地下駐車場のSWAT
黒く染まりつくした部下たちの群れ引き連れファンランたちが向かったのは地下駐車場。そこには秘密の地下階段の出入り口がある。
といってもこの通路は大会責任者室から行く地下ルートとは別ルート。
『オオスズメバチの巣』が秘密裏に作った抜け穴。
地下駐車場にたどりつくと外が騒々しいのに気づいた。
気配を感じとりながら急いで地下へ部下を誘導していく。
なぜなら、敵の目的は自分たちの殲滅であるからだった。
目を細める。SWAT隊が現れたのに気づいた。
一発の弾丸が足元で弾け飛び、それ以上動けば打つという威嚇射撃であることが伺えた。
「テロ組織『オオスズメバチの巣』の者だな。それ以上動かないでもらおう」
「チッ、ここは私が引き受けるアル。シェンファを連れてとっといくアル」
伊豪は背後伺う。やはり、さきほどの銃弾を受けたらしい女が瀕死の重傷らしくピクリとも動かず部下に抱えられ地下に逃げ込もうとしていた。
「射て!」
伊豪は容赦なく相手の殺気を感じ取った刹那に部下に命じ一斉射撃。
しかし、黒い防壁が全ての弾丸を飲み込み防いだ。
「お返しアル」
「おまえら防衛たい――」
伊豪の命令虚しく――
指を「パチン」と鳴らした同時に闇から弾丸が跳ね返りSWAT隊を襲う。
上がる悲鳴の中で伊豪はその技の効果に気づいて武器を引き抜き刀で銃弾をすべて切り落としていた。
「なるほどアル。部下はあれでも隊長は別格というわけアルか」
「くっ」
倒れて血まみれの海に伏せた部下の山を見て伊豪は奥歯を噛み締め悔しみの表情を浮かべた。
「ハッ」
「っ!」
ファンランが振るった武器から放たれた斬撃の衝撃波が伊豪に押し寄せた。
横合いに飛び退き、回避。
部下の死体が衝撃によって吹き飛ばされる姿を見て目を伏せぜずにはいられない。
「警察の特殊部隊もたいしたことないアル」
「きさまだけは許さん!」
刀に指を這わせ右肩肘を引き、足を肩幅に開き刺突の構えを取る。
「牙突!」
刀に乗せられた魔力の波動が呼応し放たれる。
魔力の波動は、ファンランの目には獣牙のような形に見える幻覚に襲われた。
波動はそれでもファンランにダメージを与えることはなかった。
「なにっ!」
ファンランを守るようにしてまたあのいびつ悩みの壁が阻んだ。
「お返しアル」
「魔力の波動までも返――ぐぁああああ!」
闇の壁は魔力の波動を撃ち返し伊豪を容赦なく吹き飛ばした。
柱の壁に埋まる伊豪。
「まだやるアル?」
「がはぁっ‥‥この程度でSWATの隊長をやってはいないぞ」
ファンランは気づく。急に闇の壁の制御が不安定になりだした。
「な、なんだっ!?」
「牙突牙砕剣っ」
伊豪が血の含んだ口を苦にして叫ぶとファンランの構築した闇の壁が爆発。
それは伊豪の技が内側から破壊したのだった。
その衝撃波がファンランを襲い吹き飛ばした。
天井にめり込んだファンランは意識を失い身動かなくなった。
「勝ったか」
「なかなか面白い技デスワネ」
「ッ」
伊豪はいつの間にか目の前にいた女に気づいた。
いつ、あらわれた。
そんな思考がよぎった時には遅かった。
胸元に深々と刺さる闇の短剣。
血だまりが口から吐き出され、意識が闇に乗っ取られるがごとく薄れゆく。
「でも、油断は大敵デスワネ」
「なにも‥‥の‥‥だ」
闇のローブをまとい全身を覆い尽くした謎の人物がフードを払った。
「オオスズメバチデスワ」
「ユリハネ・メルティシア‥‥きさま‥‥」
伊豪は眠りにつくのだった。
「おやすみなさい。調査官さん」