オオスズメバチの巣の陰謀
激しい衝撃波が会場を波打った。
続けざまに爆音が響き土煙が舞う。
土煙の中で右腕を抑えながらよろよろと立ちあがるリーアの姿。
満身創痍な姿を見た優もまた、同じ状態だった。
放った技は自爆系の魔法。
膨大な魔力を放出させ、自分の体内の魔力を自発的に暴走させる。
それによって引き起こされる爆雷。
「こんな‥‥ところで‥‥まだ‥‥」
「ちっ、まだ余力があるってかよ」
渾身の拳が目の前まで突き出されアッパーがくるがしかし――
「お前に勝たせるわけにはいかないしこの試合に勝者はいらないんだ」
攻撃の速度は読み切れた。
体をそらしただけでその攻撃は回避できた。
代わりに優は彼女に抱きついた。
「離せっ!」
「それは無理な話だよ」
優は目をつむり日の魔力を一気に体から放出した。
「あぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」
毎度のことである。
悪人善人の区別がつかないこの仕事。
相手を始末するときは常にそうだ。
体に感じた重みは消えて目を開ければもはやそこには煙を上げ失神したリーアの姿があった。
「ぐっ」
優は苦しげに呻きそのまま倒れふした。
そして、審判のコールがなった。
『両選手戦闘不能により、覇者決定戦最終戦はドロー。これにより、本大会第20回魔法競技ランク戦大会は優勝者を2名とする』
観客や記者に慌しさが走り、ただちに職務に入る姿がうかがえた。
倒れた優はその光景を眺めながら青空を仰ぎ見て笑いをうかべる。
「どうだ‥‥」
その時――爆発が観客席全体を最初に会場全体で引き起こった。
******
アリス・クリスティアは部下を先導し、爆弾撤去作業及び、音信が途絶えた伊豪の捜査にあったていた。
その際に気づいたのはマジックボックスへ行く秘密ルート。
地下駐車場。
その箇所にいくつかの血だまりがあることがわかり、アリスは悔しげに毒づいた。
「まずいわね。すぐに、Aチームは可能さんに連絡をして頂戴。他のチームは私と一緒に」
明らかに作ったかのような壁穴。
無理やりにこじ開けはしごを階段替わりにしたかのような地下への抜け道だ。
どんどんとアリスを戦闘に『掃除屋』の部隊が地下へ進行する。
「ストップよ」
光が見えた。
少し歩を進め、大きな鉄の扉が聳えていた。
大きな鉄上扉の向こう側からの光だった。
扉の隙間からわずかに差し込む光。
生唾を飲み込み扉を開けた。
「『国家特別暗部殲滅掃討委員会』よ! 今すぐ全員手を挙げてその場に伏せなさい! 抵抗するものは容赦なく射殺するわ!」
アリスが入った途端に空気がシーンと静まった。
そこには――空間の真ん中にドンと置かれた鉄上のパイプにつながれた培養液に入った金属球体。そして、その周りにあるいくつもの機械の物体。
このピンク色の光が扉に差し込まれていたことが分かる。
「ようこそおいでマシタワ。アリス・クリスティアさん」
突然として奥から一人の女が現れた。
「ユリハネ・メルティシア。あなたを不法侵入及びテロの疑いで拘束するわ。大人しくお縄につきなさい」
「それは無理デスワ」
彼女が右手を掲げた。
頭上からいくつものさっきと気配を感じアリスは飛び退った。
金属音がなり、地面が何かに穿たれる。
アリスの先ほどまでいた場所に大きなクレーターが出来上がる。
その光景に目を奪われた矢先に部下の悲鳴が次から次へと上がり倒れていった。
「なっ!」
部下の背後にいた人物たちを見てアリスは硬直した。
驚きによる硬直。
なぜなら、アリスの舞台を襲っていたのはSWAT隊。
そして、地面を穿ったもの正体は伊豪政宗だった。
「伊豪さん?」
「ぐがぁ‥‥あぁ‥‥うぅああっ!」
人間の動きを超越したかのような足バネのしなる猛進。
突進をかますかのようにして斬撃が振るわれアリスは防御したが強力な攻撃のあまり防御体制ごと吹き飛ばされ壁に磔にされる。
目がどす黒くなった伊豪が言語にならない言語を発しさらに追撃をかけた。
「氷盾」
アリスの前に大きなダイヤ氷の壁が出現し伊豪の攻撃の衝撃を吸収した。
伊豪はそのまま飛び退って再度追突し剣を幾度も振るって盾を壊しにかかる。
まるで猛獣。
「あなた、なにをしたの?」
「すこし、タガを外しただけデスワ。本能という」
「そんなレベルじゃないでしょ!」
壁から抜け出したアリスは伊豪を魔法で発生させた吹雪で吹き飛ばしあっけなく気絶させる。
さすがのユリハネも目を丸くし失笑した。
「なるほど、舐めていましたワネ。さすがは『掃除屋』のボスデスワネ」
そういいながらも彼女はどこか、愉悦に満ちた表情を消さない。
「あなたの計画は終わりよ。ここで私に倒され、最強たる証明の半減も彼が行う」
ユリハネにアリスは試合の映像を見せた。
試合は終わりを迎え用としている。
ついに優が爆雷したことで試合の決着が引き分けとなった形で終わった。
それを見たユリハネは――
「うふふふ」
哄笑し始めた。
狂ったかのような不気味の悪い笑顔。
「あははははっ! 間抜けデスワネ。半減それがどうしたと言うんですの? あのこのことなんか最初からあてにはしてまセンワ」
「なんですって? ――いぐっ」
アリスの体に激痛が走る。
手足が何かに引きちぎられるかのような激痛が走りその場にうずくまってしまう。
アリスは足元を見た。
「緊縛の魔法陣!?」
「最初から私の目的はあなたたち政府の上層のものたちデスワ。世界にあなたたちを見せしめとして殺す映像を流すんデスワ」
「っ!」
「力の証明なんて嘘の情報デスワ。私の部下が流したデマデスワ。実際問題、テレビ局が騒げばそれでいいんデスワヨ。そう、あとは壇上に上がる機会さえできればデスワ。優勝者というのは本のスパイス、味を聴かせる演出の意味で楽しませようと考えたプランデシタワ。けど、まあ、それは無理そうデスワネ。ちょうど、テレビの撮影が始まってる頃合いですし」
「それは‥‥」
ユリハネはなにかのスイッチを取り出した。
「爆弾は機械だけにあらずデスワ」
その時会場全体が大きく揺れたのだった。