始まりの転入
「えー、今日からこのクラスに転校生が来ました」
とある学校のその教室で教壇に立った担任の『女』教師が言う。
クラスの中にいるのは全員『女子』。そのクラスの女子は騒ぎだす。
でも、普通の学校のクラスにしては少し特殊でもある様相が広がっている。
角の生えた女の子や耳の長い女の子、羽根を生やした女の子などの姿がうかがえる。中には普通の女の子もいるけれどそんな中でも今、目の前にいる『彼』という存在の方がクラスにとっては異質なのが現状だった。
「この時期に?」
「だって、もうすぐ2年の変わり目よ」
そう、クラスの女子が騒ぐのも無理はない。
時期は2月半ば。次の学年に進級するという時期まっただ中。
そんな時期にこの1年のクラスに転校生がやってきた。
「はーい、静かに! 私も不本意ながらこの転入には反対の意を唱えましたがこれは学園理事会の決定で『彼』はこのクラスに『特待生』として入学します」
女教師の言葉にさらなるざわつきが起こった。
特定性の意味するところは特別待遇を許された生徒。
クラスの女子はその特別待遇のことについて噂で耳にしていた。
「やっぱり、あの噂本当だったのよ!」
「でも、この女子高に男子が転校するなんてどうして?」
「わかんないけれど、噂だと彼は学園側の頼みで来たって。それにうちの学校3年後には共学になるからそれのお試し学生って話も聞いたわよ」
「お試し学生って?」
「あんたしらないの? 要は、男子と女子がともにこの『女子校』で暮らして大丈夫かどうかってことでしょ? この学校それに『特殊』でしょ」
そう、クラスは言うように特殊で、一人ひとりが個性的な容姿をしていた。
例えば、耳が長いものだったり、猫耳のようなものを生やしたものだったり、額から角を生やしたものだったり、小人のような姿のものだったりとさまざまん人がそのクラスにはいた。
そんなクラスの不穏な会話を聞いて女教師が手をたたきストップさせる。
クラスが一斉に教師に耳を傾け噂話をストップさせた。
彼女たちは浮足立って表情が期待に満ち溢れている。
教師はそんな彼女たちの表情にやれやれと頭を押さえて首を振りながらも教壇に手をついた。
「はーいそこまでです。静かにしなさい、今から彼に入ってきてもらいますから」
一気にクラスが静かになる。
彼女たちの視線はそれでも揺るがず扉の向こうにあった。
教師は扉の向こうの彼とは対面してるので少々大丈夫かとさえ思う気持ちがある。
「では、入ってきなさい。優くん」
「はい」
扉の向こう側からハスキーな男性ボイスが響き渡る。
クラスの女子は一気に心臓が早鐘をうった。
そして、扉が開き中へ入ってきた男性。
顔立ちは周りから見たらイケメンに近い。体つきも平均的でしっかり筋肉もあるようだった。
どこか、知的に思わせる雰囲気。そして、すこし寝癖頭が目立った黒髪に少し袈裟気味に赤いメッシュが入った男性――――龍牙 優 《りゅうが ゆう》は教師の横に立ってお辞儀した。
「龍牙優です、よろしく」
黒板に名前を書いてもう一度お辞儀。そんなしつこい動作でもまじめな印象を与える。
しかし、優の心情は彼女らのことなど一切頭にない。
彼の頭にあるのは「仕事」と一文字だった。
(これが、『俺』がこれから見せてけばいい『仮面』か)
誰にも聞こえることのない心の中だけで呟く。
ただ、かったるい毎日の始まりを考えると堕落する気分。
しかし、彼は「仕事」の文字を心に刻み一切その感情を顔に出さず『仮面』を作り続けた。
「うっそ、まじで」
「男が転校してきた」
「しかもかっこいい」
優はそんな言葉を耳には聞いてるが本人的には自分のルックスは平均以下だと思っているので頭のおかしな女子連中という印象が根づいてしまう。
(女子高の連中はみんなこうなのか?)
思う傍らにしっかりと人間観察を怠らない彼は進められた席へゆっくりと腰を落とした。
(なるほどなぁ、こいつらとまず仲良くなって学校の中の『掃除』を行うか)
クラスの女子はそんな彼の心の言葉など気付かずに騒ぎたてながら優に視線を集中しがん見していた。
恥ずかしげもなくどこを見てるのかわからないという彼の仕草は彼女たちにとってはどうでもよく好奇心だけが募っていく。
朝のチャイムが鳴ったら即座に彼と親しくなって野郎クラスの女子たちはそんな思考しかよぎっていない。
あるいは彼と距離を置いてなるべく接触を避けようと考える者もいた。
(あー、うっぜぇー。視線の集まりはきついぜ。こんな潜入調査はやるんじゃなかった)
そう、そもそも龍牙優がこうなった原因は2日前だった―――