グレナリア神殿の秘密
読みに来て下さって、ありがとうございます。
セオドア神官長に見とれながらも、あれもしたい、これもしたいと張り切っている、せいばあです。
応接室に入ると、ショータがお茶を飲んでいた。
「あー、凄いな、このお茶……って、どうしたんだ!?せいばあ」
セオドア様の抱っこで登場した私を見て、ショータは慌ててティーカップをソーサーに置いた。
「立っておられた足元の壇が壊れるように細工されていた。今、犯人を捜索中だ。申し訳ない」
「セオドア様、どうかお気になさらず。ですが、犯人が見つかった折りには、必ずすぐに私に報せて下さい」
セオドア様は、私を抱っこしたままソファーに座った。
「せいばあ、怪我は無いのか?」
ショータが、向かい側の1人用ソファーから乗り出して、私に聞いた。
心配かけて悪いけど、こっちは、今、それ所じゃあないんだ。幸せ充電中だよ。邪魔しないでおくれ。
「大丈夫。怪我は、無いよ。床に落ちる寸前に、セオドア様に助けていただいたからね。本当に、ありがとうございました」
大きな手で、セオドア様が私の頭を撫でてくれた。
「こんな小さな子供に、あんな事をするなんて、とんでもない輩だ。許せないな。怪我は無くても怖かったでしょう?セイバー様」
「セオドア様。ええ、とても」
「白々しい」
私がセオドア様の膝の上からセオドア様をうっとり見上げると、ショータがボソッと呟いた。
「ですが、神官長。あまり甘やかし過ぎも、せいばあの為になりませんので、ご注意を。せいばあの事ですから、毎日の鍛練を欠かす事はないと思いますが。
今朝の様に子供を苛めない様にね、せいばあ。貴女の力は、生半可では無いのだから、キチンと強い相手と組んで、鍛練して下さい」
そこまで言うと、ショータは、カップに口を着けた。途端に、彼の顔が緩んだ。
「ところで、梅の香りがするこの紅茶は?」
「今朝、拾ったばかりの梅の花びらなんだけれど、メイドのマルサが乾燥魔法をマスターしていてね。早速、ハーブティー用に仕上げてくれたのよ。
今、ショータが飲んでいるのは、私と侍女のアリナがブレンドした梅の花びら入り紅茶だね。普通の人には、そちらの方が飲みやすいと思うよ」
アルテアの聖女の嗜みの1つに、独自の聖女印商品の開発というモノがある。アルテアでは五女だった為に、御神木の桜に関する殆どの聖女商品はお姉様にかっさらわれた。
だが、この国では御神木は梅、しかも商品としては、全くの手付かず。
「桜の香りも良いけれど、梅の香りも良いよね。塩漬けの花茶は?」
「持って来た塩で漬け込んだけれど、流石にまだ浅すぎるよ。少し持って帰る?3日は、漬け込んだままにしてね」
「わかった。美味しかったら、こちらでも買い取るよ。それから、今後は神殿同士のやり取りにしよう。アルテア王家が関わると、流石にこちらの皇宮が黙ってないだろう。
大聖女様にお願いして、せいばあのお気に入りのマティア神官の神官部隊を、こちらに寄越すよ」
今までショータが色々と手配をしてくれていた。だが、これからは、頼るわけには、いかないよねぇ。
「これは、どう言うことだ?疲れが吹き飛ぶ。心まで癒される様だ」
アリナが入れてくれたお茶を飲んだセオドア様が、ビックリして目を見開いて言った。
これが、女神様の御神木の力。これを今まで捨てていたんだから、勿体ない話だよ。
「枯れた木や、倒木はどうなされてますか?」
私は、期待を込めて、セオドア様に聞いてみた。
「女神様の木ですから、畏れ多くて処理できず、枯れた木は、そのままに。倒木は、一部を除き、薪の足しにさせて貰っています」
御神木を?薪に?
何て勿体ない!
「枯れた木は、早々に処理して、新しい木を植えられた方が女神様も喜ばれますよ。倒木や枯れた木に関しては、せいばあが何かやりたがっている様なので聞いてやって下さい。
そうそう、薪は、足りてないんでしょうか?」
梅の木以外の木もあるし、寄進も足りているので問題無いらしい。
実はセオドア様は前皇帝陛下の弟で、グレナリア神殿の神官長は、代々、皇子の1人が務める事になっているらしい。
「次代の神官長は、ジェラルドかジョナサンが、務めることになるだろう。彼らは、その為に皇妃様に送り込まれたんだ。ここにいる皇帝の息子達の中では、彼らが一番、実家の力が強いしな」
グレナリア神殿は、昔は普通に神殿だったが、今では一種の孤児院の様になっている。
「後宮で苛められていた皇帝の子供や、皇帝のお手付きとなった母親が死んでしまった子供、他にも色んな理由で行き場の無くなってしまった皇帝の子供達の内、男の子達を引き取っているんだ。
放っておいたら、皇宮の権力争いに巻き込まれたり、何処かの貴族に利用されてしまうからね。ここに入ると同時に、全員、王位継承権を放棄させているんだ。彼らの為にも」
ここは、神殿でありつつ国の施設の1つでもあるのねぇ。
それにしても、そんな彼らの居場所を作ってあげようとしているセオドア様。益々、惚れ直しちゃうよ。
「セイバー様。御神木の倒木や枯れた木を、どうするんです?」
「ククサという異国のマグカップを作りたいの」
「ククサですか?」
「その国では、家族の幸運のお守りなんだそうよ。本来は材料は違う木だし、それを自分達の手で作るんだけれど。女神様の御利益のある木で作れば、凄いお守りができそうでょう?」
「花びらで作ったお茶でさえ、こんなに効力があるのに。御神木で作ったカップで飲めば、更に効果がありそうだな」
「他にも、梅の実で作ったお酒やシロップ、ジャム等が、秋には出来上がるから、女神様を讃えるお祭りを開きたい」
「お祭りですか?良いですね」
「本当は、すぐにでも開きたいのよ。
アルテアでは、桜の花のシーズンにお花見というのがあって、皆で作ったお弁当や、屋台で買った食べ物を桜の花の下でピクニックの様に食べるのよ」
「楽しそうですね」
「せいばあは、キレイに言っているが、実際は酔っぱらいやケンカもあって、かなり大変な行事だ」
梅の花のシーズンは、ちょっと寒いですよね。梅の木は、木自体も桜の木より低いし、ちょっと花見にはしんどいでしょうか?
梅酒や梅シロップのお湯割りを片手に楽しんで欲しい、せいばあです。




