小さな神官長は、隠し子じゃありません
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、セオドアの視点です。大きな聖騎士2人を従えた偉そうな小さなセオドアが、ずんずんと皇宮を闊歩します。
神官長セオドア side
皇宮は、いつもに増して騒がしかった。廊下を行き交う文官達や女官達が、私とエイブレム、アルテア聖騎士団長を見ては、ビックリした様に立ち止まり、私達が通りすぎると、途端に話に花を咲かせた。
「相変わらず騒がしい宮殿だな。臣下の躾が、なっておらぬ」
「いや、いつもは、ここまで酷くはない。何か、あったのかも知れないな」
アルテア聖騎士団長の言う事は、もっともだ。普段は皇妃である姪が、キチンと仕切っており、ここまで酷い有り様なのは、滅多に見ない。
王妃の補佐官の一人が皇宮内を応接室まで先導する。だが、いつもと違い、皇妃の執務室に隣接する応接室ではなく、今日は少し離れた後宮に近い応接室に、私達は案内された。
「で、お相手は、何処のご令嬢なのかしら。貴方よりも皇太子の息子達にそっくりなのは、王家の家系に繋がるご令嬢が、お相手という事なのかしら」
開口一番、皇妃はニコニコ笑って私の顔を見て頭をなでながら、次にエイブレムの顔を見た。
何の話だ!?
「名前は、何と言うのかしら?初めまして、貴方のおばあ様ですよ」
……誰が?
「私の名前は、セオドアで、お前の叔父だ!莫迦者!連絡が行っていた筈だろうが」
「え……セオドア叔父様!?え?」
どうやら、私達が皇宮に到着した時点で、
『エイブレム様が、隠し子を連れていらっしゃいました』
と言う連絡が来たらしい。
誤報もいいところだ。まったく。
私達が皇宮に入ってから皆が噂していたのも、この件らしい。
「せっかく、せっかく、エイブレムに秘かに嫁がいて隠し子を私に紹介してくれに来たのかと、喜んだのに」
いや、そんな情報、今まで一度も出なかっただろうが。確かに私は皇家の独特の髪色と瞳の色や顔立ちをしているが、見知らぬ者が血縁者を名乗ったら、先ずは疑えよ。
「ルミナリア。大体、私が、この様な姿になった事の次第の報告が、お前に届いていないのか?」
「届いてますよ。ええ、届いてますとも。でも、これとそれとは、話は別ですわ。ああ、何て事。せっかく、エイブレムに息子が居たのかと、喜んでいたのに。幻?幻だったのね」
「いつまでも莫迦な事を言ってないで、エレシュキガリア殿に、お目通りを」
これ見よがしに溜め息を吐いたルミナリアは、私を見て、もう一度溜め息を吐いた。
どれだけ、落胆しているのか。早とちりにも程がある。よくも、これで、国を治めていれるな。
「もうそろそろ、こちらに来る筈よ。
それにしても、あのシワシワの偏屈ジジイの大叔父様が、こんなに可愛い美少年だったなんて。うちの孫達も美少年だけど、いい勝負じゃないかしら。
まあ、イケメンじい様として、確かに年配の婦人達からはかなり人気があったけれど」
「かなり失礼な事を言っているが、中身は、そのままの私だからな。わかっているか?」
もう一度、ルミナリアは、深く溜め息を吐いた。
まったく、腹立たしい。
「エレシュキガリアは、ここのところ機嫌が悪かったそうよ。何でも、お気に入りの従者の1人が、ここ2、3日、行方不明らしくて」
ほほう。従者が、行方不明か。それは、それは。彼女が仕掛けたのか、それとも従者の独断か。
「それは、どんな奴だ?ルミナリア」
「肌の色が浅黒く、黒髪、金の瞳のエキゾチックな感じが女官達に人気な『クロノ』と呼ばれる若い男よ」
黒いバッタの魔人『くろのファージ』。やはり、おそらく奴だな。
すぐにノックの音がして、間もなく侍女を連れたエレシュキガリアがやって来た。
「これはこれは、セオドア殿。えらくお可愛らしくなられたな。ああ、行方不明だったクロノも、どうやら連れてきていただいた様だ。どうも、申し訳ない」
妖艶に微笑むエレシュキガリアは、私を見るなり、そう言った。黒い髪と黒い瞳が美しく、男をそそる艶かしい身体つきも、今の私には何の興味も抱けない。
良いのか悪いのか、男として反応出来ないのは悲しみを通り越して惨めな気分になった。
内心はどうかは知らないが、大聖女様の夫であるアルテア聖騎士団長も、父親のせいで極度の女嫌いになったエイブレムも、凍てつく様な冷たい目でエレシュキガリアを睨めつけている。
「こちらとしては、エレシュキガリア殿に従者をお渡しするわけには、まいりません」
「はて?どの様なわけで、その様な事を?クロノは、妾が魔王だった頃よりの臣下で、この国まで付いて来てくれた忠義者の1人。返して欲しい。
ああ、クロノが、ちょっとばかりおイタをした事を怒っていらっしゃるのか。それは、申し訳ない」
人知を超えた存在である元魔王のエレシュキガリアは、皇帝の側妃となってかなり経つが、未だに人間の感性とは、少しばかり、いや、時によってはかなりずれている。
「勝手に飛び出して、何処に行ったのかと思うておったが、まさか、そなたの所に行っておったとは、のう。
ささ、返してたもれ」
エレシュキガリアは、私に手の平を向けて片手を差し出した。
「エイブレムが、聖バーミア様と結婚しても良いのよ」
「聖バーミア様と私では、歳が違い過ぎる。ムチャを言わないでくれ母上」
「聖バーミア様が大人になる頃には、結婚に対して諦めもつくでしょ」
「何を言うやら。何年経っても、歳の差は変わらんからな。それに、聖バーミア様のお気に入りは、大叔父様だからな」
「え……やだ、変態?って、この姿なら問題ないわね。むしろ、一番可愛いから、有りかしら」
息子のエイブレムの結婚問題に、頭を悩ます皇妃。母親は、息子が幾つになっても、心配です。




