エピローグ
「これでこの話は終わりだよ」
「そぉか、それがオマエの最期なんだな?」
核心的に、『影』はそう尋ねてくる。
なんだ。
「気付いてたのか」
「まぁな、オマエの様なヤツは何人も見てきた」
「そうなのか……」
「でぇえ、オマエは世界を憎んでいるのか?」
そんな質問をされた。どうなのだろう、僕は世界を憎んでいるのか。
「いや、そんなこと、ないよ」
少し自信なさげな返答になってしまった。
「ああ、そんなことない。少なくともあのヒトと遭った今の僕は、世界を恨んでなんかいやしない」
言いなおす。
「はぁあ、今はそのアノヒトってのに遭った話を一番聴きたいんだがな」
また愚痴られる。
「ごめんな、やっぱりその話を僕からする気にはなれないんだ」
だから、と続けて。
「今度は君のことを聴かせてくれよ」
「うぅん?」
「君は、なんて名前なんだい?」
聞いた。
「あぁあ、そう言うことか。名前ならないぜ」
「ないのか?」
少し驚いた、あとで聞こうとずっと思ってたのに。
「ねぇな、まあオマエたちの使う言葉で強いて言うなら、死神ってところか、正確にはやってることが全然違うんだけどな」
「へぇ、どう違うんだ?」
「オレは別に命を刈り取る訳じゃない、ただ意識を誘うだけだ」
「誘うって、あの世へかい?」
あの世があるのか、気になるところではあった。
「いぃや、人はそうやって死後の世界を想像するが、死んでもあの世とか、どこか別の世界に行くなんてことはない。世界は生きようが死のうが常にここにある一つだけだ」
「なんだ、あの世はなかったのか。それじゃあ僕はどこへ誘われるんだ」
「『無』、それだけだ。たった一つしかないこの世界で、死んだオマエらの意識が残り続けたら、世界は混線状態になっちまう」
「つまり、どうなるんだ?」
ここへきていきなり難しい話をし始めた。混線状態は僕の頭の方だ。
「あぁあ? そぉだな。例えば、同じ空間に二人の人間が存在出来ねぇ様に、同じ空間に二つの意識は存在出来ねぇんだよ。もし詰め込みすぎれば、死んでようが生きてようが、混ざり合って、潰し合って、意識が全部ぶっ壊れちまう。だからオマエみたいなヤツをオレが消す必要があるんだ」
はぁ、なるほど。じゃあ、
「僕はあんなつまらない死に方をした上に、またここで消されるのか。まったく、僕の人生はどうしようもなくバッドエンドに繋がっているらしいな」
やれやれ、もう悲しいとも思えない。
「いぃや」
否定され。
「死んだヤツにバッドエンドもグッドエンドもありはしねぇよ。オマエはもう、終わってんだからな」
改めて突き付けられる。自分の死を。
そうだ、僕はもう終わっていたんだ。
だからもう身体のない僕は、五感を失っていて。
だからもう僕には何もできない。
「言っちまえば、今この時間は、クリアしたゲームのエンディングの後にあったおまけ映像みたいなもんだ。オレの役目は――」
言葉を一度区切り。『影』は告げる。
「――そのゲームの電源を切ることだ」
……。
黙って見つめる。何も見えはしないけれど。
流れる沈黙は、終わりが近いことを物語っていた。
「そっか、じゃあもう終わりにしようか?」
「いいのか、悔いはないか?」
「そうだな、もう……いや、やっぱり、最後に生きたいと思わせてくれたあのヒトに、ありがとうを伝えられなかったのが、ちょっと心残りかな」
……。
また沈黙。
僕がそれを静かに破る。
「……ありがとうな」
「はっ?」
いきなりの言葉に意表を衝かれた声を出す『影』。
「話、聴いてくれてさ」
「あぁあ、そういうことか」
「そういうことだ」
これで、出来ることはもう何もないか、それじゃあ。
「……やってくれ」
「ああ、楽しかったぜ、隠田後示。じゃあな」
その言葉を最後に僕は消えた。
伝わるといいな。
本当にありがとう。
どこにも残らない言葉を風に託して。
人込みを歩く一人の女性が、その歩みを止め、どこか遠くを見上げる。
「消えた?」
そう呟くと同時に、少し強めの風が腰に巻いた上着を煽る。
男物の腕時計を巻いた左の手で帽子を押さえながら、風上を見つめ続ける彼女は、周りからは不自然に見えるタイミングで誰もいないどこかへ向けて、「ああ」「じゃあな」と二言零し、またどこかへと歩き去って行った。
不敵な微笑みを風に乗せて。
アタシがちゃんと受け取った。
心の中で、噛みしめながら。
ここまでお読みいただきありがとうございました。こんにちわ、そしておそらくはじめまして、憂木冷です。
この作品は、僕が初めて小説という形で完成させた文章作品です。
はい、下手くそです。本当はもう何本か書いてからこういう場で作品を披露しようと思っていましたが、まあ、こうなりました。
次回作は、今回より必ずいいモノにします。もしよろしければ、また読んでください。




