第十五話:公爵の秘策と、騎士の予感
グロース公爵は、不正が暴かれ、失脚が決まった後も、その表情に一切の動揺を見せていなかった。彼は、レオナルドの追及に対し、不敵な笑みを浮かべていた。
「…私の失脚が、それほどまでに嬉しいか、レオナルド殿下よ」
「貴様は、国賊だ! その罪、必ず償ってもらう!」
レオナルドの怒りに満ちた声にも、公爵はどこ吹く風だった。
「私は、何も失ってはいない。私の失脚こそが、王家への復讐計画の一部であったのだからな」
公爵の言葉に、レオナルドは息をのんだ。
エミリアの自白で知った軍事機密の流出は、公爵の計画の序章に過ぎなかったのだ。
「私は、王国の軍事機密(魔物をコントロールする術)を隣国に流していた」
公爵は、そう言って高らかに笑う。
「いずれ、隣国は、その術を用いて魔物の大群を操り、この王都に攻め込んでくるだろう。その時、王家は滅び、私の復讐は完遂するのだ!」
公爵の真の目的は、王家への復讐であり、そのための切り札として、魔物を操る術を隣国に与えていたのだ。
同じ頃、王都を離れたディランは、グロース公爵が失脚したという報せを聞き、安堵していた。しかし、彼の騎士としての勘が、この件にはまだ続きがあることを告げていた。
ディランは、レオナルドが話した公爵の不正の内容を思い返す。王家の軍事機密を隣国に流出させていたという事実。
なぜ、今このタイミングで失脚したのか。
そして、なぜ、公爵はあんなにも平然としていられたのか。
ディランは、自身の持つ情報と公爵の行動を結びつけ、彼の真の目的を察知した。
グロース公爵は、自らの失脚と引き換えに、王国に壊滅的な打撃を与えようとしているのだ。
ディランは、王都に迫りくる新たな危機を予感し、セレスティーナと子供たちを守るために、さらなる力を手に入れることを決意した。
登場人物紹介(第十五話時点)
グロース公爵
エミリアの父。王家への復讐を企て、王国の軍事機密(魔物をコントロールする術)を隣国に流していた。自身の失脚が、復讐計画の一部であったことを明かす。
ディラン
セレスティーナの騎士。グロース公爵の真の目的と、王国に迫りくる危機を察知する。
レオナルド
第二王子。グロース公爵の真の目的を聞き、愕然とする。