第1話 招集
東京・霞が関。冬の夜は金属のように冷え、国会議事堂の白亜の壁面には薄く霧がかかっていた。深夜一時。警視庁のとある回線に、一本の暗号化通信が走る。
発信元は、警視庁内でも極めて限られた者しか存在を知らない部署――国家安全保証課(国安)。
受信した瞬間、その合図を待つ者たちの携帯端末が静かに点滅する。一般の警察官とは違う、国家そのものを守る影の専門家たち。
闇の中を静かに動き出す者が六人。
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■警視庁地下 特殊会議室
会議室には窓がない。防音、電磁遮断、電力系統独立。
明治時代から形を変え継承されてきた国安の“心臓部”だ。
先に姿を見せたのは、国安の統括官 如月直哉、五十代後半。白髪混じりの髪と鋭い双眸が印象的な男だ。
如月の前に、六人の影が揃う。
●メンバー
•天野司 — 警視庁公安部所属。情報分析・諜報活動のスペシャリスト。冷静沈着で無表情。
•神田竜二 — 機動捜査隊。近接格闘と強襲任務のプロ。豪放で喧嘩っ早い。
•槇村紗希 — 科捜研。化学分析、微物鑑定、爆発物処理までこなす天才肌の女性。
•黒瀬圭吾 — サイバー犯罪対策課。ハッキング・暗号解析の鬼才。皮肉屋。
•嶺大和 — 外事課。語学・国際交渉・潜入捜査のエキスパート。柔らかい物腰。
•八重樫灯 — 警護課SP。射撃・護衛・追尾技術に優れる精鋭。無口で任務最優先。
如月がゆっくりとメンバーを見渡す。
「――今夜、国家が“揺らいだ”。」
短い言葉に、緊張が走った。
「つい先ほど、日銀総裁・加賀谷の自宅が襲撃された。犯人は高度なプロ集団だ。
彼らの目的は金品ではない……“ツクヨミ”の鍵だ。」
天野が眉をわずかに動かす。
「確認は?」
「総裁本人が意識を取り戻し、『鍵を奪われた』と証言している。
そして――犯人は鍵の存在を知っていた。これは内部情報の漏洩と見ていい。」
国の象徴・天皇が持つ「アマテラス」。
総理が持つ「スサノオ」。
そして財務の長が持つ「ツクヨミ」。
本来その三本が揃わなければ開かない。
国会議事堂地下の“禁じられた部屋”。
その場所が何なのか、国安のメンバーですら知らない。
ただし「国家存亡に直結する何か」が封じられている、ということだけは伝わっている。
如月はテーブル中央のケースを開き、赤いタグの文書を取り出した。
「国安事例番号 No.89。
任務内容――『“ツクヨミ”の奪還、および犯行組織の特定と制圧』。
同時に、残る二本の“神の鍵”の護持。
……国家非常レベルは“準最高”だ。」
神田が腕を組む。
「犯人グループの目星は?」
「まだない。しかし加賀谷宅の監視カメラが“完全に”消されていた。黒瀬、すぐ復元に取りかかれ。」
黒瀬はニヤッと笑った。
「了解。消されたってことは、逆に“痕跡を残してる”ってことだからね。」
如月は続けた。
「全員、今夜から表の職務は凍結。身分は国安に一本化される。
各自、準備が済み次第、特別車輛で現場へ向かえ。
これは……“国安創設以来、最大級の危機”だ。」
静かに息を飲む六人。
明治の時代から続く影の組織は、滅多に動かない。
しかし動く時、それは国家の黒い心臓にメスを入れる瞬間。
如月が最後に呟く。
「――鍵を奪われたということは、敵は“部屋を開ける方法”を知っている可能性がある。
もし三本が揃えば……何が起きるかは分からない。」
その不穏な言葉を背に、メンバーたちは静かに動き出す。
車両で向かう先は、加賀谷総裁の邸宅。
闇の中で、国安の六人はそれぞれの武器を手にする。
国家にとって最も危険な事件――
**“神の名を持つ鍵”**を巡る影の戦いが、今始まった。




