閑話3:大商人の過去と恩義
大商人エルネストは、かつて自身も貧しい孤児であった。
薄汚れた路地裏。冷たい雨が降り注ぎ、飢えと寒さが、幼いエルネストの体を蝕んでいた。
食べ物を求めて街中をさまよったが、誰も彼に手を差し伸べてはくれない。
このまま、明日をも知れぬ日々を過ごし、やがては力尽きてしまうのだろうか。
エルネストは、絶望の淵にいた。
その時、一人の老いた商人が、彼の前に現れた。
「坊主、そんなところで何をしている?」
商人は、エルネストのガリガリに痩せ細った体を見て、何も言わずに温かいスープとパンを差し出した。
エルネストは、震える手でそれを受け取り、無我夢中で食べた。
生まれて初めて口にした温かい食事は、彼の体だけでなく、心をも温めてくれた。
「…ありがとう」
エルネストが、か細い声で礼を言うと、商人は優しく微笑んだ。
「お前さんには、商いの才がある。その目を見れば分かる」
商人は、エルネストの瞳の奥に、類まれな商才の片鱗を見抜いていたのだ。
商人は、エルネストを弟子として引き取り、商売のいろはを教え始めた。
エルネストは、商売の奥深さに魅了され、その才能をいかんなく発揮していく。
彼は、商人のもとで多くのことを学び、やがては彼自身が大商人と呼ばれる存在へと成長した。
しかし、エルネストは、ずっと疑問に思っていたことがあった。
「師匠は、なぜ、何も持たない僕を助けてくれたのですか? 僕には、返すものなど何もありませんでした」
師匠は、遠い目をして、静かに語り始めた。
「私も、若い頃、お前さんと同じように困っていたことがあった。その時、見ず知らずの誰かに助けられたのだ」
師匠は続けた。
「恩は、受けた相手に返すものではない。次に困っている人に、同じように与えるものなのだ。そうすることで、恩は、次の世代へと繋がっていく」
師匠は、エルネストに「恩送り」の精神を教えたのだ。
エルネストは、師匠から受けた恩義を胸に、大商人として成功を収めた。
そして、彼は、セレスティーナと子供たちという、かつての自分と同じ境遇の者たちと出会った。
彼は、師匠から受けた恩を、今度は彼らに「恩送り」しようと、静かに決意したのだった。




