忘れませんから
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、神官長セオドア視点です。
神官長セオドア side
グレナリア神殿が見えてきた。
門の前に、黒い服を着た誰かが立っている。
門の中には、皆が集まっており、セイバー様とセイバー様に抱きついている副神官長が見えた。
あぁん?セイバー様に一体、何をしているんだ。赦されんな。いくらセイバー様が可愛いからとて、触れては、いかん。触れては。
セイバー様は、孫じゃないんだぞ。まったく。
ドンッ
何かが跳んできて、馬車の屋根の上に降り立った。
天井が破壊され、破片が落ちて来る。
「ジェラルド!」
向かい側の座席に座っていたジェラルドに、咄嗟に覆い被さった。
「ちっ!」
私の頭を黒い金属の節くれだった大きな籠手が掴む。私は、そのまま馬車の屋根の上に引き上げられた。
大きな黒いバッタが、私の顔を覗き込んだ。
「じじいの方か。ガキの方が簡単だったんだが」
「神官長様!」
馬車の中からジェラルドの声がした。
身体の中から力が抜けていく。神力を盗られているのか?いや、違うな。
私の顔に、何かが、ぶつかり、小さな爪を立て、しがみついて離れない。
「くそ、邪魔をするなら、お前から時間を貰うぞ」
「僕の過ごした時間が、どれ程あるか知ってる?そんな事をすれば、お前の身体は、僕の時間ではち切れて木っ端微塵になるだろうよ」
衝撃と共に、身体が揺れた。
ブラブラと、バッタに掴まれた頭を中心に身体が振り子の様に揺れる。何かが、どんどん私の中から抜けていった。身体が、少しずつ軽くなっていく。
「セオドア様!嫌だ!忘れちゃ嫌だ!お前、その手を離しなさいっ!」
「ああ、勿論だよ。聖女様。これは、お前を捕まえる為のただの贄だからね」
駄目だ、セイバー様。
「さあ、聖女。お前の時間を食べさせろ」
女神様、セイバー様を御守り下さい。
小さな、聖女様。貴女の、私達の聖女様を。
私は、私の頭を離そうとする手にしがみついた。
何だか判らないが、絶対に駄目だ。
こいつの腕だけは、絶対に離しては、いけない。
私は、ありったけの神力をそいつの手に流し込んだ。
金切り声の様な悲鳴が、頭の中に響く。煩い。煩い。煩い。
逃がすものか!離すものか!
行かせるものか!!
「セオドア様!離れて!お願い、その手を離して」
駄目ですよ。セイバー様。
駄目です。
私の両手の中にあった奴の手が、ズブズブと砕け落ちた。
私の手は掴まる物を失い、私は、落ちていった。
ドサッという軽い音がして、誰かが私を抱き止めてくれた。
「神官長、様?」
ああ、ジェラルドの声がする。
私の顔から何かが飛び退いた。
私を抱き抱えるジェラルドの泣き顔が見えた。天井から落ちて来て、黒い液体で汚れたセイバー様の死にそうな顔が見えた。
「大丈夫ですよ。セイバー様」
「セオ……ドア様?私が、判るの?」
セイバー様は、涙を流し、私をビックリした顔で見た。
「当たり前でしょう。貴女を忘れる事なんて、絶対に出来ませんよ。ただ、眠いだけです。ほら、泣かないで。私の小さな聖女様」
力が、出ない。
奴に吸い盗られた力。
奴に注ぎ込んだ、ありったけの神力。
若い時は、もうちょっと足掻く力もあったんですが。
流石に、寄る年波には敵いません。
すいません。
セイバー様。
ジェラルド。
後は、頼みまし……た……ょ。
「神獣は、投げるものじゃあ、ないんだよ」
次回は、せいばあの視点に戻ります。




