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国安事例ーNo.89 神の名を持つ鍵ー  作者:


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第3話 亡霊の影

午前4時。

 空がうっすらと青みを帯び始める頃、加賀谷邸の裏手には冷たい風だけが流れていた。

 国安の六人は、八重樫が見つけた金属片を囲むようにして立っていた。


 小さな翼の意匠が刻まれた金属片――

 それは、かつてヨーロッパの闇社会で噂された秘密部隊、

 **〈ウイング・コード〉**の識別片に酷似していた。


嶺がしゃがみ込み、金属片を慎重に拾い上げる。

 その表情は、いつもより明らかに険しい。


「……ウイング・コードは十年以上前に壊滅したはず。

 国際協力の元で殲滅作戦が行われ、生き残りはゼロと報告されています。」


 天野が眼鏡の奥から鋭い視線を向ける。


「“壊滅した”と報告された部隊が復活しているとすれば、

 今回の事件は“日本だけの問題”に収まらない。」


 黒瀬が腕を組んだ。


「でもこれ、偽装の可能性もあるよ?

 名前を借りて混乱を誘うとかさ。

 実際、こういう“亡霊偽装”は海外諜報戦じゃ常套手段だし。」


 しかし八重樫は、短く静かに否定した。


「……この金属片、使い方を知ってる者しか使えません。

 偽装には“過剰すぎる正確性”があります。」


 その一言に、全員が黙った。


 ただの盗難事件ではない。

 ――国家の奥底に潜む“何か”を狙う、国境を越えた敵がいる。


神田が裏手の壁に近づき、地面を見下ろす。


「ここ……踏み板の跡がある。

 壁を越えたんじゃなくて、上から降りてきたな。」


「ヘリ?」と槇村。


神田は頷く。


「この狭さじゃ普通のヘリは無理だろうけど……

 小型の軍事用“サイレントローター”なら可能だ。」


 嶺がすぐにスマホ端末で周辺の航空情報を確認する。


「……昨夜深夜1時〜2時半の間、

 民間航空の記録に“ノイズ”がありました。

 消された航跡が……一つ。」


 黒瀬が苦笑する。


「空まで消すか……ずいぶん大掛かりだね。

 本気でやってるってことだ。」


全員が揃って如月統括のもとへ戻ると、

 彼は一枚のファイルを開いていた。


「……敵は鍵を奪い、どこかへ運んだ。それは間違いない。

 だが、すぐ国外へは出ていないはずだ。」


 全員が如月を見る。


「理由は?」


 如月は、淡々と答えた。


「“三本”が揃わなければ意味がないからだ。」


 天野の視線が鋭くなる。


「つまり、アマテラスとスサノオ――

 残る二本の鍵も狙われる、と。」


 如月は小さく頷く。


「その通りだ。

 敵は必ず、次の一手を打ってくる。

 まずは鍵の持ち主である二人のSP体制を即時強化する。」


 八重樫が静かに前へ出た。


「私が宮内庁側の護衛と連携を取ります。

 警護課として“陛下の鍵”を守ります。」


 神田も拳を握る。


「じゃあ俺は首相官邸に回る。政治家は狙われやすい。」


 如月は二人に頷き、天野・嶺・槇村・黒瀬には別の任務を告げる。


「お前たちは敵の正体と位置を割り出せ。

 72時間以内に“ツクヨミ”の行方を掴む。」


 その声に、一切の揺れがなかった。


■―暗がりの倉庫


 港区の海沿い。

 貨物用の大型倉庫の一室に、黒い姿の三人が立っていた。


 部屋の中央には、小さな黒いアタッシュケース。

 その中に――

 “ツクヨミ”と呼ばれる銀色の鍵が静かに収まっている。


 その一人が無線で何かを呟く。


「……Phase1、完了。

 Phase2は“本日22時”、予定通り。」


 返ってきたのは、低く、歪んだ声。


『――よくやった。

 残り二つを手に入れろ。

 “三本が揃う時”、計画は始まる。』


 無線の音が途切れ、静寂が落ちる。


 黒いゴーグルの男は、アタッシュケースを見下ろして小さく呟いた。


「……国の心臓を開くのは、我々だ。」


 倉庫の薄光の中で、“ツクヨミ”が妖しく反射した。


加賀谷邸を後にする国安の車両。

 天野は車内で横目を嶺に向ける。


「嶺。ウイング・コード……本当に復活したと思う?」


 嶺は目を細めた。


「……壊滅したというのは“表向き”の話ですよ。

 闇は、いつも表では死なない。

 生き残っていたとすれば――日本を狙う理由はひとつ。」


「理由?」


 嶺は静かに言った。


「この国にしか“存在しない何か”を手に入れるためです。」


 その言葉は、暗い車内に静かに沈んだ。


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