プロローグ
一人の高校生の話をしよう。
何のことはない、どこにでもいる高二病の高校二年生の話。
まだ世の中を疑念の目でしか見れなかった頃の、だけど世界に夢を見ていた頃の高校生の話を……。
枕元にある携帯電話のアラーム音が、朝が来たことを告げている。
その音を止める手は、しかしどこからもやって来ない。
一分間孤独に鳴り響き、やがてその役目を終えて静かに黙り込む。そして五分経てばまた、スヌーズ機能によって起床音を鳴り立てる。
その繰り返し。
そうやって毎朝、寿命が切れかけの電池を消費している携帯電話の事なんて誰も知らない。
すぐ隣で寝ている午前六時の彼も、あと二時間は知らん顔して寝ているのだろう。
そろそろ自分が早起きなんて出来ない事に気付いてもいい頃なのだけれど。
まあ、根拠のない自信に満ちている年頃なのかもしれない。
そんな年頃が誰にでもあるのかは知らないが。
もしあったとしたら、世の中はものすごく面倒な事になっているだろうから、誰にでもあるというわけでは、ないのだろう。
誰もが自信に満ち溢れていて。
誰もが自分の正しさを主張して。
誰もが他人の言葉を他人事としてしまうなら。
それは誰もが相容れない 世界になってしまう。
そんな世界も案外いいんじゃないか、と。
この部屋で寝ている彼なら、言ってしまうのだろうけど。
人は一人で生きていて、人は独りで生きるべきだと信じている彼なら。
言ってしまえるのだろうけど。
だがそれは、彼が冷たい人間だという訳ではない。ただ冷めているだけ。
彼が非情な人間だという訳ではない。ただ薄情なだけ。
そして人は、冷めている姿を落ち着いた大人だと言い。
薄情な彼に最後まで騙された。
身近な人間は、誰一人として彼の本音も、本気の想いも聞く事は出来なかった。その事に気付いた者も、いなかった。
いつも友達に囲まれて、笑顔で、素直で、誠実で、一生懸命な、そんな彼の青春は最高なんだろうと。
誰もがそう思っていた。
でもそれは仕方のない事だ。
嘘も貫き通せば、真実になってしまうのだから。
彼の本気があったとすればそこだろう。
最後まで本気で嘘を吐き続けて。
最後に本気で。
後悔をした。




