カーバンクルは、食いしん坊
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突然の母親の乱入に、戸惑うジェラルドです。
元皇女のジュリア・ルクスブルグ公爵夫人は、神殿での私の様子見(本人談)と、私の値踏み(ジェラルド談)をされに来たらしい。
私が家具と侍女やメイドについての礼を言うと、ジェラルドに追いたてられる様に帰って行った。
「セイバー様、どうも申し訳ありませんでした。母は、神官長様と会う約束をしていたのですが、急遽、神官長様が皇宮に行ってしまわれた為、母への連絡が間に合わなかったらしいです。
まあ、だからと言って、セイバー様を呼びつけていいと言う訳では、ありませんが」
元皇女なだけに、普通の神官では太刀打ち出来ず、兄である副団長や息子であるジェラルドに連絡が行ったらしい。
「副団長は、お忙しいので、私がこちらに来る事になりました。どうも、母が御迷惑をお掛けしました」
私は別に構わないが、思春期の息子にすれば、母親が自分の職場に来る事は、気恥ずかしいものなんだろう。
執務室に戻った私を待っていたのは、カーバンクルの珠だった。
『せいばあ。調理室で、いい匂いがするんだよ。「食べたい」って言ったら、焼けたら持っていくから、せいばあの所で待っている様に言われたよ』
朝から神殿の探検に出掛けていたカーバンクルは、とうとう、調理室を見つけたらしい。調理担当の神官達は忙しかったのね、きっと。
「ああ、母が領地から送られて来たリンゴとメイプルシロップを持ってきたんですよ。うちの領地の名産品なんです。
アルテアの桜の花も美しいとお聞きしますが、リンゴの花も美しいですよ。いつか、セイバー様にもお見せしたいです」
そう言って、ジェラルドは顔を綻ばせた。そう言う彼も、王位継承権を持っているので何度も命を狙われ、神殿に身を寄せる様になってから、もう何年も領地のリンゴの花を観る事が出来ていないらしい。
「ご存じの通り、私達を殺しても、王妃の子孫以外は、王にはなれないんですが。どうも、わかっていない莫迦が多くて困ります」
この国は、女は、皇帝になれない。不慮の事故や度重なる戦で息子達を失った前の皇帝は、大陸の覇者と呼ばれる今の皇帝を、自分の娘の婿として迎え入れた。
よって、皇帝は正式の皇族では、ない。皇帝は強大な魔力をもち戦上手として恐れられているが、国内に関する事は苦手だ。
政務を執り仕切り、この国を本当に治めているのは、皇妃なのだ。
「ですが、後宮にいらっしゃる方々の中には、この国の制度をわかっていらっしゃらない他の国の方々が多く、私やジョナサンを排除して皇位継承権を皇帝にねだろうと思っていらっしゃるんですよ。
お陰で、我が公爵家では、正当な跡継ぎがいるにも関わらず、姉上が入婿を貰うという、前代未聞の事態になっております」
まあ、お陰で私とジョナサンは、自由にここで暮らせる訳なんですがね。
と、ニコニコしながら、ジェラルドは締め括った。
まあ、この国の真の正統な支配者は皇帝ではなく、皇妃だということは、世情に疎い私でも知っている話だわねぇ。
ジェラルドは、一頻り話すと、私にあたらしいお茶を入れ、調理担当の神官達が焼いているというお菓子を取りに行った。
「何て事だ。そう言う事になってしまったんだね」
カーバンクルが、私のひざの上に丸まると、溜め息を吐いた。
はて?ショータは、何も言ってなかったけれど、このゲームには、カーバンクルが出てくるんだったんだろうか?
私は、実際にこのゲームをプレイしたと言うわけではなく、ショータからゲームの中の話を聞いただけ。
ショータは、ゲームをプレイしていたものの、このゲームの続編の制作を担当していただけなので、このゲーム自体の開発には関わっておらず、詳しい裏設定までは知らない。
まあ、その内、珠については、女神様にでも聞いてみよう。
『いい匂いがするね。さっきのお楽しみのお菓子が焼けたんじゃないかな』
食いしん坊の珠は、鼻をクンクン言わせながら起き上がり、日誌の置いてある執務机に伸び上がり、顎を乗せた。
私はと言えば、今年の分の日誌には目を通し終わったので、セオドア様のお声の幻聴は名残惜しいけれど、休憩して、珠と同じく、おやつに心を飛ばした。
「セイバー様、只今、戻りました。皆で一緒におやつにしましょう!」
元気いっぱいのジョナサンが、ドアを開け、続いて、幻影でもなく、幻聴でもないセオドア様が入ってきた。
「ただいま戻りました。今日のおやつは、『焼きリンゴのメープルシロップがけ』だそうですよ。丁度良く戻って来れて良かったです」
上機嫌のセオドア様の後ろから、セオドア様の外套を持ったジェラルドが、続いて、ワゴンを押したマルサとアリナが現れた。
今は、幸せなおやつの時間だ。
「ジョナサン、こっちは、母上がやって来て大変だったんだぞ」
「あ、ジェラルドも会った?実は、私も皇宮で母上に会ったよ。神殿で、神官長様が皇宮に来ていると聞いて、慌てて皇宮に来たんだって言ってたよ」
「慌てて……ね。こっちは、中々、帰ろうとしないから、一生懸命馬車に押し込んだのに。まったく」
ジョナサンにも、せいばあについて、根掘り葉掘り聞いて帰路に着いた公爵夫人は、結構、ご満悦の様です。




