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LAST DAY  作者: 憂木冷
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二章

 教室の引き戸が、ガラガラと錆びついた音を立てて開かれる。

「ふぅ、なんとかホームルーム中には来れた」

 達成感を顔から滲ませる後示が、少し汚れたワイシャツの袖で額の汗をを拭う。

「おい」

 と、教室の前方から低い音で声がかかった。

「なにをギリギリ間に合ったような空気を漂わせているんだ?」

 そう質問を投げかけたのは、二年二組の担任である白井先生だ。見た目三十代後半、中身も三十代後半の彼は、なかなかに筋肉質な体つきをしており、一見すると怖いおじさんと言う風貌ではあるが、生徒からの人望はそれなりに高い。声は低い。

「えっ?」

「えじゃねぇよっ!」

 チョークが放たれる。

 しかし、漫画でもあるまいし、投げたチョークが額に命中するなんて事もなく。後示の横を通り過ぎ、廊下の壁に激突する。

 爆竹の様な音を立てて激突する。

 そして砕けた欠片がパラパラとリノリウムの光沢を汚す。

 いつの間にできたのだろうか。廊下の壁に弾痕が穿うがたれていた。

「……あの白井先生、訊いてもいいですか?」

「なんだ」

「先生は、また同じ様な失敗しちゃったなぁ、って思った事ありますか?」

「まあ、あるだろうな」

「で、えっと、俺が中学生の時の教頭先生に言われたことなんですけど、『人間は同じ失敗を繰り替えさない生き物なんだよ』って言われたんですよ」

 ほう、と相槌を打ち。

「それで?」

 と、促される。ここまで来て「えっと」と視線を彷徨さまよわせ一瞬の躊躇ためらいを見せる後示だが。

「つまり、先生は人間じゃないですね!」

 言いきって。

 廊下の壁にまた弾痕が一つ増えた。

 ……。

 四十人近い人間が居るというのに、この教室では閑古鳥が鳴いている。いや、後示の中学時代の教頭のげんが真実なのだとすれば、この教室に人間はいないのかもしれないけれど。

 そんなことは流石にないだろうし。

 例えそうだとしても。

 発音機能と言語能力のある生物が四十近くもいることに変わりはないのだから、この教室は静か過ぎるだろう。

「隠田、話を戻すぞ」

 心做こころなしか、普段より声が低い。

「はいっ!」

 素直に従う。

「今はなんの時間だ」

「ホームルームです」

「……そうか。じゃあ、今は何時だ」

 左腕を少し持ち上げて、自分が今腕時計をしていないことを思い出す。

 仕方がないので、黒板の上に架けられた丸い時計の文字盤を目を細めて確認する。

「あぁっと、一一時五〇分くらいですかね」

「そう」

 つまり。

「四限目のロングホームルームの時間だ」


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