命の太さ0.3mm命の濃さHB
こんな生活。
もう嫌だ。
なんでこんなことされなくちゃならないんだ。
なんで僕をいじめるんだ。
消えちゃえばいい。
僕をいじめたやつ全員。
死ねばいいのに!!
「そうか、それならこれをやろう」
ガサゴソ
「これだ」
「・・・シャーペンの芯?」
「これはただのシャーペンの芯じゃない。誰かを思いながらこのシャーペンを折ると、その思った誰かの命を折ったことになるんだ」
「・・・ホ、ホントなの・・・・?」
「ああホントさ。おじさんはウソはつかないからね。それとこれはね、一回折ればやすらかな死を。2回折ればチョット苦しい死を。3回折れば苦しい死を。4回折れば・・・・もうわかるね」
おじさんはニコリと笑った。
「・・・うん」
おじさんは後ろを向いて窓に脚をかける。
最後に振り向いて言った。
「それじゃあね。芯がなくなればそれでおしまいだからね。これでキミは好きな人の命を折ることが出来る」
「ありがとう。あなたのことは忘れない」
振り返ると少年はシャー芯を一本取り出していた。
ポキッ
何の躊躇もなく折った。
「あれ?死なないよ」
おじさんはニコリと笑っていった。
「ふ、人間の命って言っただろ?」
「じゃあ、おじさんはだれ?」
「昔はどの子供も知ってたんだがね。まあ、いつかわかるさ」
「そうですか」
「それじゃあ、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
バッ
その、白いもじゃもじゃしたヒゲを蓄え、赤い服を着たおじさんは白い袋を担いで暗闇に消えて行った。
その日、生まれて初めて明日が楽しみだと思った。
次の日
僕は生まれてはじめて目が覚めたことに感謝した。
机に座る。
机の上には昨日もらった何の変哲もないシャーペンの芯が。
ケースには0.3mm、HBと書かれてる。
しばらくじっと見つめ続ける。
ゆっくりと右手を伸ばし、スライドさせてふたを開ける。
ゆっくりと左手で中から一本取り出す。
そして細長くチョット触っただけで折れそうな棒を見る。
「イトウ・・・」
そう言って静かに机の上に置く。
そしてまた取り出し、
「ミタムラ・・・」
机の上に置く。
取り出す。
「ケンスケ・・・」
置く。
出す。
「ナカムラ・・・」
それを繰り返す。
「ゴトウ・・・」
「スズキ・・・」
「タナベ・・・」
「ワタナベ・・・」
「ウチダ・・・」
机の上にシャー芯がきれいに並ばれていく。
「先生・・・」
「お母さんの中にいる・・・弟」
そうして机の上には38本のシャー芯が並べられた。
それを1つのにまとめる。
するとシャー芯の山がひとつ出来た。
「・・・ふう・・・。」
息を吐き、睨みつけながらゆっくりと上から親指で押さえつける。
ポキ
ポキ
ポキ
ポキ
ボキボキボキッ!!
すべての芯が真っ二つに折れた。
二つに分かれた芯を両手の親指で押しつぶす。
ボギボギボギボキッ!!!
折れた芯を何回も押しつぶす。
ボキボキボキボキッ!!
ボキボキボキボキッ!!
「ハア。ハア」
ボキボキボキボキッ!!
ボキボキボキボキッ!!
ボキボキボキボキッ!!
ボキボキボキボキッ!!
「ああ、ああ・・・ああ・・・!!」
ダンダンダンッ!!!
「ああああ!!!」
ドンドンドンドンッ!!
ドンドンドンドンッ!!
ドンドンドンドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ
「ハア、ハア、ハア・・・」
机の上と両手は真っ黒になっていた。
「キャー!!!!」
お母さんが叫んでいる。
お母さんが床に座り込んでいる。
床は水浸しだ。
「ダメ!!来ちゃダメ!!!」
お母さんの足元には、変な形をした肉の塊があった。
「う、ウウウッ」
お母さんは泣きながら僕を抱きしめた。
「ゴメンネ・・・。ゴメンネ・・・。死んじゃった・・・。赤ちゃん・・・死んじゃった・・・・」
お母さん。
弟を殺したのは僕なんです。
笑いを止めるのに必死だった。
「ここが今回の事件の現場です。目撃者によると野良犬と野良猫が群がっていたのでいつものようにゴミを荒らしているんじゃないかと思い、追い払ったところ、そこにはこの近所に住むイトウくんの変わり果てた姿があったのです・・・」
「クリスマス翌日の今日、小学校に通うウチダちゃんがホームに落下したことに気づかずそこを特急列車が通過したというあまりにも悲惨な事件がありました」
「今日、小学校教師が趣味のスキューバダイビングをオーストラリアでしていたところ、サメに食べられたという事件がありました。事件現場は血の海で、発見できたのは腕一本だけだったそうです。」
「年が明けた今日、バラバラに切断された子供の遺体が発見されました。警察庁の発表によると死亡日は昨年12月の26日前後だそうです」
それから月日は流れ、高校生になった。
毎日が楽しくてしかたがない。
あの頃、こんな日々が来るなんて思いもしなかった。
ああ、幸せだ。
「あれ?アイツは?」
「トイレだって」
「ふ〜ん。シャー芯一本借りようと思ったんだけどな」
「別に借りちゃえば?後で言えばいいんだし」
「そうだな」
まだまだこれからだ。
これからもっといいことが待っているに違いない。
生きるってこういうことだったんだ。
「お、ちょうど一本だけ残ってんじゃん。」
「残り一本じゃ借りちゃダメなんじゃないか?」
「いんや、もう一つケースがちゃんとあるよ」
「じゃあいいんじゃない」
さて、教室に戻るか。
「ねえ」
クラスの女子に呼び止められた。
「ん?」
「そういえばアイツってあの学校出身だったよな」
芯をシャーペンの先から入れようとする。
「そうそう、あれはニュースになったからな」
3分の1まで入れた。
「あのさ、彼女とかって…いる?」
「え、いないけど」
「じゃあさ、なってあげてもいいよっていうかなりたいっていうか・・・」
「あいつもいろいろ苦労して…ハ…ハ…」
未来は、
「ハクショー!!!」
明るい!!!
「やべ、折れちった」
EnD
人を殺しといて幸せに生かしとくはずねえでしょう