いい男と猫、どちらも取ります
読みに来て下さって、ありがとうございます。
せいばあは、めげません。己の欲望に忠実です。
少し背を丸め、唸り声をあげるティムは、しっぽを振り立ててセオドア様を睨んだ。セオドア様は、片手を上げて聖騎士達を制すると、私をショータに預けた。続いて、カズラを脱いでジェラルドに渡す。
「落ち着きなさい、ティム。誰も、君や聖バーミア様を、皇帝や後宮に渡したりは、しないよ。そんな事は、私が許さない」
袖を捲り、セオドア様は、腰を落として少し前屈みになり、飛び込んで来たティムを受け止め、足を払って転がし、そのまま床に押さえつけた。
「お前は、だんだん大きくなって強くなるね。だが、反対に私は、年を取ってどんどん弱くなっていくよ。お願いだから、落ち着いてくれ」
ゆっくりとティムから手を離したセオドア様は、今度はティムに手を貸して、彼をそのまま床に座らせた。
そして、自分もティムの向かい側に、床の上に座り込んだ。
私はショータの側から離れ、ちょこちょこと歩いて、セオドア様の隣に座り込んだ。
「床の上に座ると、聖女様のドレスが汚れますよ」
座り込んだ私を見て、セオドア様が溜め息を吐いた。
「大丈夫ですよ。今朝、皆さんと一緒に、お掃除をしましたから、きれいです。もし汚れた場合は、マルサの手伝いをして一緒にお洗濯をします」
ここからだと項垂れているティムの旋毛がよく見える。私は、咄嗟に彼の頭を撫でた。
何だか、可愛いねぇ。
「セイバー様。甘やかしては、いけません」
いや、つい。つい、魔が差したんだよ。
私を見て、またもやセオドア様が溜め息を吐いた。私は、セオドア様の頭も撫でてしまった。
セオドア様は、さして嫌がる風でもなく、私を見て微笑んだ。
「本当に、歳をとったものだ。こんな事が、嬉しく感じられる様になってきました。
さて、ティムに対しては、どうしたものか。
こう見えても、ティムは12歳です。
この半獣人の耳としっぽのせいで、恥ずかしがって普段は木工室から外に出てきません。食事は皆と一緒に食堂で取っていますが、隅の席でフードを深く被り、マントでしっぽを隠しています。
大抵の神官達は、何事にも慣れてますので、気にしなくてもいいんですが。後宮では、耳としっぽのせいで、随分と苛められた様です。セイバー様の到着なされた日も、木工作業室に1人ひきこもっていたんでしょう」
仕方がないので、セオドア様の頭を撫でるのを止め、セオドア様とティムを交互に眺めながら、考えた。木工作業室か。
「子供だとて、罪は罪。罰を与えなければ、皆への示しもつきませんし、本人の為にもなりません。さて、どうしたものか。取り敢えず、反省室で、自分の愚かさ加減を反省し、女神様に祈りなさい」
「その前に、ティムに木工作業室と彼の作品を見せて貰いたいんですけど、どうでしょう」
私の言葉にティムは顔を上げ、私の顔を見た。私はじっと彼の顔を見て、ニッコリ微笑んだ。
「まあ、本人不在の間にティムの作っているものを勝手に見るのは、問題がありますからね」
補佐官長のグレンは、ティムの供述から似顔絵を作る為に、人物画を得意とする者を呼びに行った。
残りの私達は、木工作業室に向かった。木工作業室は、畑のすぐ側の小さな小屋の1つだった。
「柵を作ったり、農具の柄を作ったりもするので、こちらに作業小屋があるんです。大きな音も出ますから」
確かに、神殿からは少し離れているね。裏から来たら、誰にも見咎められず作業小屋を訪ねる事も可能だわ。
小屋にかかった鍵を外すと、私とティム、セオドア様、ジョナサン、ジェラルドの5人が中に入った。聖騎士の2人は、外で警備に付いた。
小屋の中は、キレイに整頓され、ノミ等の工具は作業机の上にはなく、キチンと片付けられ、壁に吊るされていた。
ただ、作りかけなのか、手の中に収まる大きさの丸くて細長い物が置かれていた。よく見ると、窓際にも同じ様な物が並んでいる。
「これが、ティムの作る女神像だ」
額に片手を当てた苦悩の表情が、これまた渋みがあって格好いい。
って、セオドア様に見とれている場合じゃなかった。
え~と、これは、何?
「その、何と言うか、ティムは人物像を彫るのは苦手でね」
私は何も言えずに黙った。沈黙を守る事が、いい時も、ある。
じっと女神像(?)を見るのも何なので、私は視線を横にそらした。
「可愛い~これ、可愛い。このコロンとしたフォルムも、側面に彫られた大きな梅の花も、可愛いわねぇ」
それは、木製のマグカップだった。
これこれ、こんなのを求めてたのよ!
「うん。確かに、せいばあが好きそうなマグカップだな。これも、ティム、君が御神木から作ったのかい?」
ティムは、目を輝かせて頷いた。
「彫るだけなら、1日1個出来ます。ただ、このままでは使えません。蜜蝋を塗って乾かさないと」
部屋の隅には、色んな長さの加工していない木が置いてある。これも御神木だわ。
「聖女様が来られると言うので、昨日は朝からプレゼントするマグカップを彫ってたんです。
今日は蜜蝋を塗ろうと思っていた矢先に、マーチンさんがやって来て、あんな話をして。僕は、マグカップを作るのを止めたんだ」
神官長や私やショータは食堂では陶器の食器だったが、他の神官達は木製の食器だった。どうしてだろうと思っていたが、こういう事だったのか。
「セオドア様、ティムが反省室に入ると私の食器が完成しません。これは、私への罰ですか?むしろ、私の食器を作るのを罰にしては、ダメですか?」
ちょっと変な理屈かも知れないけれど、私は、この木製のマグカップや、お皿が仕上がるのが楽しみで仕方ないのよ。
「私達の食器は、シンプルなのにね。聖女様用は、可愛いよね」
「シチューのニンジンも花型だし。食器にも花が付いてるし」
「鳥模様も、可愛いよね。うさぎとかクマでも、いいな」
「ジョナサンって、可愛い物が好きだよな」
「うん。可愛いから、聖バーミア様も好きだよ」
侍女もメイドも、ジョナサンやジェラルドも、せいばあのお世話がしたいのに、せいばあが、殆ど自分でやってしまうのが不服です。




