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国安事例ーNo.89 神の名を持つ鍵ー  作者:


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4/9

第4話 二つの護り、ひとつの亀裂

午前9時。

 東京はいつも通りの朝を迎えていた。ニュース番組は天気と株価を伝え、街は平穏そのもの。

 だがその裏側で、国安は二つの“神の鍵”を同時に守るため、分断された。



■皇居・宮内庁 警護ライン


 八重樫灯は、皇居内の警護動線を無言で歩いていた。

 表向きは通常警備。しかし実態は、“アマテラス”を狙う未知の敵への完全警戒だ。


 宮内庁警護官の一人が小声で話しかける。


「八重樫さん、昨夜から不審な動きは?」


「……今のところはありません。

 ですが“静かすぎる”のが不自然です。」


 八重樫の視線は、周囲の影に向けられていた。

 敵は必ず来る。

 来ないのではなく、“来る時を選んでいる”。


 その時、八重樫のイヤーピースに短い通信が入る。


『――八重樫、そっちはどうだ』


 如月だ。


「異常なし。ただし、予感があります。

 敵は力攻めでは来ない。」


『同感だ。注意を怠るな。』


 通信が切れ、八重樫は一瞬だけ拳を握りしめた。



■首相官邸・地下動線


 一方、神田竜二は首相官邸の警備責任者と並んで歩いていた。


「SP増員、導線変更、非常時避難ルートの再確認。

 やれることは全部やったな。」


 神田は壁を叩くように言う。


「“正面”は守れても、内部はどうだ?」


 警備責任者が言葉に詰まる。


「……官邸職員は全員、身元確認済みです。」


「“確認済み”が通用しない相手とやり合ってる。

 それを忘れるな。」


 神田の視線は、官邸の奥――

 総理執務室の方向に向けられていた。


 スサノオは、すでに狙われている。



■国安・臨時分析室


 天野、嶺、槇村、黒瀬は、地下の分析室に集まっていた。

 壁一面のモニターには、港湾、空港、金融システム、通信網――

 あらゆる国家インフラのログが流れている。


「槇村、金属粉末の結果は?」


 天野の問いに、槇村が即答する。


「特殊合金。民間流通なし。

 しかも……製造工程が“日本仕様”なの。」


「日本仕様?」


 嶺が身を乗り出す。


「ええ。工具の精度、材質配合、ミクロン単位のズレ……

 国内の防衛関連企業の基準に近い。」


 空気が張り詰める。


 黒瀬がゆっくりと口を開いた。


「……つまりさ。

 ウイング・コードは“外”だけど、

 協力者は“中”にいる可能性が高いってこと。」


 天野は無言でモニターを見つめた。


「内部協力者がいるなら、

 次の動きは“鍵そのもの”じゃないかもしれない。」


「どういう意味?」と嶺。


「鍵を揃える前に、

 守る側を分断・疲弊させる。

 それが合理的だ。」



その時、警告音が鳴った。


「来た!」と黒瀬。


 モニターに、赤い警告が表示される。


《日銀関連システム 一部に異常アクセス》


 天野の声が低くなる。


「……ツクヨミは奪われた。

 それでも“日銀”を揺さぶる理由は?」


 黒瀬がキーボードを叩きながら答える。


「陽動だよ。

 “ツクヨミはここにある”って思わせたい。

 もしくは――」


 言葉を切り、黒瀬は一瞬だけ笑った。


「――別の場所で何かをやる準備。」


■官邸


 同じ頃、首相官邸。


 神田のイヤーピースに、短いノイズが走った。


『……ガ、……神田……』


 如月の声だ。


「統括? どうしました?」


『官邸内部の通信に……

 “0.7秒の遅延”が発生している』


 神田の表情が変わる。


「……通信遅延は、

 **侵入前の“探り”**だ。」


 その瞬間、官邸内の照明が、ほんの一瞬だけ揺れた。


 誰も気づかないほど、微かな違和感。

 だが神田は見逃さなかった。


「……来るぞ。」



港区の倉庫。

 ツクヨミを保管する男たちは、別の映像を見ていた。


 皇居、官邸、日銀。

 それぞれの警備網が、点と線で可視化されている。


 リーダー格の男が、淡々と告げる。


「国安は分断された。

 “守り”に意識を取らせている今が、最も脆い。」


 部下が問う。


「次は、どこを?」


 男は迷わず答えた。


「――首相官邸。

 スサノオを“見せしめ”として揺らす。」


 画面が暗転する。



東京の空は晴れている。

 だが、国の中枢では確実に何かが軋み始めていた。


 二つの鍵は守られている。

 しかし――

 守っているはずの側に、見えない亀裂が生まれていた。


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