! 驚かせたのなら罪!」
「むちゃ‥‥‥‥くちゃな‥‥‥‥」
さすがに決まりすぎて幻影が見え始める。
(あ、まじでやべぇ。あー、なんだろう。知らないおじさんが手を振ってるー)
ツッコミなぞ無視の雪菜。そして、おろおろとする友美。
「雪菜、その辺にしときなってぇー」
そう言って腕を伸ばし雪菜の腕を掴んで雪菜の横暴を止めてくれた少女。
友美の隣に座る腰くらいまである長い髪をポニーテールにした青に金のメッシュを入れた髪の青い目をした美少女。
スタイルはいかにも体育会系な感じなのだがでも抜群なプロポーションである。
「はぁー、リーナに面じて許してあげるんだからね、お兄ちゃん」
「助かったぁ」
「雪菜容赦ないですよねぇー」
ちょうど優の席近くでにこっとかわいらしい笑みを浮かべるがどこか少し男の子っぽいしぐさ。
「ああ、昔からさ。こいつは容赦ない。特に俺には」
優は首をさすりながらそう返事して雪菜を恨みがましく見てやった。
雪菜も逆に「なによぉ」と言いに睨み返される。むかしから、雪菜の睨みには凄味があり逆のこちらがまた畏怖をする羽目になった。
そんな雪菜から視線をそらし、優はたすけてくれた彼女に目を向けた。
「私は、リーナ・久遠・フェルトって言います。これからよろしくですぅー。えーと」
「優って呼んでくれてかまわない」
「優さん?」
「ああ、さんはいらないさ。どうせ同い年だ」
「ええっ!?」
衝撃に撃たれた彼女に逆にびっくりする。
(なぜ、おどろく?)
自分はそこまで老けて見えるのだろうかなどと今後心配な自分の容姿にがっくりと肩を落とす。
「だって、お兄ちゃん老け顔だから年上に見えるのよ」
「何度も言うが誰が老け顔だ!」
「ふんっ」
「――ったく、で、そっちの彼女はまだ名前聞いてないんだが」
優はそう言ってリーナの奥に座るいまだにな名しかわからない彼女、友美に目を向けた。
この際、雪菜という知り合いにあえてその交友関係からこちらも友人という枠組みで学内を乗り切るという策略もありだろうと考えれば、名を聞いておいて損はないと考えた。
「‥‥‥‥‥宇佐鳶友美です」
「よろしく宇佐鳶さん」
「っ~」
なぜか、優が笑みを浮かべて挨拶を述べたら顔を赤らめうつむいてしまった
「あー、この子人見知りなんですよぉー」
リーナがそう言って宇佐鳶さんの頭に手を置いて言う。
「でも、そんなところが可愛いんですよぉー。うりゃぁ」
「うーやめてえぇーリーナちゃぁ―ん」
頬をプにプにされてもだえじゃれあう二人を優はどこかこっぱずかしくて見てられなくなってしまう。
なんだこの男として見てはいかん状態。
「まぁ、自己紹介はすんだでしょ、お兄ちゃん」
「だからだなぁ、お兄ちゃんはやめろって言ってんだろ。なんかむずがゆいんだよ」
「あのー一ついいでーす?」
突然、手を挙げて加倉井さんが質問をした。
優はどうにも彼女には親近感を感じていた。
疑問に感じながら彼女の質問に耳を傾ける。
「なんで、同い年なのに雪菜はお兄ちゃんって呼んでるの?」
「それはお兄ちゃんってばこう――年上に見えるからよ」
「それはわからなくもなーいけどー理由はそれだ―け?」
「わからなくもないのかよっ」
優のツッコミなどスルーであった。
「昔からねぇ―なんかお兄ちゃんって感じとしか言えない」
「ああ、そのたびに俺はお兄ちゃんはやめろだなじゃないだの言ってるのにお前ときたら」
「いいじゃない、妹がいるなんて男として本望でしょ」
「妹が大きくなければな」
「私のどこがでかいって言うのよぉ!」
雪菜は実は背の高いことをコンプレックスを抱いている。
それをつつかれるとこうしていつも怒りだす。
けれど、優が指摘したのは背ではなく胸のことだがそれを正直にいえば「お兄ちゃんのセクハラ!」とかなんとか言って殴られるのが目に見えてるので訂正などしない。
「さぁな。さて、飯を食うかな。―――ってさめてやがるし‥‥‥‥時間もねぇ」
時刻は残り10分しかない
早く食い終わるか。
「ちょっとどこがでかいか言いなさいよぉ!」
「あ、うめぇや」
高い値段だけあって、その飯はかなりうまかった。
「ちょっとお兄ちゃん!」
妹はただ怒鳴るだけで手を出さない分やさしいと感じ雪菜の怒声を無視で飯を食べ続けた。