第三話:家族になるための第一歩
子供たちが食事を終えると、セレスティーナは彼ら一人ひとりに向き合い、話を聞くことにした。
前世で学んだ心理学の知識が、このときほど役に立つと感じたことはない。
「あなたたちの悩みは、食事だけではないでしょう?」
セレスティーナの問いかけに、子供たちは一瞬怯えたような表情を見せたが、やがて、小さな声で話し始めた。
魔力暴走を起こして「忌み子」とされた少年、ルカ。
栄養失調で病弱な少女、リリィ。
貴族に虐げられ、暴力的になった少年、ハンス。
彼らの話を聞きながら、セレスティーナは彼らが「忌み子」と呼ばれる理由を理解した。
同時に、彼らが持っている才能の片鱗にも気づいていく。
ルカは、自身の魔力を制御できず、暴走させてしまうことに怯えていた。
セレスティーナは、彼の話を聞き、前世で学んだ呼吸法を教えた。
「魔力は、貴方の感情に左右されるわ。まずは、心を落ち着かせ、ゆっくりと呼吸を整えるのよ」
ルカは、セレスティーナの言葉通りに呼吸法を実践すると、徐々に魔力の暴走が治まっていくのを感じた。
彼の魔力は、攻撃的なものではなく、防御や回復に特化した、温かい魔力だった。
セレスティーナは、その才能を伸ばす手助けをすることを決意した。
リリィは、極度の栄養失調で、体も心も弱っていた。
セレスティーナは、彼女のために、食事だけでなく、薬草の知識を教えてあげた。
すると、リリィは、薬草の名前や効能をあっという間に覚えてしまった。
それだけでなく、どの薬草がどれくらいの価値があるのかを、直感的に理解する才能の片鱗を見せた。
セレスティーナは、彼女の類まれな商才に気づき、ノートに記された経済学の知識を教え始めた。
ハンスは、貴族に虐げられた過去から、誰に対しても心を開かず、暴力的になっていた。
しかし、その力は、正しく使えば、誰かを守るための「力」になりうる。
セレスティーナは、彼に剣術の基礎を教え始めた。
「力は、誰かを傷つけるために使うのではないわ。大切なものを守るために使うのよ」
セレスティーナの言葉に、ハンスの瞳の奥に、かすかに光が灯った。
セレスティーナは、子供たちと向き合う日々の中で、彼らが単なる「忌み子」ではないことを確信する。
彼らは、それぞれが秘めた才能を持つ、かけがえのない存在なのだ。
食事を共にし、学びを分かち合ううちに、孤児院は、埃まみれの古びた建物から、温かい、家族の居場所へと変わっていった。
そして、セレスティーナもまた、この子供たちとの出会いを経て、追放された絶望から立ち直り、「生きる意味」を見出し始めていた。
彼らがいたからこそ、わたくしは、この過酷な状況から立ち直ることができた。
彼らは、もはやわたくしにとって、守るべき存在ではなく、かけがえのない「家族」となった。
登場人物紹介(第三話時点)
セレスティーナ・フォン・エトワール
侯爵令嬢。前世の知識(管理栄養士、心理学)を活かし、子供たち一人ひとりの才能を見つけ、伸ばし始める。彼らを「家族」と確信する。
ルカ
魔力暴走で「忌み子」とされた少年。セレスティーナに魔力を制御する呼吸法を教わり、才能を開花させる。
リリィ
栄養失調で病弱な少女。セレスティーナの食事で健康を取り戻し、類まれな商才を発揮し始める。
ハンス
貴族に虐げられ、暴力的になった少年。セレスティーナに「力」の正しい使い方を教わり、剣術を学び始める。