朝から眼福、観察日和
読みに来て下さって、ありがとうございます。
せいばあ、いよいよグレナリア神殿での1日の始まりです。
年寄りの朝は早い……違った。子供の朝は早い。
何処の神殿でも朝は早く、朝まだ明けきらぬ内から、神官達の奉仕は始まる。
手早く身仕度を終えようとしていると、慌ててマルサとアリナがやってきて、後片付けをしてくれた。
昨日ベッドで共寝したイケメンウサギのぬいぐるみが、まだ眠そうに転がっている。
誰が作ってくれたのかは知らないけれど、目付きが、中々、鋭くて格好いい。ふくふくフワフワで男前のピンクのウサギ。
ダーリン、また今夜ね。それまで大人しく待っててちょうだい。
朝一番は、神官や神官見習い達は、皆で揃って、女神様に歌を捧げ祈りを捧げる。
続いて、料理番は朝餉の準備、それ以外の神官や見習い、聖騎士達は朝の鍛練に向かう。
私も共に向かうと、皆にギョッとされた。
いや、セイバーって呼ばれてるじゃない、私(本当は、せいばあ、だけれども)。
「聖バーミア様の略称かと思っていました」
「私の本業は、魔獣退治よ?」
今世の私の母親は大聖女様だけども、父親は聖騎士団団長で、聖剣とやらを使うバリバリの物理の人なんだよ。
私は、特に父親の血を濃く受け継いだらしい。前世では、ただ、ちょっぴり可愛くて(本人談)元気なだけの女(何歳であろうと)だったんだけどねぇ。
第一聖女のマーミア姉様は、母親と同じく結界魔法が得意。
第二聖女のルーミア姉様は、治療が得意。
第三聖女のシーミア姉様は、薬作りが得意。
第四聖女のエーミア姉様は、料理が得意。
おっと、料理料理と侮るなかれ。エーミア姉様の作るエサを食べた家畜達は、牛ならば極上のミルクを出し、羊ならば美しい毛糸となる羊毛、ガチョウは極上の布団の羽毛、馬は豪胆で強い聖馬となる。
さしずめ、男なら絶倫……おっと違った剛健な勇者となるのだ。
恐ろしや、聖女の能力。
まあ、父親が娘の手料理を食べたお陰で、歳の離れた第五聖女が産まれたのは、間違いないらしい。
因みに、新しい聖女となる子供を産んで貰う為の最終手段として、第一聖女の姉様の元に第四聖女の姉様を送り込んだのは、私だ。
聖女としては、残念ながら私はみそっかす。グレナリア神殿の方々には、申し訳ないわよねぇ。
さて、演習場です。
聖騎士だけでなく、神官の皆さんも薄着でお稽古を為さる。と言う事は、あの方も、もれなく参加!ですよねぇ。
「バーミア様、本当に参加なさるんですか?危ないですよ」
ジョナサンが、私の隣で走り込んでいる。ジェラルドは、後方で走りながら段々息が上がっていた。
無理は禁物だからね。ゆっくりおいで。
軽く走り込み、準備運動を終えたセオドア様は、既に組み手を始めていた。
いい身体してるわねぇ!?本当に、70歳を越えてるの!?ビックリだわ。相手は、50代位だろうか。どちらも、かなりキレのいい動きをしている。
だがしかし、セオドア様の無駄のない筋肉は、負けていないのだ。
50代の男は、無駄にたっぷりと筋肉があるが、セオドア様の筋肉は必要のない筋肉はスッキリと削がれている(年齢のせいだとか、言わない!)。
さながら、ギリシャ神話の彫像の様。
そして、体力を極力削がない様に、無駄のない動き。
汗の光る肌!
ああ!汗を拭いて差し上げたい。
眼福っ!!
「えーと、バーミア様……?」
「あ、ごめんなさい。何だった?ジョナサン」
「えーと、お疲れでしたら、休憩します?」
ジョナサンと一緒に柔軟運動をしていた私は、いつの間にかセオドア様に目が釘付けとなり、すっかり身体を動かすのを止めていた。
失敗、失敗。
これじゃあ、ただのスケベなバカ女よね。
ここは一番!セオドア様に良い所を見せなければ。
走り込みを終えたジェラルドは地面に座り込み、すっかりへばっていたので、私は元気なジョナサンに目を付けた。キラーン。フフフフフ。
「手合わせして欲しいんだけど、ジョナサンの得意な得物は何?」
「私は、まだ見習いなので、棒術だよ。剣より、そちらが性に合ってるんだ。武器としては、槍の双方に刃物が付いた双刀槍を目指してるけど、神官なんで関係ないよね」
あはははは。と笑いながら、ジョナサンは、私に棒を一本投げてきた。
「ち、ちょっと待てジョナサン!お前、バーミア様に、何を!?」
「ちょっと、お手並み拝見?」
挑むところよっ!
棒は、少し長いものの手に余る程ではない。ぐるんと回してみるものの、頑丈そうで、私が多少手荒に扱ったとしても問題無さそうだね。
ジョナサンが、向かってくるのを受け流し、一合二合と打ち合い、興に乗ってきた。見習いながらも、彼は中々動きが良い。
段々ヒートアップしてきた私に、焦ったジョナサンは足を滑らせ、体勢を崩し……。
「せいばあ!!何を、やってる!」
怒号が響いた。
恐る恐る声の方を見ると、お怒りの、我がアルテアの第一王子ショータが、こっちを睨んで仁王立ちしていた。
いつの間にか、皆も手を止め、私とジョナサンを見ていた。
セオドア様も、目を丸くして私を見ていた。
やっちまったか、ねぇ?
「セイバー様。ご趣味は?」
「棒術を少々と、後は、光のムチを少々嗜んでおります。オホホホホ」
言えない。言えない。あの方の前では、言えないっ!!
そんな、せいばあの乙女の純情。




