猫は、大きい方が好みです
読みに来て下さって、ありがとうございます。
猫が好きです。獣人を出すなら、取り敢えず猫科と思ってました。
その子は、虎の獣人だった。
「ティム、何をしたのか言ってごらん」
セオドア様の補佐官長グレンと聖騎士に連れて来られ、大きな身体を小さくし、恐る恐るセオドア様を見た。
「僕が、聖バーミアの乗る台に、切れ目を入れた。まさか、こんなに小さい子だとは、思わなかったんだ……ごめんなさい」
身体は大きくても、おそらく、私とかわらない位の年頃の子供だ。セオドア様とショータに睨まれて、泣きそうになっている。
「どうして、こんな事をしたのか、話してごらん」
セオドア様が、ティムを諭すように言った。ティムは、益々身を縮め、小さな声で話し出した。
「今朝、マーチンさんがやって来て、聖バーミアの話になったんだ。
マーチンさんが、
『聖バーミアは、聖女とは名ばかりの我が儘な悪い女で、自分の国を追い出され、皇帝の新しい奥さんになる為に来たのに、皇宮に行くのを嫌がり、セオドア様の弱みを握って神殿に入り込み、皆を騙してこき使っている。
脅かして、ちょっと怪我をさせれば、本性を現して、怒ってここから出て行くだろう』
そう言って、壇に傷を付けるやり方まで教えてくれた。
もっと大人の女の人だと思ってたんだ。壇は低いから、せいぜい足を捻るだけで大した事ないって、マーチンさんも言ってたし」
ティムは、下を向き、目を泳がせた。
そう言えば、この子は、昨日私が神殿に着いた時に、居なかった。居たら、すぐにわかったわよ。
黄色と黒の斑の髪、頭の上の方に生えた虎の耳、後ろからだれんと垂れた長い黄色と黒の縞々しっぽ。
触りたい。今、項垂れて下を向いている頭を撫でて、いい子いい子して、あの天鵞絨のような耳に触れて撫で回したい。
私は、子猫よりも、ソファーにドデンと偉そうに身体を大きく伸ばす、がっしりした、大きな猫が好きなんだよ。
近所の友達の家で、そんな大きな猫を飼っていたので、しょっちゅう遊びに行っていた。6キロもある巨体が小柄な私の膝に乗ると、すぐに足が痺れてきたが、可愛くて仕方がなかった。
撫でたい。とにかく、撫でて撫でて、いい子いい子してやりたい。
「あー、せいばあ。手をワキワキしない。彼は、猫じゃなくて、虎の半獣人だから、ね。人だからね」
「だって、耳、耳、それにしっぽも。それに、大きくて、可愛いじゃない」
ショータは、私に向かって首を振り、呆れた顔をした。
ティムは、と言えば、大きな身体を出来るだけ縮こませて、私を見てすっかり怯えてプルプルしていた。
とって食べないからね。撫でるだけだからね。ほーら、怖くない、怖くない。
「せいばあ。ティムが怯えているから、止めてやれ。手をワキワキさせて、ニヤニヤするんじゃない。
ところで神官長。マーチンとは、何者ですか」
「いや、初めて耳にする名前だが。うちの者では、ありませんね。グレン、マーチンと言う名前に聞き覚えは?」
セオドア様は、怯えるティムから私を離し私がティムの方に行かないように、私の肩を抱いた。
ああ、ショータが、余計な事を言うからだよ。セオドア様までもが、私を危険人物扱いし始めちゃったじゃないか。
「出入りの業者にも、その様な名前の者は居りません。ティム、そのマーチンとは、どんな奴だ?」
「グレン様、そんな筈は、ありません。マーチンは、神殿に出入りの生活雑貨の業者だと言っていました。僕の彫っている女神の木彫り像を上手だと誉めてくれ、気に入ってくれて、買いたいとまで言ってくれました。
茶色い髪で、何処にでもいる普通の人です。太ってもいないし、痩せてもいない。大きくも小さくもないし」
セオドア様やグレンさんが怪訝な顔になった。いったい全体、どうしたんだい?
「まさか、お前の作った女神像を売ったのか?」
セオドア様の言葉に、ティムは、頭を横に振った。そして、縋る様にセオドア様を見た。
「女神様の御神木で作った女神像ですよ。売れるわけが、ないじゃないですか。神罰が当たりますよ!」
ティムは、プルプル震えて、必死になって反論した。ああ、御神木の倒木は、この子が貰ってたのか。この子が作る女神像とやら、一度見てみたいねぇ。
「そこまでわかってるのなら、どうして聖女を傷つけようとしたのやら。
ティム、聖バーミア様は、女神様の加護を頂いた聖女様だ。私と同じく、女神様の御声も聞くことが出来る御方だぞ。天罰が下るとは、思わなかったのかい?」
ティムは顔を青くし、今にも泣き出しそうだ。
確かに、天罰は、怖いよねぇ。
「ティム、皇帝や後宮について、どう思う?」
「大嫌いです。神官長様、お願いです。僕をあんな所に戻そうとしないで下さい。何でも、しますから」
ティムは、とうとう泣き出してしまった。流れる涙を自分の服の袖で拭き、それでも溢れる涙を止めれず、何度も自分の目を擦った。
「今日、私とこちらのアルテアの第一王子殿下は皇宮と話し合い、聖バーミア様を花嫁ではなく、聖女としてこの国にお迎えする事になった。
ただし、神殿側が聖バーミア様を傷つけた場合、もしくは聖バーミア様が望んだ場合は、聖バーミア様を皇帝の新しい花嫁として後宮に迎える事が出来る。
そう言う約束だ。
ティム。お前は、お前の大嫌いな人と場所とに、この子を行かせても良いと思うかい?」
ティムは、もう一度、自分の袖で涙を拭くと、首を横に大きく何度もブンブン振って、セオドア様を睨み付けた。
「いくらセオドア様でも、こんな小さな女の子を、母や僕の様な目にあわせるなんて、許せない。僕は、僕を後宮から救いだしてくれた大好きな貴方や、大好きな神殿の皆の為に聖バーミア様を傷つけようとした。
だが、セオドア様が、嫌がるこの子を皇帝に後宮に渡そうとするのなら、あなた方全員を敵に回し、この子を拐って逃げてやる」
ティムは、今度はうって代わって闘気を身体に漲らせ、しっぽをピンと上げて膨らませ、唸り始めた。
「ああ、大きな猫ちゃん。ほら、おいで」
「駄目です。セイバー様。ティムは、興奮してますので、近付くと危険です」
「ああ、撫で撫でしたいのに~大っきな可愛い猫ちゃん」
「せいばあ。相手は猫じゃなくて、どう見たって虎だから。神官長、せいばあをしっかり掴まえていて下さいね」
「あら、やだ。私、ひょっとして、セオドア様に抱き締められてる?きゃーっ。やったぁ!」
「せいばあ、残念ながら、それは拘束だからね」
せいばあ、大興奮。仔猫も可愛いですが、でっかい猫も可愛いです。




