幸せって何だっけ
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回から再び、せいばあの視点にもどります。
マティアと私は、あまりの事に目が点になっていた。
「まさか、こうやって作っていたなんて、思ってもみなかったわ」
私達の目の前で、私用のスープカップを作ってくれているティムは、ニョキっと人差し指の爪を伸ばし、カリカリと表面を引っ掻いて梅の花の模様を彫刻している。
スゴいわねぇ。それにしても、まったく。器用にも程があるよ。
「彫刻刀や工具で彫るよりも、こちらの方が細かく彫れるんです。指先なので、強弱も付けやすいですし」
一心不乱にカリカリしていたティムは、そのまま私達の方も見ずに、カリカリを続けた。
「セイバー様、これはダメです。高価な一点モノになってしまいます。何か他の方法を探さないと」
デザイン係の言うことも、もっともだよ。沢山作らなきゃならないからねぇ。しかも、庶民が購入可能な値段設定で。
ティムも、マグカップ自体はすぐに出来るけれどサイズが均一じゃないし、梅の花の彫刻に時間が掛かるって言ってたし。
うーん?そう言えば前世では昔、祝儀では、升を使って酒を飲んでたっけ。升には焼き印が入っていて……。
私は、デザイン係から紙とペンを受け取ると、升の絵と大まかな設計図を描いた。
「ああ、これなら素早く沢山作れそうですね。コップ自体もそうですが、焼き印を使うんですね。確かに焼き印を使えば、誰でも同じ模様を付ける事が出来ますね」
デザイン係は、焼き印が作りやすいよう簡略化された梅の花のマークを描き出した。
ティムも一緒に設計図を覗き込み、丸いマグカップを作るより、升を作った方が早く出来るし、材料の梅の木材も少なくてすむので、沢山作れると言う。
「じゃあ、今度は鍛冶場の方にも行ってみましょ」
マティアを先頭に鍛冶場に行く途中で、厩舎の近くを通ると、1人の聖騎士が私の名を呼びながら走り寄って来た。どうやら、馬の世話を手伝っていた1人らしい。
「ああ、やっとお会いするする事が、できました。セイバー様、お久しぶりです」
年の頃は15、16歳?かしら。何となく何処かで見た様な可愛い男の子だ。心なしか、軽く涙ぐんでいる気もする。
「?ご免なさい。誰だったかしら。ちょっと覚えていなくて」
私がそう言うと、少年は、泣きそうな顔をした。
「ああ、そうか。セイバー様、私です。グリバードです」
へ?グリバード?
グリバードっていうと、ちょっとばかり顔の造作は整っているけれど、厳ついおっさんの!?
あのおっさんは、一体、何処へ。一見、少女にも見間違えそうな佇まいの、このたおやかな男の子が、どこをどうやったらあのおっさんに育つんだろう。
「この年頃の私は、とにかく筋肉が身に付かなくて。セイバー様には、後何年か後の私を見ていただきたかった。
その頃には、ようやく筋肉が付き始めましたから、今より少しは見映えがするんですが。この頃の私は女の子みたいで、細っこくてちょっと嫌なんですよ」
溜め息を吐いたグリバードは、確かに髪の毛は短いながらも女の子に見間違えられるくらい可愛かった。
「しかも、このサイズの鎧もなくて。聖騎士見習いの服を着るしかないし。踏んだり蹴ったりですよ。せっかく努力に努力を重ねて聖騎士になったというのに」
グリバードは悲しそうだったが、嘆いてもどうにもならない事は、どうにもならない。
「でも、悪い事ばかりでは、ありませんよ。私の本来の年齢では、セイバー様が成人してお子様を産まれた頃には、私は引退も考えねばならない歳になっていたでしょうが、今の年齢ですと、ずっとセイバー様にお供する事が出来ます。
喜ばしい事です!」
いや、他にもあると思うよ。きっと。
「エレシュキガリア様、それが、くろのですの?」
「どうやら、こっぴどくやられたようじゃ。消滅する前に、何とか分身だけ外に吐き出したらしい。まったく、腹立たしい」
「ですが、この状態では、お仕置きをするのもままなりません。本当に、腹立たしい」
「ふむ、出来るのは、これくらいか。ほれほれほれほれ」
エレシュキガリアに遠心分離機の様に再び振り回された、くろの。
これだけふりまわされば、次に復活した時に、性格が、変わってそうな気配がします。




