覇者決定戦 最終戦 龍牙優VSリーア・メルティシア 中編
優は奇妙な空間に囚われた。
周りは暗く何も見えない。
魔法で火を灯しあたりを照らす。
ただただ闇が奥まで続いていた。
ここは先ほどのフィールドから移動させられたのかそれともただ、その場所に何かで閉じ込められたのかどちらにしても状況はまずかった。
この状況がなんであるかは分からないが、敵の気配――魔力の波動を多く感知できた。
(なんだこの数? 対戦相手は一人のはず。移動させられてるのか?)
疑問が頭を渦巻き、場所を移動させられたと考える。
歩いても歩いても闇が続き行き止まりが一切ない。
敵の攻撃を気にして歩いても一向に敵の攻撃は来る様子がない。
罠を考えたが罠としてもそろそろ何かしらの行動があるだろう。
「うふふっ、アビスワールドはワタクシだけの空間。あなたには何も見えずとも私の目にはしっかりとあなたが見えますわ」
ついに聞こえる敵の声。
暗闇の中から足音が響く。
そして、頬を銃弾がかすめる。
目を座らせ奥を睨みつけながら優は言葉を吐いた。
「そうやって隠れて臆病者かあんたは」
「うふふっ、負け犬の遠吠えなど聞こえませんわね」
暗闇の中でわずかに人の気配がわかるが見えないのでは意味がない。
突然、灯りが舞い込んだ。
一筋の灯が照らしたのは対戦相手のリーア・メルティシア。
彼女の手には煌く光。
その魔法の光が明かりの正体だった。
間合いに立ったリーアの姿が視認でき始めて優はその姿を見ていぶかしんだ。
あちこちが戦闘の後のように傷だらけで服装もすすで汚れやぶけ散っていて下着や肌が露出しておりほぼ半裸に近い恰好。
「なにがあった?」
「少々、無理に3重魔法を使用したものですから体に負担がかかって反動が来たまでですわ」
「3重魔法?」
――ピチャン。
水音が足場から聞こえたのを感じ優は足を止める。
「ウォーターバイス」
体中が濡れるような物体によって切り裂かれていく。
それがなにか優は魔法の光で確認した。
足場には水溜りがありその水たまりが水の刺となって襲撃している。
飛び退きながらも追いかけてくる水の刺たち。
「ちっ!」
ホルスターからバタフライナイフを引き抜く。
バタフライナイフは新装したばかりの武器。
熱を帯びた刀身が水の刺を蒸発させ切り裂く。
「っ!? 異世界の特殊装備ですわね。ならばこれはどうですかしら!」
無数の足音が聞こえ忍び寄ってくる気配。
足場に光の魔法を撃ち落とし周りが閃光に包まれる。
その一瞬で見た気配の存在。
水の人型に黒い1つ目をした奇妙な人形たちの軍勢が押し寄せている。
「くそったれ!」
右手から炎の剣を具現化させる。
炎の魔法によって構築された剣――。
「魔装武装を展開したところでワタクシのコピー人形は倒せませんわよッ!
