古着屋アップル 第10話 短編版
青学の合格発表の時間。
ママと並んでスマホを見つめる。指先が震える。
「時間になったら、ここ押すのよね?」
「うん……」
カウントダウンが始まる。
10秒前。
凛と大学に行きたい。
0秒。
ポチ。
「おめでとうございます! 合格」
「やったー!」
ママと抱き合って跳ねた。涙が止まらない。
すぐに凛から連絡。
「合格した! 詩は?」
「受かったよ!」
蓮からも。
「俺受かったよ。詩は?」
「受かったよ」
胸がじんわり温かくなる。
ただ、湊からは何も来なかった。
――仕方ない。そういう関係じゃないし。
***
パパが帰ってきて、目を潤ませながら言った。
「詩、よく頑張ったな」
「このコートがあったからだよ。ほんとに」
ふと聞いてみた。
「パパの昔のコートってどうしたの?」
「店始めるってやつに返したよ。グレンチェックだったかな」
胸が少しざわついた。
***
湊のこと、蓮のこと、凛のこと。
古着屋で起きた小さな奇跡。
全部があたしを受験へ向かわせてくれた気がした。
***
翌日、凛から連絡。
「明日、蓮と一緒に免許取りに行く」
二人が仲良くなるといいなと思った。
蓮に「待ってて」と言ったこと。
忘れてくれたらいい。
あたしも忘れたふりをする。
そして、あたしは古着屋アップルへ向かった。
バイトのお願いをするために。
***
「いらっしゃいませ。大学決まりましたか?」
店長が笑う。
「はい、青学受かりました」
「それはおめでとう」
「このコートのおかげなんです」
「いやいや、実力ですよ」
バイトの話を切り出すと、店長はうれしそうに頷いた。
「履歴書持ってきて。面接しよう」
奥から現れた若い店員――ユースケ。
全身古着で、ちょっと圧倒される。
面接の日を決めて店を出る。
春の空気が軽い。
コートの季節は終わった。
***
数日後、蓮から連絡。
「湊、青学落ちた。浪人するって。彩葉は上智受かったらしい」
胸が少し痛んだ。でも、気づいた。
――あたしの湊への気持ちは、もう薄くなっていた。
思い通りにならないこともある。
でも、思いもしなかった未来も、ちゃんと待っている。
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