過去の夢と監禁
「お父さん! ‥‥うぅ‥‥おとうさぁん」
激しく降りしきる雨の中、小さな女の子がどこかの葬式会場で棺の前で泣きじゃくっている。周りの大人たちはそれを心底かわいそうな目で見るようにして言っていた。
「殉職か‥‥。いつかはと思っていたが」
「だが、どうなる今後? 誰が彼の後任になる? 遠井優も失踪してる状況でまずいぞ」
これは夢――。
昔の遠い過去の記憶。
ちょうど、アリスの父親、国家特別暗部殲滅掃討委員会兼亜人管理担当官長をしていた人物、ディド・クリスティアの葬式だ。
思い出したくもない過去。
あのときのアリスはただかわいそうで仕方ない。
子供だった俺も親父の失踪や母親は病気がちで入院してる身だったために親を失う悲しみというのは少しだけ理解できていた。
アリスの母親も席に座りながら顔を覆ってハンカチで目元をぬぐう仕草は誰の目にも見えていた。
「やはり、彼の後任は娘が継ぐことになるのか?」
「だが、まだ9歳だぞ? あんな子供に重荷すぎる以前に無理だ」
「だったら、誰がやるというんだ?」
「一番の推薦枠としては国防総省長官ではないか?」
「馬鹿を言うな。彼は人間がわの政治を取りまとめてる人物だぞ。亜人側まで兼任できるほど暇はない」
「確かにそうだ。彼は忙しい身分なうえに普通の政治家であり警察や軍人という立場の人間ではない。戦闘技能などからっきしな人間が『掃除屋』をつとめられるはずなかろう。亜人管理担当官ならまだしも」
「‥‥‥‥して、ならばこのまま遺言に則り娘に継がせるしかないのか」
「ミサリア・クリスティア氏はなんと?」
「娘が決めることだとおっしゃってる」
「なんと身勝手な」
政治家はまるで、今後のことが大事で悲しみなど惜しまず仕事の話ばかりを葬式だというのにかわしてるのは不謹慎極まりない。
ひとりの少年が睨みを利かせてると政治家の一人がこちらをみた。
「なんだ坊主?」
「すこしは場をわきまえたらどうなんだ? 今後の方針ばっか気にして。確かにおじさんたちには大事なのかもしれないけど周りを見てよく考えてそう言う会話をしろよな」
少年というにはあまりにもらしい発言をせず大人たちに糾弾した。
「なっ! なんにもしらんくそがきがぁあ!」
政治家が少年の発言にブチ切れ平手をくらわそうとしたがもう一人の政治家が少年のことを知ってた様子であわくってその手を止める。
「おい、よさねえか! そのガキは遠井家の御子息だぞ!」
「なっ! このガキがっ!? 失踪した世界統治管理担当者の息子!?」
殴りかかろうとした政治家はいそいそとその場を離れていく。
少年の親父の名前はどこへ行ってもみんなが泡を食い、驚愕し彼から逃げていく。
手を挙げれば世界を敵に回すと同意意義だという存在。
それが少年――後に龍牙優と名前を変える遠井勇牙だった。
しかも、子供ながらにして少年は親父の戦闘技能を継いでたので、周りの大人もその事実を知ってるためにそう言った逃走行動をとっていた。
「おっかねぇよな、遠井家のご子息。そういえば、遠井管理担当官庁はクリスティア会長の死亡事件を調べてる途中に失踪したんだったな」
「そういやぁそうだよな。父親は失踪かぁ。母親もなんか入院してるって聞いたが本当なのか?」
「ああ、なんでも重い病気だとか」
「衣食住はどうしてるんだ?」
「そりゃぁ、国が保証してるにきまってんだろ。あと、クリスティア家に寝泊まりとかもしてるとか」
「ああ、なるほど」
3人の政治家の会話とその他の政治家たちが少年へ哀れみの眼差しを向けていた。
たちまちもはや葬式の空気は様変わりして行く。
葬式の場ではない。もはや飲み屋の密会みたいな場所へ様変わりしている。
「勇君、ありがとうね」
アリスの母親、ミサリア・クリスティアが勇牙に笑みを向けて頭をなでつけるしかしその手は気弱かった。
「そういえば、今回の犯人は見つかったのか?」
「まだらしいぞ。遠井官庁も失踪してるからな」
「でも、どっかのテロ組織だって話だろ?」
「みたいだな」
ふざけた会話は止むことはなかった。
******
場所は切り替わった。
どこかのビル内らしかった。
いや、覚えがあった。
これは初期の『掃除屋』本部ビル。
「ねぇアリス姉ちゃん、俺に伝えたい大事なことってなんだよ? こんなところまで足を運ばせて。学校まで休んだんだよ」
「それは悪かったわね。でも、もう学校に行くことはない」
覚えているこの後の言ったセリフも。
勇牙はこの時までアリスがまさかもう親の後を継いでるとは知らなかった。
「何言ってるんだよ?」