「それはどうだろうなっ!」
優は炎の剣と左手に握ったバタフライナイフと一緒に振るう。
瞬間、円状の炎陣が斬撃となって周りを焼き払う。
水の人形たちが蒸発し半数以上が消滅する。
残りの数の水人形も呪いながらも動きは止まらない。
「ひやっとしましたがこれで勝ちですわね」
「それはどうかな?」
水の人形たちが優のわずか手前で爆散した。
「な、なにが?」
「俺の足元を見ればわかるさ」
リーアは優の足元を見た。優の足元の周りに円形の焼け焦げた魔法陣があった。
直径わずか50センチくらい。
それが何かすぐに察した。
「なるほど、先ほどの技で防衛の魔法陣も刻み込んだというわけですわね。なかなかやりますわね」
「まあ、即興でやったにしては上出来だろ?」
「うふふっ」
リーアは背筋に冷や汗が流れた。
今のを即興でやるなど普通の人には無理だった。
どんなだけの魔力と技量がいるのか。
通常、魔法とは魔法を重ね合わせるのには相当な魔力と集中的な技量がいる。
魔力の集中が常にないと魔法が放てないのと同様に魔法の2重掛けはさらなら集中力――たとえ、相手が剣をぶっ刺しても動じない心がなきゃできないほどのものがいる。
しかし、この2重魔法にもしっかりと通常のルールはある。
攻撃型魔法と防御型魔法の複合性の厳しさ。
つまり、同じ型魔法の2重掛けは誰しも集中力を鍛えればできるものだがこの優が行った別型同士の二重がけ魔法は無理なものだった。
これには相当な集中力つまり、目の前に来る死の痛みにも動じないほどの精神を持ってないと行うことなど皆無。
そして、膨大な魔力。人が一人で抱えられるほどの魔力では到底足りない。
「どこをどうすればそのような高等テクを?」
「よく言うぜ。あんたもどこをどうすればそんなテクができる? 3重がけの魔法。このアビスワールドは主に闇だ、それにいまあんたを光らせ守ってるその魔法は光、そして先ほどの人形は水。あんたは一度に3重にも魔法をかけ放っている。この魔法維持だけでも相当魔力を減らしてってるはず」
「‥‥‥‥答える義理はないですわ。だって、あなたの力量は全て見切りましたわ。これで終わりですわ」
「なに?」
光が消え存在が見えなくなると同時に嘲笑い声が響き優の体中を何かが切り裂いていった。
ずたずたに切り裂かれ防衛が取れない。
視認ができない攻撃を防衛するのは厳しい。
背後からの奇襲が止めとなり優は前のめりに吹き飛ばされる。
背に満ちる鈍痛。
「がふぐっ」
すぐウニ身を起こした刹那に殺気を感じ取っさにバタフライナイフで防衛をしたが剣は見事に折れて優の胸を貫く。
「がふっ」
吐血をし、腹部から細身の剣が引き抜かれた。
再度頭上に迫り来る刀身のキラメキを垣間見た優は咄嗟に炎の剣を横合いに構え防ぐ。
金属音が地味にあたり一面に響いた。
優は力いっぱいに振り上げ相手をはじき飛ばし責めにかかる。
縦横無尽に剣を振るうが見事にすべてがからぶってる気配があった。
「どこ狙ってるんですの?」
真横から来た魔球が優をバウンドボールのように吹っ飛ばした。
停止し地面に横たわった優は顔を上げるとその頭を踏みつけられ地に埋まった。
リーアは立ち見下し右手で構えていたレイピアを突きつける。
「先ほどの技を放ったからには相当な集中の乱れがあったはずですからそこを付かせていただいたことをずるいとか思いませんわよね?」
「チェックメイトってか?」
足を力強く首のチカラでど貸顔を上げ毒を吐く気力をみせる。
「毒を吐く気力があってももう終わりですわ」
リーアが鋒に闇色の魔力を集中させていく。
そして、彼の頭を吹き飛ばした。
「やりましたわ! あはははっ!」
そのときだった。
倒れたはずの彼の体が蠢きだした。
「え」
「オレも簡単にチェックメイトはされないぜ。キングだけでもやれるところまではできるってな」
わけがわからない。
彼の頭は完全に吹き飛ばしたかに見えた。
しかし、そこにはしっかりと頭は無事に残っていた。
優は魔力を滾らせ目が赤く燃えあがる。
「この魔力まさか吸血鬼の魔力を――」
「もう遅い! 吸血鬼モード解放! 続けて解放1――我纏いし迅雷の竜と化す! 雷竜血鬼!」
突然の爆雷によってリーアは吹き飛ばされ目撃した。
優の背から雷の竜が怪訝しまとわりつき優に吸い込まれていく。
暴雷が優から放たれたと思ったら彼の姿が異形を遂げ始める。
雷鳴が轟き、雷の両翼を背から生やし、雷の鉤爪が両手から抜き出る、赤く変色した目、そして鋭い牙を生やし、先ほどよりも断然違う魔力の質と量を体からわきあがらせた。
「竜‥‥」
体が硬直して動けない。
ただ、このままではまずいと思ったリーアは封じ込めるための魔法を放つ。
「バインドアビス!」
優の頭上から闇の光線が幾千万も放たれた。
しかし、雷鳴が光線弾き飛ばし爆発をひこ起こす。
爆風が止んだ中から雷の龍の鎧をまとった彼が現れる。
「さあ、最終戦と行こうぜ」