第7話 国会議事堂・地下零層
午前3時12分。
国会議事堂は眠っている――表向きは。
警備記録上、存在しないはずのエレベーターが、
地下深くへと静かに降下していた。
同乗しているのは、国安の六人。
重い沈黙の中、エレベーターは**「B0」**という表示を通り過ぎ、
誰も知らない階層で停止した。
――地下零層。
扉が開くと、そこは近代建築とは思えない空間だった。
石造りの壁、ガス灯を模した照明、古い漢字で刻まれた銘文。
嶺が小さく息を呑む。
「……明治初期の工法です。
国会が建て替えられても、ここだけは残された。」
天野は壁の文字を読む。
「『國之鍵、此処ニ眠ル』……」
神田が低く呟く。
「冗談じゃねえな。
本当に“国家の棺桶”みたいだ。」
通路の先に、三枚の巨大な扉が現れた。
それぞれに刻まれた名。
•アマテラス
•スサノオ
•ツクヨミ
八重樫が前に出る。
「……陛下の鍵は、ここに対応している?」
如月は頷いた。
「三本の鍵は、
扉を開けるためのものではない。
“中に入る資格”を示すものだ。」
黒瀬が顔をしかめる。
「資格って……人間に?」
「そうだ。」
如月の声は重い。
「三権と財政、そして国の象徴。
国家を構成する“意思”が揃った時だけ、
奥へ進める。」
槇村が呟く。
「……完全に思想装置ね。」
天野が床を見て足を止めた。
「……来ている。」
靴跡。
そして、例の翼の紋章。
黒瀬が即座に端末を接続する。
「電力バイパス、
すでに外部から組まれてる。
敵は……ここを“使い慣れている”。」
如月の表情が硬くなる。
「……やはり、〈ツクヨミ〉だ。」
三つの扉の先にあったのは、
円形の巨大な空間だった。
中央には、石の台座。
その上に――何もない。
神田が苛立ちを隠さず言う。
「何も無いじゃねえか」
「違う。」
槇村が震える声で言った。
「“何も無いように見える”だけ。」
台座の周囲、床に刻まれた文様が淡く光り始める。
その瞬間、低い声が響いた。
「……やはり来たか、国安。」
闇の奥から、一人の男が現れた。
黒いスーツ、翼の紋章。
だがその顔は――
如月と、よく似ていた。
「久しぶりだな、統括。」
如月が一歩前に出る。
「……生きていたか。
〈ツクヨミ〉。」
男は微笑んだ。
「“死んだ”ことにされただけだ。
国を守るために、な。」
天野が静かに言う。
「あなたが、すべての始まりか。」
「違う。」
〈ツクヨミ〉は首を振る。
「これは終わらせるための行為だ。」
〈ツクヨミ〉は台座に近づき、語り始めた。
「ここは兵器でも、財宝でもない。
――“国家再定義装置”だ。」
嶺が息を呑む。
「再定義……?」
「国が道を誤った時、
“初期化”するための思想核。
明治政府は、
この国が暴走した時の“最後の歯止め”として作った。」
神田が怒鳴る。
「ふざけるな!
そんなもん、誰が使う!」
〈ツクヨミ〉は静かに答えた。
「……使われるべき時が、来た。」
如月が低く言う。
「だから三日後など待たず、
今夜ここを動かすつもりだったな。」
「君たちが来ることも、想定内だ。」
〈ツクヨミ〉は振り返る。
「問いは一つだ、国安。
この国は、守るに値するか?」
六人の視線が交差する。
守ってきた国家。
信じてきた組織。
そして、隠され続けた“最後の真実”。
夜明けまで、残り――47分。




