やさぐれ狼とおっとり悪魔
「今日・・・暇かな?」
授業も終わり、清掃も終わった。帰ろうと鞄から教科書を出しているとクラスメイトの少女、 木下 心に声をかけられた。
「暇っちゃ暇だけど?」
「そっか・・・やっぱり忙しいよねごめんね、急に変なこと言って・・・・。そっか・・・暇か・・じゃあ、いいや。暇なら仕方ないよね・・・って・・・暇なの!?」
「一応ね」
木下 心。
背は小柄で、栗色の髪はふわふわしている。なぜか和む。
澄んだきれいな目をしていて、あまり話したことはないが、天然だと思う。というか、今の言動で天然と確信した。
「そういえば、どうして鞄から教科書を出してるの?」
「置いていくから」
毎回持って帰ったりしていたら、大変だ。
しかし、うちの高校の教師は清掃中に生徒全員の机の中を確認するため、清掃が終わってから教科書を入れなければならない。でも、持って帰ることに比べればマシ。半端なく教科書が多いからだ。
「でさ、暇なんだったら・・・・一緒に・・・帰らない?」
「別に。いいけど」
断る理由もなかったから、そっけなく頷いた。
「本当に!?でも、どうして教科書を置いて帰るの?」
スルーされたと思っていた話題が戻ってきた。
「重いから。ってか何で俺と帰りたいの?」
「だって・・・・椿・・椿 智也君は人間じゃないでしょう?」
こいつは何を言っているんだ・・・・?そして何故あえてフルネームで呼んだ?
「おまえ・・頭おかしいのか?」
「おかしくないよ。だって、私も似てるから」
根拠のない自信にしては、木下は揺らぎない瞳でこちらを見つめる。その瞳を直視できず、話題を変える。
「で、帰るんだろ?早く行くぞ」
「ありがとう!」
木下はとても嬉しそうに微笑んだ。
「私ね、悪魔に育てられたんだ。小さい時に両親を失っちゃったの」
帰り道で突然、木下は話し始める。普通の人ならおかしいとか思うのかもしれないけど、俺は信じる。信じられる理由があったから。
「すっごく優しい悪魔さんでね、将来は私に悪魔として働いてほしかったみたいなんだけど・・・死んじゃったんだ」
何も言わない。聞きたいことは沢山あるけど、今は聞いとく方がいい。そんな気がした。
「でね、その悪魔さんは私に、『あなたは人間に育てられてないから、人間じゃない人とお話しなさい』って言ったんだよね」
「だから木下は俺と?」
「うん。そう」
穏やかに木下は微笑んだ。
「でも、なんで俺が人間じゃないって思ったんだ?」
「乙女の勘?」
「随分アバウトだな」
「シックスセンス」
「言い方変えても同じだろ」
「でも合ってるでしょう?」
木下は道を塞ぐように俺の前に立つ。
「あぁ、合ってるよ。俺は、人間じゃない」
今まで誰にも言わなかった俺の秘密。隠す気には、なれなかった。
「俺は獣人と呼ばれる種族でな」
周囲に人がいないことを確認してから息を吐き出す。と、同時にミシリ・・・と骨の軋む音が聞こえる。
木下は驚いたように俺を見つめる。
「これが俺の、もう一つの姿だ」
かなり大型の狼で、毛並みの色は銀。鋭い牙に眼は血走ったような赤、そのせいか禍々しく感じさせる。
不気味、気持ち悪い、同族にそう言われたのはいつだったか。
そのせいか、昔からこの姿が嫌いだった。変化するのも、人間の状態でも鏡を見るのが辛かったほどに。
「気持ち悪いだろう」
半ば自嘲的に木下に笑いかける。
「か・・・・か・・・・・」
怯えているのか、驚いているだけなのか、木下は声を震わせて言葉を紡ぐ。
「可愛い!!」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「ね、撫でてもいい?」
俺の返事も聞かず、木下は俺の頭を撫でる。
「いや、あの・・・怖いとかないの?」
「なんで?とっても可愛いもん!ね、乗ってもいい?」
「駄目だ!俺は馬じゃないぞ!?」
俺の制止も空しく、背中にしがみついてくる木下。
「こら!降りろって!誰かに見られたら俺が危ないから!」
「どーどー」
「だから馬じゃねえ!!」
この後、通行人に見られて町を全力疾走したことは言うまでもない。
「おま・・・・いい加減にしないと・・・・」
元の姿に戻って、木下を睨みつける。
「すっごく、足速かったね!!疲れちゃった・・・?怒ってる・・・?」
興奮しながら、恐る恐る尋ねてくる表情は、小動物を彷彿させた。
「怒ってる」
「嘘!?」
「嘘」
「嘘か・・・・良かったぁ・・・・また乗せてね!」
そう嬉しそうに話す木下の笑顔は、とても愛らしかった。
この姿も、そう悪くないかもしれない。
「そういえば、お前本当に恐くないの?」
「うん、全然怖くないよ!こんな可愛いワンちゃん怖いなんて言うほうがおかしいよ!すっごく可愛い!尻尾とかふわふわだし!」
「・・・・・・ごめん、俺狼なんだけど」
ずっと前にリクエストされてた作品です!
やっと書きあげた・・・・!
ご感想お待ちしておりますー