ネズミ取りは、お上手?
読みに来て下さって、ありがとうございます。
猫ちゃん話が、続いております。
『キャスパリーグ』災厄の猫。この猫が、森から草食動物の魔獣達を追い立てたのだろう。
今回のスタンピードの原因だね、きっと。
「ショータ。キャスパリーグの額に、魔石なんて、付いてたっけ?」
「いや、そんな報告は今まで無いな。神官長、この辺りには、キャスパリーグが、よく出るんですか?」
「初めてですよ。草食動物の魔獣が多いですね。出ても、魔犬ですね。こんな大物が出たと言う報告は、今までありません」
セオドア様も、訝しんだ。
この等級の魔物になると、うちの聖騎士団でも父上か、隊長クラスにならないと、太刀打ち出来ない。どうするかねぇ。
「セオドア様、神官達の光の矢で牽制を、お願いします」
「セイバー様、ダメです。近付くと危ない」
「近付いて、光の網で捕獲します~」
放っておいて、近くの村に被害が出ても困る。魔獣退治は、神官や聖騎士達の仕事の1つだ。
私の後方から、キャスパリーグ目掛けて多数の光の矢が飛ぶ。こちらに向かって走ってきていたキャスパリーグは、慌ててスピードを落とした。
馬車の屋根から飛び降り、キャスパリーグ目掛けて走っていた私の身体が宙に浮いた。
セオドア様だ。
「どれ位、近付けば良いんですか?」
セオドア様が私を小脇に抱えて、走り出した。
「2m位まで近付けば、光の網の射程範囲内です」
光の矢に戸惑っていたキャスパリーグは、狙いを私達に定め、こちらに向かって走り出し、跳躍して飛びかかってきた。
「よし、行け!『光の網』」
私の手から出た光の塊が、大きな網となり、キャスパリーグを覆い、そのまま地面に張り付けた。
キャスパリーグの周りを包む黒い靄が、光の網によって、シュウシュウと音を立てて消えていく。
四肢を光の網に囚われながらも、キャスパリーグは、顔を私に向けた。爛々と光る目が私を睨み、シャアシャアと威嚇の声を立てた。
違う。これは、この子は、キャスパリーグじゃない。
キャスパリーグの身体の黒い靄が少なくなるにつれ、額にある大きな魔石がよく見える様になった。
「魔石、大きな傷がついてますね」
「そうですね。あ、セイバー様、暴れないで下さい。近寄ると危ないですよ」
「セオドア様、下ろしてください」
私は、セオドア様の腕から無理やり抜け出し、キャスパリーグに更に近付いて、じっくり見た。
普通の魔獣は、光の網に囚われると弱ったり、死んでしまったりする。けれども、このキャスパリーグは、網に絡まって身体こそ動かせないが、弱る気配が一向に無かった。
むしろ、目が爛々と輝いている。
魔のモノでは、ないのだ。
「駄目です!セイバー様」
私は、吸い寄せられる様に、キャスパリーグに近付き、その額にある魔石に手を触れた。
魔石は光輝き、私から勝手に神力を引き出し、辺り一面を光に変えた。
「セイバー様!」
セオドア様の声が聞こえた。だけれども、光のせいで、私の側に居た筈の彼の姿も見えない。
光の中心には、黒い靄が身体から消えて小さくなった動物が居た。
猫?犬?鼬?言うなれば、猫が一番近いだろうか(私の願望的には)。その額には、光輝く宝石が嵌め込まれている。
『ご馳走様。美味しかったよ。ありがとう』
食べたわね、私の神力。
『沢山食べたのに、まだ残ってるなんて、スゴいや』
キャスパリーグだったモノを絡め捕っていた光の網も食べられたらしく、すべて消えていた。
「あなた、誰?」
『僕?僕は、アレだよ。額に宝石を持つ神獣。
僕の名を、知ってる?』
「キャスパリーグに化けてた、食いしん坊」
『違うっ!違うからね!化けてなんかいないんだからね!
額の石が傷つけられちゃって、ちょっとばかり混乱してただけだよ』
猫っぽいモノは、地団駄踏んで、必死に弁解していた。
可愛い。何か、凄く可愛いねぇ。
『何か、腹立つ。ニヨニヨしてないで、僕の言う事、聞いてる!?』
「うん。可愛い猫ちゃんだねぇ。毛並みも、艶々で、お耳もピコピコしてて、尻尾も、触ったら気持ち良さそう」
猫っぽいソレは、尻尾を膨らませて、シャーシャー鳴いた。
『猫じゃないよ。カーバンクル!聖なる神獣、カーバンクルだよっ!!』
ああ、そう言えば、そう言う神獣が居たね。
『君、その力と言い、その格好と言い、聖女なんでしょ!?言動が怪しいけど』
怪しいとは、失礼な。れっきとした聖女ですとも。お母様は、由緒正しき神聖国アルテアの大聖女様ですからね。
『それで、その桁外れの神力か。性格には、難有りな気がするけれど。ううっ、背に腹は代えられない。
ちょっと君、僕と契約して貰うよ。じゃないと、折角、元の姿に戻ったのに、僕の神力が足りなさすぎて消滅してしまう』
それは、お腹が空いてるから、ご飯……私の神力を寄越せと?
『まあ、そうだね』
「まあ、ペットに餌をやるのは、飼い主の義務だからねぇ。私の猫になると?」
『カーバンクルだってば!君、身体は子供だけれど、齢は70歳~80さ、ブブッ!にゃにするの!?』
「女の年齢を、むやみやたらと公言するんじゃないわよ!?」
『く、くちきゃら、手をひゃなせ~』
私は、猫……カーバンクルの両頬を思いっきり引っ張ってやった。
姿は見えずとも、セオドア様が側に居るんだよ。滅多な事を言うんじゃないよ?
『もう、厄介な奴』
それは、ご同様よ。
『と、とにかく、君の名前は?』
「せいばあ……あー、バーミアよ」
『せいばあが、魂の名か。せいばあ、僕に名前を付けて』
猫と言えば、タマよね。
「じゃあ、タマ。額に珠を持ってるしね」
『何か、副音声で「猫と言えば……」って聞こえたけど、まあ、いいや「珠」。珠は、欠けることなく真ん丸で。僕は、もう、欠けて、自分を失うのは、真っ平御免だ』
額の宝石が、傷ついたと言う事かな。
『さあ、誓約だよ。僕こと「珠」は、せいばあこと「バーミア」を主とする事を、ここに誓おう。僕に神力のご飯、頂戴ね』
こうして、私は、勝手に珠の主とされた。
「ところで、ネズミ取りは得意なんでしょうね?タマ」
『神獣に、ネズミ取りをさせないでくれる?』
「セオドア様、セオドア様!猫ですよ、猫!」
「え、まあ。猫?ですか」
『そうだ、猫だ。猫なんだからな』
「いや、神獣カーバンクル様でしょうが。神獣のプライドは、何処にやったんです?」
『プライドで、腹は膨れん』
「猫だから、飼ってもいいんですよねぇ」
「いや、猫じゃなくても、神獣様ですから、神殿では誰も反対しませんよ」
「やったぁ。猫!猫よ!よろしくね、タマ」
「ところで、セイバー様とカーバンクル様のどちらが主なんですか?」
「フフっ。人は猫の下僕と、古今東西決まっているのよ。セオドア様」
何せ、お猫様ですから。