「あなたにこれからお願いすることがあるわ。それ次第であなたは学校へ行くことはない。といっても高校からは学校へ行かないで働いてちょうだい」
「ん? 何の話をしてるかまったくつかめないんだけど」
「勇ちゃん、私の相棒になって」
「相棒?」
そのあとに勇牙はアリスから散々語られた。自分が『掃除屋』に去年の12月になったことや『掃除屋』について、そして、裏社会の実情などなど。
そして、親父の失踪について探ることができることを教わった。
「そんな‥‥じゃあ、親父はどこか異世界にいるかもしくはテロ組織集団につかまってる可能性がある?」
「うん。私のお父さんも殺された。相手がだれでどんな組織かはわからないけれど‥‥でも、私はあなたとだったら見つけられると思ってる。勇ちゃんはずっと私といて戦闘技能だって私と同等かそれ以上だもん」
「でも、俺はまだガキだし」
「そうだけど、そんなのどうだってできる私たちの親はすごいから」
結果的に勇牙は苦悩した末に承諾してそれから数年たてば右腕になっていた。
そして、『掃除屋』という国家秘密組織が拡大しビルが移ったんだ。
******
アリスは目を覚ました。
どこか薄暗い部屋。
あたり一面、壁。
何もない空間。
牢屋という言葉がふさわしい。
もしくは拷問べやか。
「あ、アリス・クリスティアさんでよろしいかしら?」
アリスは重たい首を押し上げ横を振り向いた。
自分と同じように椅子に手足をロープでくくりつけられた『共生学園』学園長、九条美代がいた。
その向こう側には血みどろになって気絶してる大会運営委員会会長、佐藤林道の姿もあった。
「ここは?」
「大会の保有する緊急用避難シェルターです。ですが、今はもうその昨日話しておりませんがね」
彼女が自虐的にほほ笑みを浮かべた。
「なるほど、システムが乗っ取られてしまったことでですね」
「そのとおりです」
アリスは考えた。
なぜ、生かしてるのだろうかと。
しかも、殺害予告を行った彼女と彼も生かしていた。
明らかに不自然である。
「どうにかして抜け出さないとまずいわね」
「無理ですよ。ここはもう敵の手のうちに落ちたシェルターです。耐爆耐刃耐魔耐銃も施した特殊装甲の鋼鉄ルームですからいくら内側から攻撃を仕掛けても出ることはできません。外側の電子ロックを解除しない限り」
彼女の視線が目の前を向いた。
そこには大きな鋼鉄製の茶色い扉があった。
その脇には監視モニターカメラやセンサーが取り付けてある。
「見られてるわけね」
「はい。同様に上にもありますよ」
天井を見上げればたしかに同じように監視カメラとセンサーがあった。
悔しさにじむように埋木を上げながら体を揺するが解くことはできない。
そのときだった。
目の前の扉が開いてあの女が現れた。
「ようやけ目覚めマシタワネ」
「ユリハネ・メルティシアっ! 私たちをなんで殺さない訳っ!? 何をしようと言うのっ!?」
「黙っていて欲しいデスワネ」
そう言いながら右手から電流を放出させ、アリスに電気の糸が繋がり痺れさせる。
「あぁあああああああああああ!」
「ころさに理由デスノ? それは公にネット中継であなたがたの殺しのショーを世界にみせるからデスワ」
「‥‥‥‥そんなこと‥‥して‥‥ただ‥‥じゃあ‥‥すまないわよ」
「そんなの承知デスワ。まあ、ちょっと殺しのショーをするにはまだ予定より早かったんですけどどうにも爆弾が止められてしまったらしいんデスワ。あの馬鹿な部下どもも役に立ちまセンワ。ねえDM」
「はい」
彼女の背後から優と試合を演じた彼女DMが現れた。
まだ催眠状態が溶けていなかったようだった。
それ以前にアリスは驚いた。
「あなたが彼女を操っていたのね」
「あら、気付かなかったのデスワネ」
「リーアあの子かと推測してたわ」
「確かにあの子も催眠はできますけど弱いんデスワヨ。あの子の」
DMはただじっと黙認しながらこちらを見据えているとまた背後から2名人物が現れた。
「さっき、新しい人形を手に入れましたのよ」
そこにはエルフとドワーフの美少女。
シャーリー・ステファーとアイシャ・デルガザスだ。
「この子達にはあなた方の殺しのショーを終えたあとに世界を壊す手伝いをさせるつもりデスワ」
「っ!」
「まあ、手始めに自分の仲間を殺させマシタワネ」
なんの感情もないような感じでそんなことを平然と言ってのける彼女。
アリスはふつふつと怒りが滾り始め次第に冷気を立ち上らせた。
「あら、おとなしくしていて欲しいと言いマシタワ」
首に闇色の輪が放たれ締め付ける。
「ぐぅ」
「少し暇ですし、戯れましょう」
そう言い、ユリハネは異空間からペンチを取り出しアリスへと近づいていった。